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婚約を賭けて戦いましょう

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 次の日から大変なことが起き続けた。

 ようやく平和が訪れたかと思ったに、大叔母様は狂ったように騎士を呼びつけて、その度にルドラと決闘させていた。

 でも、ルドラは魔法の槍で全てを撃退し、無敗。
 そのウワサはセンチフォリア帝国中に広まり、やがてルドラは時の人となってしまった。わたくしの名も同じように広まってしまう。


「なんだか申し訳ありません」
「謝る必要はないよ、クリス。君の大叔母様はどうしても私を敗北させたいらしい」


 先ほど、九戦目の決闘を終えた。汗ひとつかず、余裕の表情を見せるルドラ。魔法の槍を使うようになってから、ずっと無双状態。
 彼に勝てる者はいないのかもしれない。

 いるとしたら、ガウェイン騎士団の騎士団長フェイルノートだけかな。来てほしくないけど。

 でも、彼の姿は誰も見たことがないという。いつも仮面付きのかぶとをつけているようで、素顔が分からないとか。

 そんな謎めいた騎士団長だけれど、騎士から慕われているらしく、皇帝陛下からも気に入られているという。そんな噂を耳にした。
 いったい、どんな人なのだろう。少し気になった。


 決闘が終わり、邸宅いえの中へ戻ろうとすると声を掛けられた。


「まって、お姉さま!」
「え、その声。マイナなの……?」


 一週間ぶりに姿を現したマイナ。いったい、今までどこで何をしていたの……? ずっとお父様が探していたのに。


「お久しぶりね。大叔母様が企てたくだらない決闘。どうだった?」
「なぜそれを……いえ、ウワサくらい聞いているわね」

「まあね。で、ルドラ様と婚約したの?


 鋭い口調で聞いてくるマイナ。なんだか答えるのが怖かった。でも、ここはハッキリと答えておく。


「ええ。明日の十戦目の決闘を最後にね」
「そういうこと。なら、まだチャンスはあるわね……!」


 ニヤリと笑うマイナは、わたくしに指をさす。


「どういうこと?」
「お姉さま。いつもルドラ様を戦わせているようですけど、私たちも戦うべきではなくて?」

「え……」

「ルドラ様との“婚約”を賭けて戦いましょう」
「戦うって……そんな、暴力なんて」

「馬鹿じゃないの! そんな野蛮やばんなことはしません。料理対決よ」

「りょ、料理?」


 マイナの提案はこうだった。料理を作り、ルドラに食べてもらう。『おいしい』と言わせた方が勝ちということだった。

 しかも、試合は明日ということに。


「貴族といえど、お料理スキルくらいありませんと。ルドラ様を幸せにできないわ!」
「そ、それは……」


 妙に自信たっぷりのマイナ。もしかして、一週間不在だったのは料理の腕を磨くためにどこかで練習を……?
 それで、わたくしに挑みに来たというところでしょう。

 この勝負、正直不利。
 わたくしは料理なんてほとんどしたことがない。

 でも、ルドラを勝ち取る為にも。褒めてもらう為にもがんばりたいと思った。


「どうなの、受けるの!?」
「解かりました。いいでしょう」

「……! お姉さま、その言葉もう取り消さないからね! 負けたらルドラを貰うわ!」
「ええ。負けるつもりはないけどね」


 すでに勝ち誇っているマイナは、またどこかへと歩いていく。家には帰らないということね。
 だから呼び止めることはしなかった。

 期限は明日まで。
 それまでに、なにか作れるようにしないと。


 どうすればいいのか、まずは執事のバルザックに相談した。


「――なるほど、料理対決ですか」
「そうなの。バルザックはお料理が得意でしょう?」

「ええ、心得ております。では、ルドラ様の大好物を作りましょう」

「え、バルザックはルドラ様の好物が分かるの?」
「あ……。ええ、実はそうなのです」


 し、知らなかった。バルザックがルドラの味の好みに詳しいなんて。たまに作りに行っていたのかな?


「ぜひ教えてちょうだい」
「もちろんです。お嬢様には勝利を掴んでいただきたいので」


 厨房へ向かい、バルザックから料理を教えてもらう。震える手で包丁を持ち、ザクッと指を切る。


「きゃぁっ……痛いぃ」
「お、お嬢様。包丁は正しくお持ちください。危険ですよ!」


 この夜、わたくしの指はバンソウコウが増え続けた……。
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