公爵令嬢の白銀の指輪

夜桜

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婚約破棄

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「エリザ、婚約指輪だ。受け取ってくれるかい」

 美しい宝石のついた指輪を差し出され、わたしは感激した。彼がこんな風に指輪をプレゼントしてくれるだなんて、わたしはなんて幸せ者なのだろう。

 嬉しくて、婚約指輪をめてもらおうと思った――けれど。


「…………!」
「どうしたんだい、エリザ。さあ、指輪を」

「お待ち下さい、ヘイズ様。この指輪……ちょっと変ですよね」
「な、なにを言うんだい。これは普通の婚約指輪さ」


 違う。これは明らかに猛毒が塗布されている指輪。それを証拠に少しだけ腐食している部分があった。貴金属の知識があるわたし目は誤魔化せない。


「伯爵……わたしを殺す気なんですね」
「お、おいおい。なにを言い出すんだい、エリザ。君を殺す? ありえないだろ。さあ、そんな物騒なことを言っていないで婚約指輪をつけてくれないか」

「お断ります。それに、これは立派な殺人未遂ですよ」
「なっ……! 言い掛かりだ! エリザ、それ以上の侮辱は公爵令嬢であるお前でも許さんぞ」

「なら、婚約破棄でも構いません。ええ、そうしましょう。最初からわたしとヘイズ様に愛などなかったのですね……。その方が悲しいです」


 わたしは、ショックだった。こんな形で裏切られるなんて……。それに、どうしてわたしを殺そうとしたの? 愛していたのに。


「馬鹿を言え。さあ、指輪を嵌めて見せてくれ! それだけの話だろう」
「……最低ですね、伯爵。わたしをそんなにも殺したいんですか! もういいです!」

 ハンカチを取り出し、その上から彼の持つ婚約指輪を弾き飛ばした。カランカランと床に転がっていく指輪。

「エ、エリザ! お前……!」
「全てを失うのは貴方ですよ、伯爵」
「くっ……」

「このことはお父様に報告します」
「やめろ!!」

 強引に襲い掛かってくるヘイズ。
 このような暴漢を黙らせる為に、わたしは兄から護身術を教えて貰っていた。体が軽やかに動いて、ヘイズの胸倉を掴む。そのまま一本背負いで吹き飛ばした。


「この最低男!!」
「――ぐあはあっ!?」


 吹き飛ぶヘイズ。地面に体を打ちつけて痛そうにしていた。異常を察知した執事が駆けつけてきてくれた。


「大丈夫ですか、お嬢様」
「アーノルド、この男はわたしを殺そうとしました。騎士団へ突き出します」
「分かりました。僭越ながらこの老骨が対応いたします」


 執事アーノルドは筋肉質な巨漢。わたしのボディガードだった。ヘイズは彼に任せ、わたしはこのことをお父様に知らせねば。
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