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第3話 伯爵の悪事を密告したい
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帝国認定の呪術師・ギャレンは、伯爵ヴァーノンのお屋敷をぐるぐる歩き回っていく。その背後についていくヴァーノンとわたし。このままではギャレンと二人きりになれない……。
「確かに『呪い』の痕跡があるんだがな」
「ギャレン、君なら知っているだろう。僕が呪われた家系だってこと」
「それはそうだが、感じたのは“明確な殺意”だった。本来、ヴァーノンの呪いは受動的であり、己自身にしか振り掛からないモノのハズだ。だが、今回感じたのはそうではなかった……禁忌を犯したのではないのかな、ヴァーノン」
「くだらん。それに証拠がないだろう。死体が出てきたわけでもあるまいし」
自信有り気にヴァーノンは言い放つ。けれど、わたしは知っていた。彼は呪いの力を使ってカリルの遺体を処分したんだ。今やもう彼の体の行方は分からない。多分、無になってしまったんだと思う。……本当に酷い人。
「確かに冤罪の可能性も否定できないが、その調査の為に自分がいる。分かってくれ」
「……仕方ないな。納得するまで見回ればいいさ」
「では、ヴァーノン、悪いが一人にしてくれ」
「いいだろう。ただし、リディアは連れていく」
「悪いけどリディアさんにも聞きたいことがある」
……!
ギャレンのその言葉を待っていた。
もしかして、二人きりになれるかも……。
「リディアに? なら僕もいる」
「二人きりにしてくれ」
「ふざけるな。リディアとお前を二人きりにできるか!」
「ヴァーノン、自分は“皇帝陛下”に任されているんだよ。それはローエングリン帝国に逆らうと同義だ」
きっぱり物申すギャレンを前に、ヴァーノンは顔を引き攣らせた。さすがに強大な帝国が相手では分が悪い。ローエングリン帝国には、ギャレンのような優秀な呪術師やシャーマンがたくさん所属しているらしいと聞くし。逆らえば容赦ない公開処刑。だから誰も逆らわないし、逆らいたくない。
「分かった、いいだろう! リディアを貸してやる。ただし、指一本でも触れてみろ……お前を殴る。それくらいの権利はあるはずだ」
「少し話をするだけさ」
わたしの隣でギリギリと歯を鳴らすヴァーノンは、最後までギャレンを睨み部屋から去っていく。
「ごめんなさい、ギャレン様」
「いやいや。それより、ようやく話せたね。ヴァーノンは、自分と君を二人きりにしたがらないし、会話も許そうとしなかった。はっきり言って異常だよ」
その通り、彼は異常だ。
……いえ、そんな事よりも伯爵の悪事を密告しなきゃ。
「あの、お話があります」
「うん、それを聞こうと思っていた。手短にいこう」
わたしはヴァーノンの事を伝えようと思った。……その時、急に胸が苦しくなり、手で胸を抑えた。
「……うっ、どうして……こんな時に」
「どうかしたのかい、リディアさん」
「いえ、あの……」
も、もしかして『呪い』で話せないの……? ヴァーノンの殺人を伝えられない!? そんな……そんなのって。
よく見ると部屋の出入り口にヴァーノンの姿があった。彼は楽し気に笑い、今度こそ去っていく。……あの悪魔っ!!
「ん? リディアさん?」
「…………あ、あのっ……えっと……」
だめ。
ヴァーノンの事を口に出せない。
あの時の状況を伝えようとすると胸が苦しみ、口が止まってしまう。これは『呪い』としか思えない。この心臓の呪いは……そんな力もあるというの?
なんとかしなきゃ。
うまく彼に伝える方法を考えるの、わたし。永遠とヴァーノンの思い通りにさせるわけにはいかない。何か……何かないの? キョロキョロと周囲を見渡すと…………あっ!
机の上に『ペン』と『紙』があった。
そうよ、文字で書いて伝えればいいのよ。これしかない。
わたしはペンを手に取った――。
「確かに『呪い』の痕跡があるんだがな」
「ギャレン、君なら知っているだろう。僕が呪われた家系だってこと」
「それはそうだが、感じたのは“明確な殺意”だった。本来、ヴァーノンの呪いは受動的であり、己自身にしか振り掛からないモノのハズだ。だが、今回感じたのはそうではなかった……禁忌を犯したのではないのかな、ヴァーノン」
「くだらん。それに証拠がないだろう。死体が出てきたわけでもあるまいし」
自信有り気にヴァーノンは言い放つ。けれど、わたしは知っていた。彼は呪いの力を使ってカリルの遺体を処分したんだ。今やもう彼の体の行方は分からない。多分、無になってしまったんだと思う。……本当に酷い人。
「確かに冤罪の可能性も否定できないが、その調査の為に自分がいる。分かってくれ」
「……仕方ないな。納得するまで見回ればいいさ」
「では、ヴァーノン、悪いが一人にしてくれ」
「いいだろう。ただし、リディアは連れていく」
「悪いけどリディアさんにも聞きたいことがある」
……!
ギャレンのその言葉を待っていた。
もしかして、二人きりになれるかも……。
「リディアに? なら僕もいる」
「二人きりにしてくれ」
「ふざけるな。リディアとお前を二人きりにできるか!」
「ヴァーノン、自分は“皇帝陛下”に任されているんだよ。それはローエングリン帝国に逆らうと同義だ」
きっぱり物申すギャレンを前に、ヴァーノンは顔を引き攣らせた。さすがに強大な帝国が相手では分が悪い。ローエングリン帝国には、ギャレンのような優秀な呪術師やシャーマンがたくさん所属しているらしいと聞くし。逆らえば容赦ない公開処刑。だから誰も逆らわないし、逆らいたくない。
「分かった、いいだろう! リディアを貸してやる。ただし、指一本でも触れてみろ……お前を殴る。それくらいの権利はあるはずだ」
「少し話をするだけさ」
わたしの隣でギリギリと歯を鳴らすヴァーノンは、最後までギャレンを睨み部屋から去っていく。
「ごめんなさい、ギャレン様」
「いやいや。それより、ようやく話せたね。ヴァーノンは、自分と君を二人きりにしたがらないし、会話も許そうとしなかった。はっきり言って異常だよ」
その通り、彼は異常だ。
……いえ、そんな事よりも伯爵の悪事を密告しなきゃ。
「あの、お話があります」
「うん、それを聞こうと思っていた。手短にいこう」
わたしはヴァーノンの事を伝えようと思った。……その時、急に胸が苦しくなり、手で胸を抑えた。
「……うっ、どうして……こんな時に」
「どうかしたのかい、リディアさん」
「いえ、あの……」
も、もしかして『呪い』で話せないの……? ヴァーノンの殺人を伝えられない!? そんな……そんなのって。
よく見ると部屋の出入り口にヴァーノンの姿があった。彼は楽し気に笑い、今度こそ去っていく。……あの悪魔っ!!
「ん? リディアさん?」
「…………あ、あのっ……えっと……」
だめ。
ヴァーノンの事を口に出せない。
あの時の状況を伝えようとすると胸が苦しみ、口が止まってしまう。これは『呪い』としか思えない。この心臓の呪いは……そんな力もあるというの?
なんとかしなきゃ。
うまく彼に伝える方法を考えるの、わたし。永遠とヴァーノンの思い通りにさせるわけにはいかない。何か……何かないの? キョロキョロと周囲を見渡すと…………あっ!
机の上に『ペン』と『紙』があった。
そうよ、文字で書いて伝えればいいのよ。これしかない。
わたしはペンを手に取った――。
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