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第2話 オーリム家の紋章
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「スピラ・ネルウス様」
「スピラでいいです」
「では、スピラ様。オーリム家へ――」
「そんな……見知らずの方に助けて戴くなんて……」
でも、わたしにはもう住む場所もお金さえも失っていた。あの憎きヘルブラオ・ヴァインロートの悪逆非道で何もかもを失った……。
そりゃ、わたしもお金をちょっと使いすぎたかな~…って罪悪感も少し、ほんの少しあるけれど、そういう条件だったし……彼が構わないって言うから……。
「スピラ様、泣くほど辛い思いをされたのですね。この僕、カエルム・オーリムが貴女様を必ず幸せにしてみせましょう」
「……!」
ヘルブラオから黒糖ダメ出しをフラッシュバックして、悔しくて涙ぐんでいると、カエルム様は何か勘違いされたようで、同情してくれた。
「泣き止むまでお傍にいますから」
なんと優しい!
黒糖の事だったので複雑だけど、でもちょっと嬉しい……。
「ありがとう、オーリム様」
「やっとこっちを向いてくれましたね。僕の事はカエルムと気軽に呼んで下さい」
「カエルム様」
「はい」
「あの、カエルム様は本当にエキャルラット辺境伯の?」
「そうですよ。この徽章が証拠です」
彼の煌びやかな刺繍の入った紳士服に注目する。そこの胸部分に小さなバッジがあった。あのヘニョヘニョのドラゴンだかヘビだか分からないマークは間違いない。あんな独特すぎるの、この帝国でしか見かけないし。
オーリム家の紋章だ。
「ホ、ホンモノ……」
「信じてくれました?」
「は、はい。驚きました、こんな場所に元大英雄の息子さんがいらっしゃるだなんて……思わないですよ、普通」
てっきりニセモノさんかと思っていたのだけど。最近、貴族の名を偽る盗賊詐欺集団とかいるらしいってヘルブラオから聞いた。
……ヘルブラオ。
うぅ、名を思い出すだけでムカツク。
「そういうスピラ様は、ネルウス家のご令嬢ですよね?」
「え、ええ……御存知でしたの」
「はい。貴女の腰まで流れる美しい金髪。そのサファイアとエメラルドに匹敵するオッドアイの瞳……そして、メイド服――」
メイド服はヘルブラオの趣味だけど!
自分でも気に入ってるのでこのままだった。
「貴女ほど素敵で、お美しい女性を捨てるなど……ヘルブラオは見る目がない。彼の目は節穴……いえ、それにも劣る落とし穴ですよ!」
「お、落とし穴……? で、でも、そう言って戴けてると重く圧し掛かっていた肩の荷が下りる気分というか……少しだけ胸がすっとしました」
「それで良ければですが、スピラ様。我が家へご招待したいのです」
「いいんですか、こんなわたしで。何も持っていませんし、返せる物も何もありません」
「何もなんてとんでもない! 先ほども申したでしょう、スピラ様は素晴らしい美貌をお持ちだ。これは聖仗神・ペルペトゥスの祝福とである言っても過言ではないでしょう。スピラ様、貴方は神の寵愛を一身に受けているはずです。ええ、この僕が保証します」
ここまで親身にしてくれるとか、あの頭の天辺から足の爪先まで貴族のヘルブラオでは有り得なかった。彼はわたしの容姿とか褒めてくれた事は一度も無かった。
彼が欲しかったのは、ネルウス家の令嬢。最初はただ所有欲とか優越感を満たしたかっただけだろう。それだけのステータスの為だったに違いない。だって、彼からは愛が感じれなかった。本当に愛しているのなら、わたしの全てを奪わないはずだ。
それなのに――。
「本当の本当に良いんですか」
「ええ、ハッキリ言いましょう。僕はスピラ様を一目見た時からぞっこんなのです」
カエルム様は、わたしの事を本気で好きになってくれそうって思えた。こんなわたしを愛してくれるのなら――幸せにしてくれるのなら、これ以上の望みはない。
「カエルム様……わたし」
「……はい」
返事をしようとしたその時――
「カエルム!」
目の前にカエルム様を呼ぶ女性が――え?
「スピラでいいです」
「では、スピラ様。オーリム家へ――」
「そんな……見知らずの方に助けて戴くなんて……」
でも、わたしにはもう住む場所もお金さえも失っていた。あの憎きヘルブラオ・ヴァインロートの悪逆非道で何もかもを失った……。
そりゃ、わたしもお金をちょっと使いすぎたかな~…って罪悪感も少し、ほんの少しあるけれど、そういう条件だったし……彼が構わないって言うから……。
「スピラ様、泣くほど辛い思いをされたのですね。この僕、カエルム・オーリムが貴女様を必ず幸せにしてみせましょう」
「……!」
ヘルブラオから黒糖ダメ出しをフラッシュバックして、悔しくて涙ぐんでいると、カエルム様は何か勘違いされたようで、同情してくれた。
「泣き止むまでお傍にいますから」
なんと優しい!
黒糖の事だったので複雑だけど、でもちょっと嬉しい……。
「ありがとう、オーリム様」
「やっとこっちを向いてくれましたね。僕の事はカエルムと気軽に呼んで下さい」
「カエルム様」
「はい」
「あの、カエルム様は本当にエキャルラット辺境伯の?」
「そうですよ。この徽章が証拠です」
彼の煌びやかな刺繍の入った紳士服に注目する。そこの胸部分に小さなバッジがあった。あのヘニョヘニョのドラゴンだかヘビだか分からないマークは間違いない。あんな独特すぎるの、この帝国でしか見かけないし。
オーリム家の紋章だ。
「ホ、ホンモノ……」
「信じてくれました?」
「は、はい。驚きました、こんな場所に元大英雄の息子さんがいらっしゃるだなんて……思わないですよ、普通」
てっきりニセモノさんかと思っていたのだけど。最近、貴族の名を偽る盗賊詐欺集団とかいるらしいってヘルブラオから聞いた。
……ヘルブラオ。
うぅ、名を思い出すだけでムカツク。
「そういうスピラ様は、ネルウス家のご令嬢ですよね?」
「え、ええ……御存知でしたの」
「はい。貴女の腰まで流れる美しい金髪。そのサファイアとエメラルドに匹敵するオッドアイの瞳……そして、メイド服――」
メイド服はヘルブラオの趣味だけど!
自分でも気に入ってるのでこのままだった。
「貴女ほど素敵で、お美しい女性を捨てるなど……ヘルブラオは見る目がない。彼の目は節穴……いえ、それにも劣る落とし穴ですよ!」
「お、落とし穴……? で、でも、そう言って戴けてると重く圧し掛かっていた肩の荷が下りる気分というか……少しだけ胸がすっとしました」
「それで良ければですが、スピラ様。我が家へご招待したいのです」
「いいんですか、こんなわたしで。何も持っていませんし、返せる物も何もありません」
「何もなんてとんでもない! 先ほども申したでしょう、スピラ様は素晴らしい美貌をお持ちだ。これは聖仗神・ペルペトゥスの祝福とである言っても過言ではないでしょう。スピラ様、貴方は神の寵愛を一身に受けているはずです。ええ、この僕が保証します」
ここまで親身にしてくれるとか、あの頭の天辺から足の爪先まで貴族のヘルブラオでは有り得なかった。彼はわたしの容姿とか褒めてくれた事は一度も無かった。
彼が欲しかったのは、ネルウス家の令嬢。最初はただ所有欲とか優越感を満たしたかっただけだろう。それだけのステータスの為だったに違いない。だって、彼からは愛が感じれなかった。本当に愛しているのなら、わたしの全てを奪わないはずだ。
それなのに――。
「本当の本当に良いんですか」
「ええ、ハッキリ言いましょう。僕はスピラ様を一目見た時からぞっこんなのです」
カエルム様は、わたしの事を本気で好きになってくれそうって思えた。こんなわたしを愛してくれるのなら――幸せにしてくれるのなら、これ以上の望みはない。
「カエルム様……わたし」
「……はい」
返事をしようとしたその時――
「カエルム!」
目の前にカエルム様を呼ぶ女性が――え?
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