毒殺されそうになりました

夜桜

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第20話 婚約破棄なんてしない!

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「イリス、だったね」
「はい、そうです」

「残念だが、アレクを諦めてくれないか」
「え……」

 突然そう言われ、わたしは動揺した。……どうして。

「婚約を破棄して欲しいのだよ」
「い、嫌です。わたしはアレクが好きなんです。愛しています……!」
「気持ちは分かる。だが、アレクには相応しい女性がいるのだ」
「相応しい女性?」
「そうだ。プライバシーに関わるので名は明かせぬがね」

「納得できません。それに、アレクだってわたしを選んでくれるはず」

 食い下がると、お爺様は頭を横に振った。

「果たしてどうかな」
「どういう意味ですか」
「近い内に分かる。もし気になるのなら、我が城へ来い。それがせめてもの慈悲だ……」

 フリードリッヒ・ノイベルンは背を向け、人混みに紛れて去っていく。
 わたしは、ただ立ち尽くすことだけしかできなかった。
 ……そんな、嘘よ。

 不安に陥っていると、アレクが戻って来てくれた。


「大丈夫かい、イリス」
「あ……はい」
「なんだか顔色が悪いね。体調が優れないのなら、この場を直ぐに離れよう」
「ありがとうございます。そうしましょう」

 わたしは自らアレクの手を取り引っ張る。
 担当者と話していた内容も気になるけど、それよりもフリードリッヒ・ノイベルンの言っていたことの方が気掛かりだ。

 もし本当なら、アレクは……。

 うぅ、泣いてしまいそう。


 なんとか人混みを離れ、静かな噴水広場に来られた。ベンチに腰掛け、わたしはフリードリッヒ・ノイベルンのことを話した。


「なんだって……? 曾祖父があの場にいたのかい?」
「はい。アレクと婚約破棄するように言われました」
「そんな、ありえない!」

 珍しくアレクは声を荒げた。
 良かった。
 そんな風に否定してくれて。
 それだけで嬉しすぎた。

「ですよね! アレクはわたしを愛していますよね……?」
「当たり前だ! 俺はイリス、君を愛している」

 手を優しく握ってもらえ、わたしは確信した。やっぱり、アレクと気持ちは同じ。なのに、フリードリッヒ・ノイベルンは否定的だった。相応しい女性とか関係ない。

 たとえ、そのような女性が現れても、わたしは戦うし、負けるつもりはない。
 彼を譲る気なんて絶対にない。

「では、お爺様には……」
「ああ、俺の心はイリスのものだと伝える」
「嬉しい……」
「大丈夫。曾祖父はきっと分かってくれるはず。ああ見えて優しいところもあるんだ」

 今はアレクの言葉を信じるしかない。
 わたしに出来ることはそれくらい。

「ところで、担当者と何を話していたんですか?」
「そうだったね。ルーナの遺体のことだ」
「どこに安置されているのです?」
「それは……」

 歯切れの悪いアレク。なんだか言い辛そう。
 いったい、ルーナはどこに……?
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