毒殺されそうになりました

夜桜

文字の大きさ
上 下
23 / 24

第23話 幸せな結婚

しおりを挟む
 食事を終えると、マックスウェルが現れた。

「よろしいですかな、アレク様」
「どうした」
「ルーナ様の件です。確かな情報が入りました」
「本当か! 話してみろ」

 マックスウェルによれば、街の住人がたまたま静かな森の中へ逃げた猫を追いかけて、その先でルーナの遺体を見つけたという。
 木に吊るされ、酷い有様のようだった。

「――というわけです」
「そうか……」

 それを聞いてほんの少しだけ同情した。
 けれど、自業自得でもある。

「いかがなさいますか」
「もちろん、レオンハルト伯にこのことを伝え、彼女の遺体を引き渡す」
「分かりました。直ぐに手配いたします」

 ようやくこれで……。

 その後、ルーナの遺体は父のもとへ。むろん悲しむ様子もなく、淡々と葬儀が進んだ。
 わたしも不思議なくらい涙ひとつ出なかった。


 それよりもダモクレスノイドルの行方。
 彼はいったいどこにいるのだろう。


 その謎が解けることはなかった。

 けれど。



【一ヶ月後】



「イリス、結婚してくれるかい」
「喜んで」


 わたしは、ルーナやダモクレスノイドルのことをすっかり忘れ、平和な日々を過ごしていた。

 あれから不幸なことが起きる心配もなく、ただアレクとの静かな時間な流れた。

 わたしは彼の為に料理を振舞った。
 アレクは幸せな顔を向けてくれる。
 それだけで十分。


 お父様もアレクを認め、屋敷に招くようになった。二人はたまにお酒を飲み明かすようだった。


 もうなにも心配はいらない。

 辛かったこと、悲しかったこと……たくさんあった。

 でも今は幸せ。


 結婚指輪をはめてもらい、キスまでしてもらった。自然と涙が零れ、愛があふれそうになった。

 私とアレクの関係が強固だと分かると、フリードリッヒ・ノイベルンも認めてくれた。お爺様は特に、わたしの料理を褒めてくれた。
 料理が決定的となり、結婚を認めてくれたと言っても過言ではない。


 もうわたしとアレクを阻む者はいない。


 ――ある日、手紙が届いた。


【あなたとアレクの幸せを祈る。イングリッド・バーンシュタイン】


 え……イングリッドから?
 更に読み進めると最後にこう書かれていた。


【大悪党から足を洗うことにした。ダモクレスノイドルはもう現れない】


 ……そうか、イングリッドこそダモクレスノイドルだったんだ。


「どうしたんだい、イリス」
「いえ、なんでもありません」


 私は手紙を破り、風に乗せた。
 パラパラと舞っていく紙片。

 わたしの肩に手を置くアレク。

 その指には指輪が。


「さあ、城へ戻ろう」
「そうですね、アレク」


 幸せな日々が続く――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

【完結】妹が欲しがるならなんでもあげて令嬢生活を満喫します。それが婚約者の王子でもいいですよ。だって…

西東友一
恋愛
私の妹は昔から私の物をなんでも欲しがった。 最初は私もムカつきました。 でも、この頃私は、なんでもあげるんです。 だって・・・ね

私が我慢する必要ありますか?【2024年12月25日電子書籍配信決定しました】

青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。 そして気付いてしまったのです。 私が我慢する必要ありますか? ※ 株式会社MARCOT様より電子書籍化決定! コミックシーモア様にて12/25より配信されます。 コミックシーモア様限定の短編もありますので興味のある方はぜひお手に取って頂けると嬉しいです。 リンク先 https://www.cmoa.jp/title/1101438094/vol/1/

幼なじみが誕生日に貰ったと自慢するプレゼントは、婚約者のいる子息からのもので、私だけでなく多くの令嬢が見覚えあるものでした

珠宮さくら
恋愛
アニル国で生まれ育ったテベンティラ・ミシュラは婚約者がいなかったが、まだいないことに焦ってはいなかった。 そんな時に誕生日プレゼントだとブレスレットを貰ったことを嬉しそうに語る幼なじみに驚いてしまったのは、付けているブレスレットに見覚えがあったからだったが、幼なじみにその辺のことを誤解されていくとは思いもしなかった。 それに幼なじみの本性をテベンティラは知らなさすぎたようだ。

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

【完結】返してください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。 私が愛されていない事は感じていた。 だけど、信じたくなかった。 いつかは私を見てくれると思っていた。 妹は私から全てを奪って行った。 なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、 母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。 もういい。 もう諦めた。 貴方達は私の家族じゃない。 私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。 だから、、、、 私に全てを、、、 返してください。

【完結】ブスと呼ばれるひっつめ髪の眼鏡令嬢は婚約破棄を望みます。

はゆりか
恋愛
幼き頃から決まった婚約者に言われた事を素直に従い、ひっつめ髪に顔が半分隠れた瓶底丸眼鏡を常に着けたアリーネ。 周りからは「ブス」と言われ、外見を笑われ、美しい婚約者とは並んで歩くのも忌わしいと言われていた。 婚約者のバロックはそれはもう見目の美しい青年。 ただ、美しいのはその見た目だけ。 心の汚い婚約者様にこの世の厳しさを教えてあげましょう。 本来の私の姿で…… 前編、中編、後編の短編です。

お姉様は嘘つきです! ~信じてくれない毒親に期待するのをやめて、私は新しい場所で生きていく! と思ったら、黒の王太子様がお呼びです?

朱音ゆうひ
恋愛
男爵家の令嬢アリシアは、姉ルーミアに「悪魔憑き」のレッテルをはられて家を追い出されようとしていた。 何を言っても信じてくれない毒親には、もう期待しない。私は家族のいない新しい場所で生きていく!   と思ったら、黒の王太子様からの招待状が届いたのだけど? 別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0606ip/)

処理中です...