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第5話 聖女かもしれない
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「あ、あの……なぜお屋敷の中に礼拝堂があるのですか?」
「これは父エキャルラット辺境伯の趣味なのです。革新的といいますか、昔から変わった人で……そう、そのせいで兄のユーデクスの頭もちょっとアレなのです。でも、僕はそれでも二人を尊敬しています……」
うん、微妙な間と少々の躊躇が見えた。
見なかった事にしよう。
それにしても、これは凄すぎる。
玄関に入っていきなりユーデクス様の髪色のような……いえ、虹のステンドグラスに迎えられるとか――ちょっと得した気分。
「それでは参りましょう。右の階段に画廊があり、抜けると大広間です」
案内され、カエルム様についていく。
「……絵画が沢山飾ってありますね」
「ええ。どれも素晴らしい芸術品で、億はくだらない代物です。辺境伯のコレクションの一部ですよ」
広い階段通路は偉人の名画がズラリ。なんだか落ち着かない……。転んで傷つけようものなら、恐ろしい損害賠償金が請求されそう。
顔面蒼白状態で、わたしは恐る恐る階段を上っていく。
「……? スピラ様、足元が覚束ないようですが。もし不慣れであるのなら、僕がお手をお貸ししますよ」
そう手を向けてくれるカエルム様。なんてお気遣い。ヘルブラオ・ヴァインロートとは大違いである。
わたしは遠慮なく手を借りる――――つァ!?
その時、わたしは足を滑らせてしまい絵画の方へ頭から突っ込みそうになった――けれど、カエルム様が咄嗟にわたしの身体を支えて下さった。
「…………あぶなかったぁ……」
あと数ミリでわたしの頭部が激突し、絵がビリビリに破れ、傷物になるところだった……。本当にあと数ミリだった……奇跡というか何と言うか。カエルム様にまた助けられてしまった。
「大丈夫ですか?」
「ありがとう、カエルム様。……あ」
彼の顔がすぐ傍にあって、ドキッとした。
次第に心臓がドキドキ、バクバクっとして……顔が真っ赤になったのが分かった。こ、これが……恋というもの?
思えば、わたしは真剣な恋すらした事がなかった。
あの憎きヘルブラオ・ヴァインロートとは、恋仲から発展したのではなかった。満足なお見合いもなく、彼の一方的な求婚だったのだ。
「スピラ様……」
「――――カエルム様」
お互い見つめ合って、瞳の奥を探り合う。今、彼はなにを想っているのだろう……とか思っていれば――。
「まったく、親父は何故俺に庭師の仕事をさせるんだ……俺はこれでも騎士だぞ。……って、あ――」
庭の手入れを終えてきたらしいユーデクス様が偶然にも階段を上がってこられた。……こ、こんな時にー!
彼はわたしとカエルム様を交互に見つめ――
「ご……ごゆっくり!」
と、再び階段を下りられたのだけど、途中で足を踏み外したらしく、尻餅をつかれて転げ落ちてしまったらしい。下の方でドシャン、ガシャンと物音がしていた。
「あ、あの……お兄さんが……」
「あ、あぁ、そうですね。助けに行ってきます」
カエルム様は誤魔化すようにして、兄のユーデクス様を助けに行った。
◇
もう何度驚いたか分からない。
大広間も庭のように広くて高級なテーブルと椅子、画廊にあったような名画がズラリ。よく分からない動物の像とか壺やら、とにかく豪華絢爛だった。
案内された椅子に座ると、カエルム様が紅茶を淹れて下さった。
「あ、あの……このお屋敷はメイドさんとかいらっしゃらないのですか?」
「残念ながらメイドは雇っていないのです。これは辺境伯のご意思でありまして、僕や兄を誘惑するのではないかと、そういう杞憂があったようなのです。もしも身分の低いメイドと結婚となると、立場が悪くなると口酸っぱく釘を刺されているのです」
み、身分かー…わたしは一応、貴族で良かった。なんとかチャンスはありそうねッ。
「良かった」
「ん?」
「い、いえ……」
紅茶を啜って誤魔化す。
「でも、僕はスピラ様がどのような身分の方だったとしても、好きになります」
いきなり言われ、わたしは紅茶を噴いた。
「――!? あのあの……」
「ああ、これは突然失礼を。どうぞ、これでお拭きになって下さい」
テーブルナプキンを受け取り、口元を綺麗にする。……こんな醜態を晒してしまうだなんて、恥ずかしい。
「ありがとうございます」
元通りにして、再びカップに口をつける。
「スピラ様、突然で動揺されるかもしれませんが聞いて下さい。貴女様は『聖女』かもしれないのです」
「ぶっ――――!!」
本当に突然すぎて、また紅茶を噴いた。
……今度は勢い誤ってカエルム様のお顔に!
わ、わたし、なんて事を!
「これは父エキャルラット辺境伯の趣味なのです。革新的といいますか、昔から変わった人で……そう、そのせいで兄のユーデクスの頭もちょっとアレなのです。でも、僕はそれでも二人を尊敬しています……」
うん、微妙な間と少々の躊躇が見えた。
見なかった事にしよう。
それにしても、これは凄すぎる。
玄関に入っていきなりユーデクス様の髪色のような……いえ、虹のステンドグラスに迎えられるとか――ちょっと得した気分。
「それでは参りましょう。右の階段に画廊があり、抜けると大広間です」
案内され、カエルム様についていく。
「……絵画が沢山飾ってありますね」
「ええ。どれも素晴らしい芸術品で、億はくだらない代物です。辺境伯のコレクションの一部ですよ」
広い階段通路は偉人の名画がズラリ。なんだか落ち着かない……。転んで傷つけようものなら、恐ろしい損害賠償金が請求されそう。
顔面蒼白状態で、わたしは恐る恐る階段を上っていく。
「……? スピラ様、足元が覚束ないようですが。もし不慣れであるのなら、僕がお手をお貸ししますよ」
そう手を向けてくれるカエルム様。なんてお気遣い。ヘルブラオ・ヴァインロートとは大違いである。
わたしは遠慮なく手を借りる――――つァ!?
その時、わたしは足を滑らせてしまい絵画の方へ頭から突っ込みそうになった――けれど、カエルム様が咄嗟にわたしの身体を支えて下さった。
「…………あぶなかったぁ……」
あと数ミリでわたしの頭部が激突し、絵がビリビリに破れ、傷物になるところだった……。本当にあと数ミリだった……奇跡というか何と言うか。カエルム様にまた助けられてしまった。
「大丈夫ですか?」
「ありがとう、カエルム様。……あ」
彼の顔がすぐ傍にあって、ドキッとした。
次第に心臓がドキドキ、バクバクっとして……顔が真っ赤になったのが分かった。こ、これが……恋というもの?
思えば、わたしは真剣な恋すらした事がなかった。
あの憎きヘルブラオ・ヴァインロートとは、恋仲から発展したのではなかった。満足なお見合いもなく、彼の一方的な求婚だったのだ。
「スピラ様……」
「――――カエルム様」
お互い見つめ合って、瞳の奥を探り合う。今、彼はなにを想っているのだろう……とか思っていれば――。
「まったく、親父は何故俺に庭師の仕事をさせるんだ……俺はこれでも騎士だぞ。……って、あ――」
庭の手入れを終えてきたらしいユーデクス様が偶然にも階段を上がってこられた。……こ、こんな時にー!
彼はわたしとカエルム様を交互に見つめ――
「ご……ごゆっくり!」
と、再び階段を下りられたのだけど、途中で足を踏み外したらしく、尻餅をつかれて転げ落ちてしまったらしい。下の方でドシャン、ガシャンと物音がしていた。
「あ、あの……お兄さんが……」
「あ、あぁ、そうですね。助けに行ってきます」
カエルム様は誤魔化すようにして、兄のユーデクス様を助けに行った。
◇
もう何度驚いたか分からない。
大広間も庭のように広くて高級なテーブルと椅子、画廊にあったような名画がズラリ。よく分からない動物の像とか壺やら、とにかく豪華絢爛だった。
案内された椅子に座ると、カエルム様が紅茶を淹れて下さった。
「あ、あの……このお屋敷はメイドさんとかいらっしゃらないのですか?」
「残念ながらメイドは雇っていないのです。これは辺境伯のご意思でありまして、僕や兄を誘惑するのではないかと、そういう杞憂があったようなのです。もしも身分の低いメイドと結婚となると、立場が悪くなると口酸っぱく釘を刺されているのです」
み、身分かー…わたしは一応、貴族で良かった。なんとかチャンスはありそうねッ。
「良かった」
「ん?」
「い、いえ……」
紅茶を啜って誤魔化す。
「でも、僕はスピラ様がどのような身分の方だったとしても、好きになります」
いきなり言われ、わたしは紅茶を噴いた。
「――!? あのあの……」
「ああ、これは突然失礼を。どうぞ、これでお拭きになって下さい」
テーブルナプキンを受け取り、口元を綺麗にする。……こんな醜態を晒してしまうだなんて、恥ずかしい。
「ありがとうございます」
元通りにして、再びカップに口をつける。
「スピラ様、突然で動揺されるかもしれませんが聞いて下さい。貴女様は『聖女』かもしれないのです」
「ぶっ――――!!」
本当に突然すぎて、また紅茶を噴いた。
……今度は勢い誤ってカエルム様のお顔に!
わ、わたし、なんて事を!
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