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死者の愛
地下室にて
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日は傾き始め、夕焼けが広がり始めていた。
「そろそろ夜ですね」
「ああ、となるとゾンビも動き始めるかもね」
「やっぱり、夜なんですね」
「ああ、アンデッドは夜になると活発になる。もう外には出ない方がいいだろう。地下へ行こう」
エドウィン様の提案を受け入れ、地下へ潜る。それほど広くはない、けれど二人で暮らすには十分なスペース。わたし好みの本が揃えられている本棚。
豪華な家具やテーブル、それと椅子。食料もたくさんあって一ヶ月は持つという。ベッドは二人用のツインベッド。
チェスやトランプもあって、暇つぶしも十分にあった。エドウィン様は、万が一を考えてこのような地下シェルターを趣味で作ったようだった。
それがこのような形で役に立つとは思わなかったけれど、でも嬉しくもあった。こうして安全な場所で二人きりになれる……こんな幸せな事はないと思った。
「今日は静かに過ごしましょう」
「そうだな。直に食事となる。そろそろ――」
コンコンと扉をノックする音が響く。きっとメイドのコーディリアが食事を運んで来たに違いない。エドウィン様が扉へ向かう。
何重ものロックを解除し、重い扉を開かれる。すると……
『……アアァァ……』
そこには顔や腕の皮膚が剥がれ落ちたゾンビの姿があった。
「うわッ!!」
「エドウィン様!」
急いで扉を閉めるけれど、ゾンビの勢いも凄まじかった。なんて力なの……! まるで意思を持っているかのように扉を強引に開けようとしていた。
まって……本当に知性を持っているの? そうでなければ、あんな扉を開けるなんて動作しないはずよ。
「す、凄い力だ! ミランダ、手伝ってくれ」
「わ、分かりました!」
急いで扉に向かって閉めようとする。けれど、物凄い力が押してくる。こ、こんなの……わたくしの細腕では無理よ。
「ミランダ、諦めるな。ここを閉めさえすれば……僕達は助かるんだ」
「は……はい!」
エドウィン様は、決して諦めず必死に扉を閉めようとしていた。わたくしも、それに続く。力の限り扉を閉めていく。
『…………グ!』
でも、それでもゾンビの力は強く……ついに扉は抉じ開けられてしまった。
「きゃっ……」
「ミランダ!」
わたくしとエドウィン様は、床に転がる。扉の向こうからは、背の高い大きなゾンビがゆくりと侵入してきていた。……どうして、こんな場所まで。
このままだと、わたくしが本当にエドウィン様を感染させてしまう。そんなのは絶対に嫌よ!!
そんな事になるくらいなら、死んだ方がマシ……死んだ、方が?
「…………そっか」
わたくしには『死んだふり』があるじゃない。この力を一時的にでもエドウィン様にも付与できないかしら。そんな発想が浮かんだ。
「ミランダ……このまだとあのゾンビに殺されるだろう。僕が時間を稼ぐ……だから、その隙に逃げてくれないか」
「いいえ、その必要はありません」
「何を言うんだ」
「わたくしの力を信じて下さい」
「…………ミランダ。ああ、僕はいつだって君を信じている。世界一、愛しているからね」
その言葉でたくさんの勇気を貰った。……きっと今なら『死んだふり』を彼にも共有できるはず。愛の力で!
伏せたまま彼の手を握り、わたくしは念じて『死んだふり』を使った。いつもとは違うエナジーが体を巡っていく。それは次第にエドウィン様にも流れ込んでいった。
「……こ、これは」
「ミランダから力が……あれ、僕……意識が」
まるで本当に死んでしまったみたいに、エドウィン様は仮死状態になった。わたくしも同じような状態に陥る。
『………』
ゾンビが目の前にやって来る。
それはこちらを見下し、観察しているようだった。……怖い。
『なんだ、死んでしまったではナイカ。占い師のヤツ、話が違う……! オレは、ミランダが欲しかったのに……ヤツを信じたオレがバカだった。もういい、人間のミランダが手に入らないなら、どうでもいい!! 我々の仲間にしてもそれはミランダではないのだからな……占い師、覚えておけ!!』
ゾンビが喋った……。
しかも『占い師』って言った……まさか、これを仕組んだのは『シコラクス』なの……? だとすれば、それは占いではなく……計画的犯行では……。
「そろそろ夜ですね」
「ああ、となるとゾンビも動き始めるかもね」
「やっぱり、夜なんですね」
「ああ、アンデッドは夜になると活発になる。もう外には出ない方がいいだろう。地下へ行こう」
エドウィン様の提案を受け入れ、地下へ潜る。それほど広くはない、けれど二人で暮らすには十分なスペース。わたし好みの本が揃えられている本棚。
豪華な家具やテーブル、それと椅子。食料もたくさんあって一ヶ月は持つという。ベッドは二人用のツインベッド。
チェスやトランプもあって、暇つぶしも十分にあった。エドウィン様は、万が一を考えてこのような地下シェルターを趣味で作ったようだった。
それがこのような形で役に立つとは思わなかったけれど、でも嬉しくもあった。こうして安全な場所で二人きりになれる……こんな幸せな事はないと思った。
「今日は静かに過ごしましょう」
「そうだな。直に食事となる。そろそろ――」
コンコンと扉をノックする音が響く。きっとメイドのコーディリアが食事を運んで来たに違いない。エドウィン様が扉へ向かう。
何重ものロックを解除し、重い扉を開かれる。すると……
『……アアァァ……』
そこには顔や腕の皮膚が剥がれ落ちたゾンビの姿があった。
「うわッ!!」
「エドウィン様!」
急いで扉を閉めるけれど、ゾンビの勢いも凄まじかった。なんて力なの……! まるで意思を持っているかのように扉を強引に開けようとしていた。
まって……本当に知性を持っているの? そうでなければ、あんな扉を開けるなんて動作しないはずよ。
「す、凄い力だ! ミランダ、手伝ってくれ」
「わ、分かりました!」
急いで扉に向かって閉めようとする。けれど、物凄い力が押してくる。こ、こんなの……わたくしの細腕では無理よ。
「ミランダ、諦めるな。ここを閉めさえすれば……僕達は助かるんだ」
「は……はい!」
エドウィン様は、決して諦めず必死に扉を閉めようとしていた。わたくしも、それに続く。力の限り扉を閉めていく。
『…………グ!』
でも、それでもゾンビの力は強く……ついに扉は抉じ開けられてしまった。
「きゃっ……」
「ミランダ!」
わたくしとエドウィン様は、床に転がる。扉の向こうからは、背の高い大きなゾンビがゆくりと侵入してきていた。……どうして、こんな場所まで。
このままだと、わたくしが本当にエドウィン様を感染させてしまう。そんなのは絶対に嫌よ!!
そんな事になるくらいなら、死んだ方がマシ……死んだ、方が?
「…………そっか」
わたくしには『死んだふり』があるじゃない。この力を一時的にでもエドウィン様にも付与できないかしら。そんな発想が浮かんだ。
「ミランダ……このまだとあのゾンビに殺されるだろう。僕が時間を稼ぐ……だから、その隙に逃げてくれないか」
「いいえ、その必要はありません」
「何を言うんだ」
「わたくしの力を信じて下さい」
「…………ミランダ。ああ、僕はいつだって君を信じている。世界一、愛しているからね」
その言葉でたくさんの勇気を貰った。……きっと今なら『死んだふり』を彼にも共有できるはず。愛の力で!
伏せたまま彼の手を握り、わたくしは念じて『死んだふり』を使った。いつもとは違うエナジーが体を巡っていく。それは次第にエドウィン様にも流れ込んでいった。
「……こ、これは」
「ミランダから力が……あれ、僕……意識が」
まるで本当に死んでしまったみたいに、エドウィン様は仮死状態になった。わたくしも同じような状態に陥る。
『………』
ゾンビが目の前にやって来る。
それはこちらを見下し、観察しているようだった。……怖い。
『なんだ、死んでしまったではナイカ。占い師のヤツ、話が違う……! オレは、ミランダが欲しかったのに……ヤツを信じたオレがバカだった。もういい、人間のミランダが手に入らないなら、どうでもいい!! 我々の仲間にしてもそれはミランダではないのだからな……占い師、覚えておけ!!』
ゾンビが喋った……。
しかも『占い師』って言った……まさか、これを仕組んだのは『シコラクス』なの……? だとすれば、それは占いではなく……計画的犯行では……。
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