上 下
10 / 24

第10話 帝国民となった大聖女

しおりを挟む
 青空が青紫に変色していく。
 庭で最低な気分を落ち着かせていると、そんな風に空が痛み始めていた。怪物たち襲来の前兆。天使の梯子エンジェルラダーならぬ悪魔の梯子デビルラダー


 なぜモンスター達が襲来してくるのか――それは、大聖女であるわたくしにも分からなかった。つまり、この現象は人知を超えた何かが働いているとしか言いようがなかった。


 そう、つまりはアレは『災害』と同じ。
 少なくとも共和国はそう定義していた。


「コーンフォース帝国にもモンスターはやって来る。共和国だけではないよ。でもね、お互い、あの大襲来を相手のせいだと認定している。だから戦争が起きた」


 エドワード様の仰る通り。
 あの度々の災害がもたらした戦争だった。片方に被害がでれば、その報復を。そんな無意味な戦いを繰り返していた。でも、誰も止められなかった。ウィリアム将軍は野心家であり、災害を利用し帝国を掌握しようと必死だった。けれど、彼はくだんの目の負傷で撤退を余儀なくされた。


「共和国は滅ぶのでしょうか」
「アーサー皇帝陛下は、共和国かれらを見捨てるだろうね。そんな義理もないし、散々殺し合った……帝国だって戦争で多くの兵を失ったんだ。僕の親しい人もね」

 そうだったんだ。
 エドワード様でさえ、大切な人を失っている。どうにかして戦争を止めねば……負の連鎖を断ち切らないといけない。

 そう、だから――。


「わたくしは共和国に絶対に戻りません。本日より、エドワード様のモノになります」
「……フィセル、それは本当かい?」
「はい。わたくしという存在を、この身を貴方様に捧げます。今のわたくしには、その覚悟があるんです」

「それがどういう意味か分かったうえで言っているんだな」


 重苦しい口調でわたくしを見据えるエドワード様。少し、威圧感さえあり……圧倒される。彼はこんな顔もできたんだ。普段はお優しいのに。でもそうね、これは冗談では済まされない“裏切り行為”だ。

 もう共和国には絶対に戻れないし、戻る気もないけれど――万が一にも、共和国の人間と会おうものなら、わたくしはきっと『大魔女』と罵られ、命を狙われるだろう。


 そう、わたくしは本当の意味で『大魔女』なってしまうのだ。その事実が辛い。悲しい。故郷に見捨てられ、今度は故郷から追われる身となるのだから……。


 自然と涙が流れる。

 ぽろぽろとあふれ出る。

 ……父様、母様。

 どうか、わたくしに勇気を下さい。


「コンフォース帝国に、アーサー皇帝陛下に忠誠を誓います」


 一言一句、想いを込めてそう言葉にした。


「了解した……フィセル、君を正式な帝国民として迎える。僕がこの辺境伯領を任されている以上は、君を丁重に扱うし、生活も保障するよ」

「心より感謝いたします、エドワード様。いつも貰ってばかりで申し訳がないです……」
「いや、まだ僕は与えていないよ。おいで」


 与えていない?
 どういう意味だろうと、わたくしは首を傾げる。ついていくと一階の隅の部屋に連れていかれた。ここって……エドワード様の部屋の付近。


「誰かの部屋ですか?」
「ここは僕の妹の部屋さ。アンリエッタではない、エフィの部屋」

「そ、そんな大切なお部屋に入っていいのですか?」
「ああ、構わない。君に渡したいものがある」


 部屋に入って、彼はクローゼットから『紅蓮のドレス』を大切そうに取り出した。


「それって……もしかして」
「そうだ。エフィの形見だ。一年前にプレゼントして……それっきり。フィセル、君に着て欲しいんだ」

「…………で、でも」

「良いんだ。大事にしまったままで埃を被らせるより、フィセルに着て貰った方が妹も喜ぶ。だから、このドレスを与える・・・


 優しいスカーレットの瞳がわたくしを見つめる。あまりにまぶしく、あまりに優しかったものだから、ドキッとした。

 そこまでおっしゃるのなら――と、わたくしは戴く決意を固めた。


「大切に……大切にしますね」


 ぎゅっとドレスを抱きしめる。
 エドワード様から貰った初めてのプレゼント。嬉しい。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された貧乏令嬢ですが、意外と有能なの知っていますか?~有能なので王子に求婚されちゃうかも!?~

榎夜
恋愛
「貧乏令嬢となんて誰が結婚するんだよ!」 そう言っていましたが、隣に他の令嬢を連れている時点でおかしいですわよね? まぁ、私は貴方が居なくなったところで困りませんが.......貴方はどうなんでしょうね?

無惨に殺されて逆行した大聖女の復讐劇〜前世の記憶もついでに取り戻したので国造って貴国を滅ぼさせていただきます

ニコ
恋愛
 体に宿る魔石が目当てで育てられたユリア。婚約者に裏切られて殺された彼女は封印された大聖女だった。  逆行した彼女は封印が解け、地球で暮らした前世の記憶も取り戻しておりーー  好き勝手する父親や婚約者、国王にキレた彼女は国を創って宣戦布告するようです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 不定期更新で行こうと思います。 ポチッとお気に入り登録していただけると嬉しいです\(^o^)/

我慢してきた令嬢は、はっちゃける事にしたようです。

和威
恋愛
侯爵令嬢ミリア(15)はギルベルト伯爵(24)と結婚しました。ただ、この伯爵……別館に愛人囲ってて私に構ってる暇は無いそうです。本館で好きに過ごして良いらしいので、はっちゃけようかな?って感じの話です。1話1500~2000字程です。お気に入り登録5000人突破です!有り難うございまーす!2度見しました(笑)

魔力無しの聖女に何の御用ですか?〜義妹達に国を追い出されて婚約者にも見捨てられる戻ってこい?自由気ままな生活が気に入ったので断固拒否します〜

まつおいおり
恋愛
毎日毎日、国のトラブル解決に追われるミレイ・ノーザン、水の魔法を失敗して道を浸水させてしまったのを何とかして欲しいとか、火の魔道具が暴走して火事を消火してほしいとか、このガルシア国はほぼ全ての事柄に魔法や魔道具を使っている、そっちの方が効率的だからだ、しかしだからこそそういった魔力の揉め事が後を絶たない………彼女は八光聖女の一人、退魔の剣の振るい手、この剣はあらゆる魔力を吸収し、霧散させる、………なので義妹達にあらゆる国の魔力トラブル処理を任せられていた、ある日、彼女は八光聖女をクビにされ、さらに婚約者も取られ、トドメに国外追放………あてもなく彷徨う、ひょんなことからハルバートという男に助けられ、何でも屋『ブレーメンズ』に所属、舞い込む依頼、忙しくもやり甲斐のある日々………一方、義妹達はガルシア国の魔力トラブルを処理が上手く出来ず、今更私を連れ戻そうとするが、はいそうですかと聞くわけがない。

冤罪により婚約破棄されて国外追放された王女は、隣国の王子に結婚を申し込まれました。

香取鞠里
恋愛
「マーガレット、お前は恥だ。この城から、いやこの王国から出ていけ!」 姉の吹き込んだ嘘により、婚約パーティーの日に婚約破棄と勘当、国外追放を受けたマーガレット。 「では、こうしましょう。マーガレット、きみを僕のものにしよう」 けれど、追放された先で隣国の王子に拾われて!?

婚約破棄の次は爵位剥奪ですか? 構いませんよ、金の力で取り戻しますから

ひじり
恋愛
「エナ、僕は真実の愛を見つけたんだ。その相手はもちろん、きみじゃない。だから僕が何を言いたいのか分かるよね?」  男爵令嬢のエナ・ローリアは、幼い頃にリック・ティーレンスからのプロポーズを受けた。  将来を誓い合った二人は両家公認の仲になったが、ティーレンス家が子爵に陞爵した日を境に、すれ違う日が増えていった。  そして結婚式を前日に控えたある日、エナはリックから婚約を一方的に破棄されてしまう。  リックの新しい相手――カルデ・リスタは伯爵令嬢だ。しかし注目すべきはそこじゃない。カルデは異世界転生者であった。地位や名誉はもちろんのこと、財産や魔力の差においても、男爵令嬢のエナとは格が違う。  エナはリックの気持ちを尊重するつもりだったが、追い打ちをかける出来事がローリア家を襲う。  カルデからリックを横取りしようとした背信行為で、ローリア家は爵位を剥奪されることになったのだ。  事実無根だと訴えるが、王国は聞く耳を持たず。異世界転生者と男爵家の人間では、言葉の重みが違う。貴族の地位を失った父――ロド・ローリアは投獄され、エナ自身は国外追放処分となった。 「悪いわね~、エナ? あんたが持ってたもの、ぜーんぶあたしが貰っちゃった♪」  荷物をまとめて王都を発つ日、リックとカルデが見送りにくる。リックに婚約破棄されたことも、爵位剥奪されたことも、全てはこいつのしわざか、と確信する。  だからエナは宣言することにした。 「婚約破棄の次は爵位剥奪ですか? 構いませんよ、金の力で取り戻しますから」 ※異世界転生者有り、魔法有りの世界観になります。

婚約破棄された王女が全力で喜びましたが、何か問題でも?

yukiya
恋愛
 ファントム王国の第一王子、アスロンから、夜会で婚約破棄を叫ばれたエルステーネ(隣国であるミリガン王国の第二王女)だが。 「それ、ほんとうですか!?」  喜ぶエルステーネにアスロンが慌てて問いかける。 「え、何故喜んでいるか?そりゃ、馬鹿なこの国の馬鹿な王子に婚約破棄されたら嬉しいでしょ」

妹に婚約者を奪われ、聖女の座まで譲れと言ってきたので潔く譲る事にしました。〜あなたに聖女が務まるといいですね?〜

雪島 由
恋愛
聖女として国を守ってきたマリア。 だが、突然妹ミアとともに現れた婚約者である第一王子に婚約を破棄され、ミアに聖女の座まで譲れと言われてしまう。 国を頑張って守ってきたことが馬鹿馬鹿しくなったマリアは潔くミアに聖女の座を譲って国を離れることを決意した。 「あ、そういえばミアの魔力量じゃ国を守護するの難しそうだけど……まぁなんとかするよね、きっと」 *この作品はなろうでも連載しています。

処理中です...