20 / 24
第20話 婚約破棄なんてしない!
しおりを挟む
「イリス、だったね」
「はい、そうです」
「残念だが、アレクを諦めてくれないか」
「え……」
突然そう言われ、わたしは動揺した。……どうして。
「婚約を破棄して欲しいのだよ」
「い、嫌です。わたしはアレクが好きなんです。愛しています……!」
「気持ちは分かる。だが、アレクには相応しい女性がいるのだ」
「相応しい女性?」
「そうだ。プライバシーに関わるので名は明かせぬがね」
「納得できません。それに、アレクだってわたしを選んでくれるはず」
食い下がると、お爺様は頭を横に振った。
「果たしてどうかな」
「どういう意味ですか」
「近い内に分かる。もし気になるのなら、我が城へ来い。それがせめてもの慈悲だ……」
フリードリッヒ・ノイベルンは背を向け、人混みに紛れて去っていく。
わたしは、ただ立ち尽くすことだけしかできなかった。
……そんな、嘘よ。
不安に陥っていると、アレクが戻って来てくれた。
「大丈夫かい、イリス」
「あ……はい」
「なんだか顔色が悪いね。体調が優れないのなら、この場を直ぐに離れよう」
「ありがとうございます。そうしましょう」
わたしは自らアレクの手を取り引っ張る。
担当者と話していた内容も気になるけど、それよりもフリードリッヒ・ノイベルンの言っていたことの方が気掛かりだ。
もし本当なら、アレクは……。
うぅ、泣いてしまいそう。
なんとか人混みを離れ、静かな噴水広場に来られた。ベンチに腰掛け、わたしはフリードリッヒ・ノイベルンのことを話した。
「なんだって……? 曾祖父があの場にいたのかい?」
「はい。アレクと婚約破棄するように言われました」
「そんな、ありえない!」
珍しくアレクは声を荒げた。
良かった。
そんな風に否定してくれて。
それだけで嬉しすぎた。
「ですよね! アレクはわたしを愛していますよね……?」
「当たり前だ! 俺はイリス、君を愛している」
手を優しく握ってもらえ、わたしは確信した。やっぱり、アレクと気持ちは同じ。なのに、フリードリッヒ・ノイベルンは否定的だった。相応しい女性とか関係ない。
たとえ、そのような女性が現れても、わたしは戦うし、負けるつもりはない。
彼を譲る気なんて絶対にない。
「では、お爺様には……」
「ああ、俺の心はイリスのものだと伝える」
「嬉しい……」
「大丈夫。曾祖父はきっと分かってくれるはず。ああ見えて優しいところもあるんだ」
今はアレクの言葉を信じるしかない。
わたしに出来ることはそれくらい。
「ところで、担当者と何を話していたんですか?」
「そうだったね。ルーナの遺体のことだ」
「どこに安置されているのです?」
「それは……」
歯切れの悪いアレク。なんだか言い辛そう。
いったい、ルーナはどこに……?
「はい、そうです」
「残念だが、アレクを諦めてくれないか」
「え……」
突然そう言われ、わたしは動揺した。……どうして。
「婚約を破棄して欲しいのだよ」
「い、嫌です。わたしはアレクが好きなんです。愛しています……!」
「気持ちは分かる。だが、アレクには相応しい女性がいるのだ」
「相応しい女性?」
「そうだ。プライバシーに関わるので名は明かせぬがね」
「納得できません。それに、アレクだってわたしを選んでくれるはず」
食い下がると、お爺様は頭を横に振った。
「果たしてどうかな」
「どういう意味ですか」
「近い内に分かる。もし気になるのなら、我が城へ来い。それがせめてもの慈悲だ……」
フリードリッヒ・ノイベルンは背を向け、人混みに紛れて去っていく。
わたしは、ただ立ち尽くすことだけしかできなかった。
……そんな、嘘よ。
不安に陥っていると、アレクが戻って来てくれた。
「大丈夫かい、イリス」
「あ……はい」
「なんだか顔色が悪いね。体調が優れないのなら、この場を直ぐに離れよう」
「ありがとうございます。そうしましょう」
わたしは自らアレクの手を取り引っ張る。
担当者と話していた内容も気になるけど、それよりもフリードリッヒ・ノイベルンの言っていたことの方が気掛かりだ。
もし本当なら、アレクは……。
うぅ、泣いてしまいそう。
なんとか人混みを離れ、静かな噴水広場に来られた。ベンチに腰掛け、わたしはフリードリッヒ・ノイベルンのことを話した。
「なんだって……? 曾祖父があの場にいたのかい?」
「はい。アレクと婚約破棄するように言われました」
「そんな、ありえない!」
珍しくアレクは声を荒げた。
良かった。
そんな風に否定してくれて。
それだけで嬉しすぎた。
「ですよね! アレクはわたしを愛していますよね……?」
「当たり前だ! 俺はイリス、君を愛している」
手を優しく握ってもらえ、わたしは確信した。やっぱり、アレクと気持ちは同じ。なのに、フリードリッヒ・ノイベルンは否定的だった。相応しい女性とか関係ない。
たとえ、そのような女性が現れても、わたしは戦うし、負けるつもりはない。
彼を譲る気なんて絶対にない。
「では、お爺様には……」
「ああ、俺の心はイリスのものだと伝える」
「嬉しい……」
「大丈夫。曾祖父はきっと分かってくれるはず。ああ見えて優しいところもあるんだ」
今はアレクの言葉を信じるしかない。
わたしに出来ることはそれくらい。
「ところで、担当者と何を話していたんですか?」
「そうだったね。ルーナの遺体のことだ」
「どこに安置されているのです?」
「それは……」
歯切れの悪いアレク。なんだか言い辛そう。
いったい、ルーナはどこに……?
57
お気に入りに追加
130
あなたにおすすめの小説

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。
松ノ木るな
恋愛
純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。
伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。
あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。
どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。
たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。
【完結】返してください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。
私が愛されていない事は感じていた。
だけど、信じたくなかった。
いつかは私を見てくれると思っていた。
妹は私から全てを奪って行った。
なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、
母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。
もういい。
もう諦めた。
貴方達は私の家族じゃない。
私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。
だから、、、、
私に全てを、、、
返してください。
悪役令嬢エリザベス・フォン・グレイストーン
Y.Itoda
恋愛
悪役令嬢エリザベス・フォン・グレイストーンは、婚約者に裏切られた末、婚約破棄と共に家族からも見放される。
過去の栄光を失い、社会からの期待も失ってしまう。
でも、その状況が逆に新たな人生のスタートに⋯
かつての贅沢な生活から一変した、エリザベス。
地方の小さな村で一から再出発を決意する。
最後に、エリザベスが新しい生活で得たものとは?

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです
じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」
アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。
金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。
私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】
青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。
婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。
そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。
それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。
ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。
*別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。
*約2万字の短編です。
*完結しています。
*11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。

婚約破棄ですか? 優しい幼馴染がいるので構いませんよ
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のアリスは婚約者のグリンデル侯爵から婚約破棄を言い渡された。
悲しみに暮れるはずの彼女だったが問題はないようだ。
アリスには優しい幼馴染である、大公殿下がいたのだから。
婚約破棄は綿密に行うもの
若目
恋愛
「マルグリット・エレオス、お前との婚約は破棄させてもらう!」
公爵令嬢マルグリットは、女遊びの激しい婚約者の王子様から婚約破棄を告げられる
しかし、それはマルグリット自身が仕組んだものだった……
言いたいことは、それだけかしら?
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【彼のもう一つの顔を知るのは、婚約者であるこの私だけ……】
ある日突然、幼馴染でもあり婚約者の彼が訪ねて来た。そして「すまない、婚約解消してもらえないか?」と告げてきた。理由を聞いて納得したものの、どうにも気持ちが収まらない。そこで、私はある行動に出ることにした。私だけが知っている、彼の本性を暴くため――
* 短編です。あっさり終わります
* 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる