毒殺されそうになりました

夜桜

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第18話 俺の婚約者

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 ルーナの行方が分からない。
 イングリッドも行方をくらませ、部屋から忽然と消えていた。いつの間に城を抜け出していたのだろう。

 アレクも彼を捜索する為に、衛兵を派遣。
 でも見つかる気配はなかった。

 けど、おかげでルーナの悪事が暴かれ、お父様が味方になってくれた。

 そのことは街中に知れ渡り、噂は広がった。
 今回の事件はルーナの毒殺事件として認知され、わたしとアレクは被害者であるとされた。


「あれから一日。ルーナは見つからないのですね」
「イリス、ルーナが心配かい」
「いえ、捕まって欲しいだけです」

「そうだね。捕まえて裁判を受けさせないと。でも、三十人体制で周囲を探しているけど、姿形は見当たらない。もしかしたら、暗黒街へ行ったかもね」

「暗黒街、ですか」


 そういえば、静かな森の奥深くには危険な街があるという都市伝説がある。
 そこはブラックマーケットとも呼ばれ、普通には流通しないものが高額取引されているとか。でも、信憑性はないとされている。

 けれど、わたしはそうは思わない。

 カブトギクを入手できたのだから……きっと。


「難しい顔をしているよ、イリス」
「あ……ちょっと考え事をしていて」
「なるほど。これは、ちょっと気分転換が必要だね。外へ行こうか」
「そうですね、ありがとうございます」


 アレクに連れられ、お城の外へ向かう。
 新しく馬車を買ったようで、すでに待機しているようだ。
 城門にはマックスウェルの姿が。

 彼はアレクに深くお辞儀した。


「お待ちしておりました、アレク様」
「準備はできたか、マックスウェル」
「ええ。出発可能です。ですが……」
「どうした、浮かない顔をして」
「……緊急でお客様が参られまして」
「おかしいな、そのような予定はなかったはず。まあいい、分かった。通してくれ」
「分かりました。少々お待ちを」


 わたしに視線を向け、アレクは少し困っていた。


「予定外の来客なのですね」
「ああ、そうなんだ。イリス、悪いんだが少し待ってくれ」
「大丈夫です。わたしはアレクと一緒ならどこでも平気です」
「ありがとう」


 少し待つと城外から、立派な身なりの金髪の女性が現れた。
 腰には剣。騎士の甲冑姿であるところ……もしかして、シュヴァルツローゼン騎士団。……まさか。


「お久しぶりです、アレク様」
「君は、ブリュンヒルデ・アイゼンハーツか」
「はい。ヴァイスヴァルト帝国より参りました」


 どうやら、二人は顔見知りらしい。


「俺の隣にいる女性は、イリス。俺の婚約者だ」


 ……良かった。そう紹介してもらえて。


「よろしくお願いします」
「イリス……様。ああ、もしかして毒殺事件の……!」


 ブリュンヒルデはとても驚いて、わたしを物珍しそうに観察した。そう、ジロジロ見られるとちょっと居心地が悪い。
 でも、本当に噂が広まっているんだ。


「それで、用件はなんだ?」
「はい、アレク様。この街でダモクレスノイドルの目撃情報がありました。なので、私が派遣されたわけです」

「なるほど、ルーナの捜索に来たわけじゃないのか」

「その件も耳にしております。ですが、帝国が一番危険視しているのはダモクレスノイドル。貴族を襲い、金品を強奪する大悪党ですよ」

「そうだな。街に潜伏しているかもしれないなら、危険だ。ブリュンヒルデ、しばらく滞在して調査を頼む」

「その為に参りました。アレク様、イリス様……それでは」


 姿勢のよい一礼をして、彼女は去っていく。ブリュンヒルデは、ダモクレスノイドルを追ってきたんだ。そうだったんだ。

 この街にいるのかな……?
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