1 / 6
婚約破棄
しおりを挟む
「エリザ、婚約指輪だ。受け取ってくれるかい」
美しい宝石のついた指輪を差し出され、わたしは感激した。彼がこんな風に指輪をプレゼントしてくれるだなんて、わたしはなんて幸せ者なのだろう。
嬉しくて、婚約指輪を嵌めてもらおうと思った――けれど。
「…………!」
「どうしたんだい、エリザ。さあ、指輪を」
「お待ち下さい、ヘイズ様。この指輪……ちょっと変ですよね」
「な、なにを言うんだい。これは普通の婚約指輪さ」
違う。これは明らかに猛毒が塗布されている指輪。それを証拠に少しだけ腐食している部分があった。貴金属の知識があるわたし目は誤魔化せない。
「伯爵……わたしを殺す気なんですね」
「お、おいおい。なにを言い出すんだい、エリザ。君を殺す? ありえないだろ。さあ、そんな物騒なことを言っていないで婚約指輪をつけてくれないか」
「お断ります。それに、これは立派な殺人未遂ですよ」
「なっ……! 言い掛かりだ! エリザ、それ以上の侮辱は公爵令嬢であるお前でも許さんぞ」
「なら、婚約破棄でも構いません。ええ、そうしましょう。最初からわたしとヘイズ様に愛などなかったのですね……。その方が悲しいです」
わたしは、ショックだった。こんな形で裏切られるなんて……。それに、どうしてわたしを殺そうとしたの? 愛していたのに。
「馬鹿を言え。さあ、指輪を嵌めて見せてくれ! それだけの話だろう」
「……最低ですね、伯爵。わたしをそんなにも殺したいんですか! もういいです!」
ハンカチを取り出し、その上から彼の持つ婚約指輪を弾き飛ばした。カランカランと床に転がっていく指輪。
「エ、エリザ! お前……!」
「全てを失うのは貴方ですよ、伯爵」
「くっ……」
「このことはお父様に報告します」
「やめろ!!」
強引に襲い掛かってくるヘイズ。
このような暴漢を黙らせる為に、わたしは兄から護身術を教えて貰っていた。体が軽やかに動いて、ヘイズの胸倉を掴む。そのまま一本背負いで吹き飛ばした。
「この最低男!!」
「――ぐあはあっ!?」
吹き飛ぶヘイズ。地面に体を打ちつけて痛そうにしていた。異常を察知した執事が駆けつけてきてくれた。
「大丈夫ですか、お嬢様」
「アーノルド、この男はわたしを殺そうとしました。騎士団へ突き出します」
「分かりました。僭越ながらこの老骨が対応いたします」
執事アーノルドは筋肉質な巨漢。わたしのボディガードだった。ヘイズは彼に任せ、わたしはこのことをお父様に知らせねば。
美しい宝石のついた指輪を差し出され、わたしは感激した。彼がこんな風に指輪をプレゼントしてくれるだなんて、わたしはなんて幸せ者なのだろう。
嬉しくて、婚約指輪を嵌めてもらおうと思った――けれど。
「…………!」
「どうしたんだい、エリザ。さあ、指輪を」
「お待ち下さい、ヘイズ様。この指輪……ちょっと変ですよね」
「な、なにを言うんだい。これは普通の婚約指輪さ」
違う。これは明らかに猛毒が塗布されている指輪。それを証拠に少しだけ腐食している部分があった。貴金属の知識があるわたし目は誤魔化せない。
「伯爵……わたしを殺す気なんですね」
「お、おいおい。なにを言い出すんだい、エリザ。君を殺す? ありえないだろ。さあ、そんな物騒なことを言っていないで婚約指輪をつけてくれないか」
「お断ります。それに、これは立派な殺人未遂ですよ」
「なっ……! 言い掛かりだ! エリザ、それ以上の侮辱は公爵令嬢であるお前でも許さんぞ」
「なら、婚約破棄でも構いません。ええ、そうしましょう。最初からわたしとヘイズ様に愛などなかったのですね……。その方が悲しいです」
わたしは、ショックだった。こんな形で裏切られるなんて……。それに、どうしてわたしを殺そうとしたの? 愛していたのに。
「馬鹿を言え。さあ、指輪を嵌めて見せてくれ! それだけの話だろう」
「……最低ですね、伯爵。わたしをそんなにも殺したいんですか! もういいです!」
ハンカチを取り出し、その上から彼の持つ婚約指輪を弾き飛ばした。カランカランと床に転がっていく指輪。
「エ、エリザ! お前……!」
「全てを失うのは貴方ですよ、伯爵」
「くっ……」
「このことはお父様に報告します」
「やめろ!!」
強引に襲い掛かってくるヘイズ。
このような暴漢を黙らせる為に、わたしは兄から護身術を教えて貰っていた。体が軽やかに動いて、ヘイズの胸倉を掴む。そのまま一本背負いで吹き飛ばした。
「この最低男!!」
「――ぐあはあっ!?」
吹き飛ぶヘイズ。地面に体を打ちつけて痛そうにしていた。異常を察知した執事が駆けつけてきてくれた。
「大丈夫ですか、お嬢様」
「アーノルド、この男はわたしを殺そうとしました。騎士団へ突き出します」
「分かりました。僭越ながらこの老骨が対応いたします」
執事アーノルドは筋肉質な巨漢。わたしのボディガードだった。ヘイズは彼に任せ、わたしはこのことをお父様に知らせねば。
40
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。
当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。
しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。
最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。
それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。
婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。
だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。
これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。
どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?
石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。
ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。
彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。
八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。
くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。
音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。>
婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。
冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。
「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」
【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。
大森 樹
恋愛
【短編】
公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。
「アメリア様、ご無事ですか!」
真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。
助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。
穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで……
あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。
★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。
婚約破棄を申し込まれたので、ちょっと仕返ししてみることにしました。
夢草 蝶
恋愛
婚約破棄を申し込まれた令嬢・サトレア。
しかし、その理由とその時の婚約者の物言いに腹が立ったので、ちょっと仕返ししてみることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる