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第18話 愛の証明

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 金色の輝きが線を描いた。

 刹那で到達する剣を、ユーデクス様は刀身の細いレイピアでカエルム様の『星剣アウレア』を受け止めた。


「すごい……あんなペンのように細いのに」


 感心していると、ユーデクス様の持つレイピアがポキリと折れた。



「あああッ!! 俺のレイピアが……!」



 カランと折れた刃が転がる。

 えぇ……。

 これでもう決着?


「兄上、戯れは結構! それは兄上の武器ではないでしょう。いい加減に出されたら如何です……!」


 え、あのユーデクス様のレイピアはブラフ!?


「そうですよ、スピラちゃん。ユーデクスはレイピア使いではないのですよ。本当の武器はアレです」


 と、エキャルラット辺境伯はユーデクス様に注目される。わたしも注視する。すると――



「いいだろう。カエルム……そこまで俺を本気にさせるなら、それ相応の覚悟が出来ているというわけだ。ならば刮目かつもくせよ……!」



 少し距離を取られるユーデクス様は、詠唱をされた。



『カラムス・グラディオ・フォルティオル……』



 すると、ユーデクス様の周囲に光が。それは次第に虹色に輝き『羽根ペン』がいくつも浮遊し始めていた。どんどん現れるフェザーペン。


「こ、これがユーデクス様の剣……というかペン!」
「そうですよ。ユーデクスはペン使い。ペンは剣よりも強しという有名な言葉がありますね。その通り、ユーデクスはペンを使うのですよ」


 本当に物理的に使われる人がいるだなんて……あんな力があって、どうしてインペリアルガーディアンになられなかったのだろう。

 そんな風に思っている間にも、無数の羽ペンが矢のように飛んでいく。カエルム様はそれをかわす事なく、黄金の剣を一振りにされた。



「――――たぁッ!!」



 ブンと竜巻が現れて、羽ペンを巻き込んでいく。
 けれど、羽根ペンは意思を持ったかのように動き出し、再びカエルム様を狙う。……ど、どうなっているの、あのペン。



「無駄だ、カエルム。このペンはお前を蜂の巣にするまで動き続ける。……アウデンテム・フォルスクゥェ・ウェヌスクゥェ・ユウァト……!!」


 全ての羽根ペンが集結し、カエルム様に襲い掛かる。……い、いけない。あのままでは、カエルム様が……!


「……!」
「いけません、スピラ様」

「で、でも……」


 鳥のように高速で飛翔する羽根ペンは、カエルム様に激突する。彼は、黄金剣を地面に突き刺し、防御なされ耐えられていた。


「……カエルム様!」


 どうなったの?
 あまりに数が多いから…………あ!


 砂埃が晴れると、カエルム様の身体にいくつかの羽根ペンが突き刺さっていた。そんな……。


「ほう、カエルム。その奇怪な剣でいくつか叩き落としたか。通常ならばお前の身は穿うがたれ、出血多量で死んでいた」

「……ええ、全てを処理できませんでしたが……死んではいません」


 でも、かなりの傷を負われている。
 血があんなに滲んで……もう見ていられない。

 目を逸らすと、カエルム様がこう仰った。


「スピラ様。どうか僕を見ていて……必ず勝って、貴女の元へ」

「……はい」


 そうだ。目を逸らしても、二人の戦いは止まらないし、止められない。今はカエルム様の勝利を信じて帰りを待つ。それがわたしに出来る唯一の……。



「兄上、僕がどれほどスピラ様を愛しているか……教えてご覧に入れましょう」

「……ほう、それは是非ご教授願いたいな!!」


 再び大量の羽根ペンが空を覆いつくす。
 しかも、さっきよりも量が多い。

 これで決着をつける、という事なのね。


 わたしは祈る。

 カエルム様……どうか。



「……兄上、これが僕の愛の証明です」


 黄金の剣を振りかぶられる。




『――――コーギトー・エルゴー・スム』




 そう叫ばれた瞬間には、辺り一面が金色に染まっていた。美しくも儚げな砂金が零れ落ちていく。


「……なんて輝きなの」


 眩しすぎて目を開けていられない。
 その時をじっと待っていれば――


「……」


 次第に光は消えていき、視界が戻る。



「…………こ、これは」



 ユーデクス様のお姿がなかった。
 庭の地面はスプーンですくい取ったかのような大きな穴が。それがお屋敷の果てまで続いていた。


「……くっ」


 がたっとカエルム様がひざを地面につけられ、苦しそうな表情をされた。わたしは急いで駆けだし、彼の元へ。


「カエルム様……!」
「……スピラ様、僕はやりました。兄を超えたんです」

「ええ、この眼でしかと――」


 その時、カエルム様の顔が恐怖で引きり、わたしの体を押し出した。



「え……」



 ドンと体が舞う――。


 でも、それよりよりもカエルム様に剣が――



「――――がはぁッ」



 うそ……わたしをかばって……?



「……そんな、どうして……エキャルラット辺境伯!!」

「……ふふ。ふふふはははは……スピラ、まさか、まだ私をエキャルラット辺境伯と勘違いしているのかね」


「そ、その声……まさかヘルブラオ・ヴァインロート!!」


 エキャルラット辺境伯だと思われた男が顔に手を当てて、ベリっと変装を剥がす。……まさか、そんな……!!
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