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ツンギレ聖女
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「キ、キリエ……話があるんだ」
婚約から三日目。
クライス伯爵が私の部屋に来るなり、怯えた顔でそんな風に言った。常に機嫌の悪い私は、思わず「あぁん!?」と彼を睨む。でもこれは生まれつきの癖であり仕方ない。
「ひッ……! そ、そう睨まないでくれよ、キリエ。た、ただ話があるだけなんだ」
彼はこの国では上位に入る容姿を持ち、女性人気も高かった。でも、伯爵は私を取ってくれた。こんな性格難である私を。
「なんだ、言いたい事があるならハッキリ言え。男子だろう」
「そ、それなんだが……婚約破棄を」
「殺すぞ」
「……すみません。僕が悪かったです」
最近、伯爵は事ある毎に婚約破棄を迫ってくる。でも、私はさせなかった。だって、私は彼を愛していたから――。
私を理解してくれるのは彼だけだ。
怯えてあんな風に切り出してくるけれど、多分、彼なりに愛を確かめているのかもしれない。まあいい、それならそれで……。
「クライス伯爵。今日は私と一緒にいろ」
「……分かった」
「返事は『はい』だ」
「……はい」
彼はついに青ざめ、項垂れていた。
「お前は私を愛しているのか」
「……正直言えば、愛しているさ。ただ、君のその言動はどうにかならないのか……? 落ち着かないっていうか、怖いんだ。
だからなんとか矯正できないか? 一人称は直ってくれたけど」
今更性格を変えるなんて無理だ。
これは生まれつき。
一人称は頑張って『俺』から『私』に変えたけど。後、口調だって頑張ってここまで直した。努力は認めて欲しい。
「我慢しろ。これでも人一倍努力した方なんだ」
「しかし、君は聖女なんだよ!?」
「教会の人間は全員、私の下僕にした。問題ない」
「げ、下僕って……。あぁ」
伯爵は頭を抱え、けれど――笑った。
「どうした」
「……もうキリエには敵わないな。そうだな、無理に直す必要もないよな。それが君なんだから……ホドホドにありのままでいてくれ」
そう言われ、やっぱりこの人なら私を理解してくれると思った。だから、ここまで一緒に来たんだ。
――私は彼に対し、滅多に見せない心を籠めた笑顔を向けた。
婚約から三日目。
クライス伯爵が私の部屋に来るなり、怯えた顔でそんな風に言った。常に機嫌の悪い私は、思わず「あぁん!?」と彼を睨む。でもこれは生まれつきの癖であり仕方ない。
「ひッ……! そ、そう睨まないでくれよ、キリエ。た、ただ話があるだけなんだ」
彼はこの国では上位に入る容姿を持ち、女性人気も高かった。でも、伯爵は私を取ってくれた。こんな性格難である私を。
「なんだ、言いたい事があるならハッキリ言え。男子だろう」
「そ、それなんだが……婚約破棄を」
「殺すぞ」
「……すみません。僕が悪かったです」
最近、伯爵は事ある毎に婚約破棄を迫ってくる。でも、私はさせなかった。だって、私は彼を愛していたから――。
私を理解してくれるのは彼だけだ。
怯えてあんな風に切り出してくるけれど、多分、彼なりに愛を確かめているのかもしれない。まあいい、それならそれで……。
「クライス伯爵。今日は私と一緒にいろ」
「……分かった」
「返事は『はい』だ」
「……はい」
彼はついに青ざめ、項垂れていた。
「お前は私を愛しているのか」
「……正直言えば、愛しているさ。ただ、君のその言動はどうにかならないのか……? 落ち着かないっていうか、怖いんだ。
だからなんとか矯正できないか? 一人称は直ってくれたけど」
今更性格を変えるなんて無理だ。
これは生まれつき。
一人称は頑張って『俺』から『私』に変えたけど。後、口調だって頑張ってここまで直した。努力は認めて欲しい。
「我慢しろ。これでも人一倍努力した方なんだ」
「しかし、君は聖女なんだよ!?」
「教会の人間は全員、私の下僕にした。問題ない」
「げ、下僕って……。あぁ」
伯爵は頭を抱え、けれど――笑った。
「どうした」
「……もうキリエには敵わないな。そうだな、無理に直す必要もないよな。それが君なんだから……ホドホドにありのままでいてくれ」
そう言われ、やっぱりこの人なら私を理解してくれると思った。だから、ここまで一緒に来たんだ。
――私は彼に対し、滅多に見せない心を籠めた笑顔を向けた。
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