上 下
23 / 26
死者の愛

地下室にて

しおりを挟む
 日は傾き始め、夕焼けが広がり始めていた。

「そろそろ夜ですね」
「ああ、となるとゾンビも動き始めるかもね」
「やっぱり、夜なんですね」
「ああ、アンデッドは夜になると活発になる。もう外には出ない方がいいだろう。地下へ行こう」

 エドウィン様の提案を受け入れ、地下へ潜る。それほど広くはない、けれど二人で暮らすには十分なスペース。わたし好みの本が揃えられている本棚。
 豪華な家具やテーブル、それと椅子。食料もたくさんあって一ヶ月は持つという。ベッドは二人用のツインベッド。

 チェスやトランプもあって、暇つぶしも十分にあった。エドウィン様は、万が一を考えてこのような地下シェルターを趣味・・で作ったようだった。
 それがこのような形で役に立つとは思わなかったけれど、でも嬉しくもあった。こうして安全な場所で二人きりになれる……こんな幸せな事はないと思った。


「今日は静かに過ごしましょう」
「そうだな。直に食事となる。そろそろ――」


 コンコンと扉をノックする音が響く。きっとメイドのコーディリアが食事を運んで来たに違いない。エドウィン様が扉へ向かう。

 何重ものロックを解除し、重い扉を開かれる。すると……


『……アアァァ……』


 そこには顔や腕の皮膚が剥がれ落ちたゾンビ・・・の姿があった。


「うわッ!!」
「エドウィン様!」


 急いで扉を閉めるけれど、ゾンビの勢いも凄まじかった。なんて力なの……! まるで意思を持っているかのように扉を強引に開けようとしていた。

 まって……本当に知性を持っているの? そうでなければ、あんな扉を開けるなんて動作しないはずよ。


「す、凄い力だ! ミランダ、手伝ってくれ」
「わ、分かりました!」


 急いで扉に向かって閉めようとする。けれど、物凄い力が押してくる。こ、こんなの……わたくしの細腕では無理よ。


「ミランダ、諦めるな。ここを閉めさえすれば……僕達は助かるんだ」
「は……はい!」


 エドウィン様は、決して諦めず必死に扉を閉めようとしていた。わたくしも、それに続く。力の限り扉を閉めていく。


『…………グ!』


 でも、それでもゾンビの力は強く……ついに扉は抉じ開けられてしまった。


「きゃっ……」
「ミランダ!」


 わたくしとエドウィン様は、床に転がる。扉の向こうからは、背の高い大きなゾンビがゆくりと侵入してきていた。……どうして、こんな場所まで。

 このままだと、わたくしが本当にエドウィン様を感染させてしまう。そんなのは絶対に嫌よ!!


 そんな事になるくらいなら、死んだ方がマシ……死んだ、方が?


「…………そっか」


 わたくしには『死んだふり』があるじゃない。この力を一時的にでもエドウィン様にも付与できないかしら。そんな発想が浮かんだ。


「ミランダ……このまだとあのゾンビに殺されるだろう。僕が時間を稼ぐ……だから、その隙に逃げてくれないか」
「いいえ、その必要はありません」
「何を言うんだ」

「わたくしの力を信じて下さい」
「…………ミランダ。ああ、僕はいつだって君を信じている。世界一、愛しているからね」

 その言葉でたくさんの勇気を貰った。……きっと今なら『死んだふり』を彼にも共有できるはず。愛の力で!


 伏せたまま彼の手を握り、わたくしは念じて『死んだふり』を使った。いつもとは違うエナジーが体を巡っていく。それは次第にエドウィン様にも流れ込んでいった。


「……こ、これは」
「ミランダから力が……あれ、僕……意識が」


 まるで本当に死んでしまったみたいに、エドウィン様は仮死状態・・・・になった。わたくしも同じような状態に陥る。


『………』


 ゾンビが目の前にやって来る。
 それはこちらを見下し、観察しているようだった。……怖い。


『なんだ、死んでしまったではナイカ。占い師のヤツ、話が違う……! オレは、ミランダが欲しかったのに……ヤツを信じたオレがバカだった。もういい、人間のミランダが手に入らないなら、どうでもいい!! 我々の仲間にしてもそれはミランダではないのだからな……占い師、覚えておけ!!』


 ゾンビが喋った……。
 しかも『占い師』って言った……まさか、これを仕組んだのは『シコラクス』なの……? だとすれば、それは占いではなく……計画的犯行では……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【 完 】転移魔法を強要させられた上に婚約破棄されました。だけど私の元に宮廷魔術師が現れたんです

菊池 快晴
恋愛
公爵令嬢レムリは、魔法が使えないことを理由に婚約破棄を言い渡される。 自分を虐げてきた義妹、エリアスの思惑によりレムリは、国民からは残虐な令嬢だと誤解され軽蔑されていた。 生きている価値を見失ったレムリは、人生を終わらせようと展望台から身を投げようとする。 しかし、そんなレムリの命を救ったのは他国の宮廷魔術師アズライトだった。 そんな彼から街の案内を頼まれ、病に困っている国民を助けるアズライトの姿を見ていくうちに真実の愛を知る――。 この話は、行き場を失った公爵令嬢が強欲な宮廷魔術師と出会い、ざまあして幸せになるお話です。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

「庶子」と私を馬鹿にする姉の婚約者はザマァされました~「え?!」

ミカン♬
恋愛
コレットは庶子である。12歳の時にやっと母娘で父の伯爵家に迎え入れられた。 姉のロザリンは戸惑いながらもコレットを受け入れて幸せになれると思えたのだが、姉の婚約者セオドアはコレットを「庶子」とバカにしてうざい。 ロザリンとセオドア18歳、コレット16歳の時に大事件が起こる。ロザリンが婚約破棄をセオドアに突き付けたのだ。対して姉を溺愛するセオドアは簡単に受け入れなかった。 姉妹の運命は?庶子のコレットはどうなる? 姉の婚約者はオレ様のキモくて嫌なヤツです。不快に思われたらブラウザーバックをお願いします。 世界観はフワッとしたありふれたお話ですが、ヒマつぶしに読んでいただけると嬉しいです。 他サイトにも掲載。 完結後に手直しした部分があります。内容に変化はありません。

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

聖女に巻き込まれた、愛されなかった彼女の話

下菊みこと
恋愛
転生聖女に嵌められた現地主人公が幸せになるだけ。 主人公は誰にも愛されなかった。そんな彼女が幸せになるためには過去彼女を愛さなかった人々への制裁が必要なのである。 小説家になろう様でも投稿しています。

執着はありません。婚約者の座、譲りますよ

四季
恋愛
ニーナには婚約者がいる。 カインという青年である。 彼は周囲の人たちにはとても親切だが、実は裏の顔があって……。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

婚約破棄された令嬢が呆然としてる間に、周囲の人達が王子を論破してくれました

マーサ
恋愛
国王在位15年を祝うパーティの場で、第1王子であるアルベールから婚約破棄を宣告された侯爵令嬢オルタンス。 真意を問いただそうとした瞬間、隣国の王太子や第2王子、学友たちまでアルベールに反論し始め、オルタンスが一言も話さないまま事態は収束に向かっていく…。

処理中です...