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婚約破棄の落とし穴
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三年が経ち、シトロン伯爵と婚約を交わし――幸せな日々が続いていた。
お屋敷の花園をひとりで眺めていると、緑色のゴブリンがいつの間にか侵入し、庭に悪戯をしていた。……そういえば、最近『穴掘りゴブリン』という民家やお屋敷に侵入して深い穴を掘るモンスターが出現しているらしいと噂になっていた。
相当な人的被害も出ているとか。
でも聖女であるわたしは、そのモンスター特有の邪悪な気配を感知できるから、その独特の気配も分かるし、罠が置かれている場所も理解出来た。何故なら罠にもその邪悪の残り香が漂うからだ。
このままだと危険だし、邪悪なモンスターを『聖なる力』で対処する事にした。両手に力を篭めると光が宿る。輝くと同時にモンスターは一目散に逃げていく――。
「ふぅ。良かった……お花に被害はないみたい。……あ、でも地面が掘られてるかも」
安堵しているとお屋敷の中から人の気配がして、それがシトロン伯爵だと気付く。
「……やあ、セレネ」
なんだか沈んだ表情をしていらっしゃる。……らしくない。
「ど、どうされたのですか? もしかして、ゴブリン……」
「……セレネ。話があるんだ」
「話、ですか」
「ああ……僕と婚約をして三日経ったよね」
その通り、長い年月を経てようやく実を結んだ。ここまで苦労も絶えなかったけど、伯爵の方から告げてくれた。だから、わたしは……ちょっと待って。なんでそんな寂しそうな顔をしているの?
「あの、まさか……」
「大変言いにくいんだが……セレネ、婚約破棄してくれないか」
「!? どうして……なんでそんな事を言うんですか」
「僕は君の妹……リセの方が好きになってしまった……。昨晩は僕の部屋に連れ込んでベッドの上で愛し合っていたんだ……体の相性も最高だったよ。それに比べてセレネ、君には愛が感じられなかった。まるで人形のようで……つまらなかったんだ」
……嘘。寄りにもよって妹で……隣の部屋でなんて……。わたしはずっと伯爵を愛していたのに……最悪。
彼はそのまま庭の方へ歩いていく。
……そっちは先ほど『穴掘りゴブリン』が穴を掘っていたような……。呼び止めようとした時には遅かった。彼は気づかず穴に転落。頭を強く打ったようで、そのまま帰らぬ人となった……。
それから、わたしは妹と絶縁した。
彼女も数日後……庭を散歩中、ゴブリンの作った落とし穴の罠に落ち、行方不明になったらしい。
そうして、わたしは穴に落ちる事なく、優しい公爵様と出逢い――本当の幸せを掴んだ。
お屋敷の花園をひとりで眺めていると、緑色のゴブリンがいつの間にか侵入し、庭に悪戯をしていた。……そういえば、最近『穴掘りゴブリン』という民家やお屋敷に侵入して深い穴を掘るモンスターが出現しているらしいと噂になっていた。
相当な人的被害も出ているとか。
でも聖女であるわたしは、そのモンスター特有の邪悪な気配を感知できるから、その独特の気配も分かるし、罠が置かれている場所も理解出来た。何故なら罠にもその邪悪の残り香が漂うからだ。
このままだと危険だし、邪悪なモンスターを『聖なる力』で対処する事にした。両手に力を篭めると光が宿る。輝くと同時にモンスターは一目散に逃げていく――。
「ふぅ。良かった……お花に被害はないみたい。……あ、でも地面が掘られてるかも」
安堵しているとお屋敷の中から人の気配がして、それがシトロン伯爵だと気付く。
「……やあ、セレネ」
なんだか沈んだ表情をしていらっしゃる。……らしくない。
「ど、どうされたのですか? もしかして、ゴブリン……」
「……セレネ。話があるんだ」
「話、ですか」
「ああ……僕と婚約をして三日経ったよね」
その通り、長い年月を経てようやく実を結んだ。ここまで苦労も絶えなかったけど、伯爵の方から告げてくれた。だから、わたしは……ちょっと待って。なんでそんな寂しそうな顔をしているの?
「あの、まさか……」
「大変言いにくいんだが……セレネ、婚約破棄してくれないか」
「!? どうして……なんでそんな事を言うんですか」
「僕は君の妹……リセの方が好きになってしまった……。昨晩は僕の部屋に連れ込んでベッドの上で愛し合っていたんだ……体の相性も最高だったよ。それに比べてセレネ、君には愛が感じられなかった。まるで人形のようで……つまらなかったんだ」
……嘘。寄りにもよって妹で……隣の部屋でなんて……。わたしはずっと伯爵を愛していたのに……最悪。
彼はそのまま庭の方へ歩いていく。
……そっちは先ほど『穴掘りゴブリン』が穴を掘っていたような……。呼び止めようとした時には遅かった。彼は気づかず穴に転落。頭を強く打ったようで、そのまま帰らぬ人となった……。
それから、わたしは妹と絶縁した。
彼女も数日後……庭を散歩中、ゴブリンの作った落とし穴の罠に落ち、行方不明になったらしい。
そうして、わたしは穴に落ちる事なく、優しい公爵様と出逢い――本当の幸せを掴んだ。
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