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第10話 帝国民となった大聖女
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青空が青紫に変色していく。
庭で最低な気分を落ち着かせていると、そんな風に空が痛み始めていた。怪物たち襲来の前兆。天使の梯子ならぬ悪魔の梯子。
なぜモンスター達が襲来してくるのか――それは、大聖女であるわたくしにも分からなかった。つまり、この現象は人知を超えた何かが働いているとしか言いようがなかった。
そう、つまりはアレは『災害』と同じ。
少なくとも共和国はそう定義していた。
「コーンフォース帝国にもモンスターはやって来る。共和国だけではないよ。でもね、お互い、あの大襲来を相手のせいだと認定している。だから戦争が起きた」
エドワード様の仰る通り。
あの度々の災害が齎した戦争だった。片方に被害がでれば、その報復を。そんな無意味な戦いを繰り返していた。でも、誰も止められなかった。ウィリアム将軍は野心家であり、災害を利用し帝国を掌握しようと必死だった。けれど、彼は件の目の負傷で撤退を余儀なくされた。
「共和国は滅ぶのでしょうか」
「アーサー皇帝陛下は、共和国を見捨てるだろうね。そんな義理もないし、散々殺し合った……帝国だって戦争で多くの兵を失ったんだ。僕の親しい人もね」
そうだったんだ。
エドワード様でさえ、大切な人を失っている。どうにかして戦争を止めねば……負の連鎖を断ち切らないといけない。
そう、だから――。
「わたくしは共和国に絶対に戻りません。本日より、エドワード様のモノになります」
「……フィセル、それは本当かい?」
「はい。わたくしという存在を、この身を貴方様に捧げます。今のわたくしには、その覚悟があるんです」
「それがどういう意味か分かったうえで言っているんだな」
重苦しい口調でわたくしを見据えるエドワード様。少し、威圧感さえあり……圧倒される。彼はこんな顔もできたんだ。普段はお優しいのに。でもそうね、これは冗談では済まされない“裏切り行為”だ。
もう共和国には絶対に戻れないし、戻る気もないけれど――万が一にも、共和国の人間と会おうものなら、わたくしはきっと『大魔女』と罵られ、命を狙われるだろう。
そう、わたくしは本当の意味で『大魔女』なってしまうのだ。その事実が辛い。悲しい。故郷に見捨てられ、今度は故郷から追われる身となるのだから……。
自然と涙が流れる。
ぽろぽろとあふれ出る。
……父様、母様。
どうか、わたくしに勇気を下さい。
「コンフォース帝国に、アーサー皇帝陛下に忠誠を誓います」
一言一句、想いを込めてそう言葉にした。
「了解した……フィセル、君を正式な帝国民として迎える。僕がこの辺境伯領を任されている以上は、君を丁重に扱うし、生活も保障するよ」
「心より感謝いたします、エドワード様。いつも貰ってばかりで申し訳がないです……」
「いや、まだ僕は与えていないよ。おいで」
与えていない?
どういう意味だろうと、わたくしは首を傾げる。ついていくと一階の隅の部屋に連れていかれた。ここって……エドワード様の部屋の付近。
「誰かの部屋ですか?」
「ここは僕の妹の部屋さ。アンリエッタではない、エフィの部屋」
「そ、そんな大切なお部屋に入っていいのですか?」
「ああ、構わない。君に渡したいものがある」
部屋に入って、彼はクローゼットから『紅蓮のドレス』を大切そうに取り出した。
「それって……もしかして」
「そうだ。エフィの形見だ。一年前にプレゼントして……それっきり。フィセル、君に着て欲しいんだ」
「…………で、でも」
「良いんだ。大事にしまったままで埃を被らせるより、フィセルに着て貰った方が妹も喜ぶ。だから、このドレスを与える」
優しいスカーレットの瞳がわたくしを見つめる。あまりにまぶしく、あまりに優しかったものだから、ドキッとした。
そこまでおっしゃるのなら――と、わたくしは戴く決意を固めた。
「大切に……大切にしますね」
ぎゅっとドレスを抱きしめる。
エドワード様から貰った初めてのプレゼント。嬉しい。
庭で最低な気分を落ち着かせていると、そんな風に空が痛み始めていた。怪物たち襲来の前兆。天使の梯子ならぬ悪魔の梯子。
なぜモンスター達が襲来してくるのか――それは、大聖女であるわたくしにも分からなかった。つまり、この現象は人知を超えた何かが働いているとしか言いようがなかった。
そう、つまりはアレは『災害』と同じ。
少なくとも共和国はそう定義していた。
「コーンフォース帝国にもモンスターはやって来る。共和国だけではないよ。でもね、お互い、あの大襲来を相手のせいだと認定している。だから戦争が起きた」
エドワード様の仰る通り。
あの度々の災害が齎した戦争だった。片方に被害がでれば、その報復を。そんな無意味な戦いを繰り返していた。でも、誰も止められなかった。ウィリアム将軍は野心家であり、災害を利用し帝国を掌握しようと必死だった。けれど、彼は件の目の負傷で撤退を余儀なくされた。
「共和国は滅ぶのでしょうか」
「アーサー皇帝陛下は、共和国を見捨てるだろうね。そんな義理もないし、散々殺し合った……帝国だって戦争で多くの兵を失ったんだ。僕の親しい人もね」
そうだったんだ。
エドワード様でさえ、大切な人を失っている。どうにかして戦争を止めねば……負の連鎖を断ち切らないといけない。
そう、だから――。
「わたくしは共和国に絶対に戻りません。本日より、エドワード様のモノになります」
「……フィセル、それは本当かい?」
「はい。わたくしという存在を、この身を貴方様に捧げます。今のわたくしには、その覚悟があるんです」
「それがどういう意味か分かったうえで言っているんだな」
重苦しい口調でわたくしを見据えるエドワード様。少し、威圧感さえあり……圧倒される。彼はこんな顔もできたんだ。普段はお優しいのに。でもそうね、これは冗談では済まされない“裏切り行為”だ。
もう共和国には絶対に戻れないし、戻る気もないけれど――万が一にも、共和国の人間と会おうものなら、わたくしはきっと『大魔女』と罵られ、命を狙われるだろう。
そう、わたくしは本当の意味で『大魔女』なってしまうのだ。その事実が辛い。悲しい。故郷に見捨てられ、今度は故郷から追われる身となるのだから……。
自然と涙が流れる。
ぽろぽろとあふれ出る。
……父様、母様。
どうか、わたくしに勇気を下さい。
「コンフォース帝国に、アーサー皇帝陛下に忠誠を誓います」
一言一句、想いを込めてそう言葉にした。
「了解した……フィセル、君を正式な帝国民として迎える。僕がこの辺境伯領を任されている以上は、君を丁重に扱うし、生活も保障するよ」
「心より感謝いたします、エドワード様。いつも貰ってばかりで申し訳がないです……」
「いや、まだ僕は与えていないよ。おいで」
与えていない?
どういう意味だろうと、わたくしは首を傾げる。ついていくと一階の隅の部屋に連れていかれた。ここって……エドワード様の部屋の付近。
「誰かの部屋ですか?」
「ここは僕の妹の部屋さ。アンリエッタではない、エフィの部屋」
「そ、そんな大切なお部屋に入っていいのですか?」
「ああ、構わない。君に渡したいものがある」
部屋に入って、彼はクローゼットから『紅蓮のドレス』を大切そうに取り出した。
「それって……もしかして」
「そうだ。エフィの形見だ。一年前にプレゼントして……それっきり。フィセル、君に着て欲しいんだ」
「…………で、でも」
「良いんだ。大事にしまったままで埃を被らせるより、フィセルに着て貰った方が妹も喜ぶ。だから、このドレスを与える」
優しいスカーレットの瞳がわたくしを見つめる。あまりにまぶしく、あまりに優しかったものだから、ドキッとした。
そこまでおっしゃるのなら――と、わたくしは戴く決意を固めた。
「大切に……大切にしますね」
ぎゅっとドレスを抱きしめる。
エドワード様から貰った初めてのプレゼント。嬉しい。
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