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第1話 婚約破棄
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「スピラ、もういい加減にしてくれッ!」
婚約者のヘルブラオ・ヴァインロートは鬼形相で、わたしに問い詰めてくる。その理由は自覚していた。
「お金を使いすぎた事なら謝るわ! でも、そういう条件で婚約して同棲を始めたんじゃない!」
「だからって、スピラ……好き勝手にブランド物のバックや衣類、宝石類まで買いまくって! あと何で黒糖のお菓子がこ~~~なに山積みなんだよ! ありえんだろ! 渋すぎだろ! これどうするんだよォ!? ヴァインロート家は貴族とはいえ、破産だぞォ!!」
わたしは黒糖が大好きだった。
あの癖になる純粋な甘さがたまらなかった。あれなら永遠に食べていられるもの。誰がなんと言おうと美味しいの!!
「ヘルブラオ! 黒糖を馬鹿にしたわね!?」
「いや、馬鹿にはしてないよ! ただ箱が十段も積み上がっているし、いくらなんでも買いすぎだろうって言いたいんだよ。もういい、婚約破棄だー!!!」
「ええええ――ッ!!」
わたしは黒糖と引き換えに居場所を失った……。そんな、婚約破棄だなんて信じられない……これ、夢? そうよ、夢よ。悪夢よ。悪い夢なら今すぐ覚めて頂戴!
頬を抓るけれど、夢は覚めない。
……あ、これ現実なんだ。
ヴァインロート家を追い出されたわたしは『帝国ウィスティリア』をひとり彷徨っていた。なんて事、同棲してたったの三日で追い出されるとか……想定外だった。
「まったく、黒糖の良さが分からないとか……サイテーの男ねッ」
ぶつぶつと呟きながら歩いていると――
「そこのメイド服に身を包んでいる裸足のお嬢さん……」
男性から話しかけられた。
黒髪のイケメン!
因みに、メイド服はヘルブラオ・ヴァインロートの趣味で着せられていた。
「は、はい……なんでしょう?」
「頬に黒糖ついていますよ」
「……えっ」
自身の頬を触ってみると、お菓子のカケラがボロリと……。こ、これは恥ずかしいっ……きゃぁぁあッ!!
わたしは赤面して、逃げるしかなかった。
帝国の中央噴水広場。
わたしは、そこにあるベンチに腰掛けてこれからどうしようかと考えた。……実家に帰ろうかしら。それとも、ヘルブラオに謝って……いえ、それは絶対にないわ。アイツに頭を下げるくらいなら、オークに頭を下げる方がマシだ。
なんて闘志を燃やしていると――
「――スピラ・ネルウス様」
「?」
またまたイケメンに話しかけられた。
あら、なんて眉目秀麗な紳士様。
ドキッとして頬を確かめる。
今度は大丈夫ねッ、バッチシ。
「スピラ・ネルウス様ですよね」
「え、ええ……貴方は?」
「はじめまして、カエルム・オーリムです。エキャルラット辺境伯の息子です」
「エキャルラット辺境伯様の……!?」
エキャルラット辺境伯といえば、元大英雄と呼ばれた名高い貴族。世界に名を轟かせている有名人だ。そんな人の息子がなぜ、わたしなんかに……?
「驚かれたでしょう。実は……」
「え、ええ……非常に」
「ヘルブラオ・ヴァインロート殿と婚約破棄されたと聞き及びまして……それで、スピラ・ネルウス様さえよければ、僕とお見合いをして戴きたいのです」
「そうですけど……って、えぇ! どうしてもう婚約破棄の事を御存知なんですか? まだ誰にも発表していませんけれど」
「先ほどです。たった三分前にヘルブラオ・ヴァインロート殿が大々的に公表されたのです。しかも、貴女様の全財産が差し押さえられております。つまり、スピラ・ネルウス様は何かもを失われました――ですので僕は、身投げしないかと心配した貴女を緊急で捜索した次第なのです」
「ちょ、ちょっと待って……」
ガタガタ震える手でわたしは頭を押さえた――。
ありえないでしょ。
たった三分前に婚約破棄の公表ですって!? しかも全財産差し押さえ!? それってまるで……まるで……事前準備していたかのような――そんな感じじゃないッ!
あの男……!
ヘルブラオ・ヴァインロート!!
「わたしを騙していたのね!!」
婚約者のヘルブラオ・ヴァインロートは鬼形相で、わたしに問い詰めてくる。その理由は自覚していた。
「お金を使いすぎた事なら謝るわ! でも、そういう条件で婚約して同棲を始めたんじゃない!」
「だからって、スピラ……好き勝手にブランド物のバックや衣類、宝石類まで買いまくって! あと何で黒糖のお菓子がこ~~~なに山積みなんだよ! ありえんだろ! 渋すぎだろ! これどうするんだよォ!? ヴァインロート家は貴族とはいえ、破産だぞォ!!」
わたしは黒糖が大好きだった。
あの癖になる純粋な甘さがたまらなかった。あれなら永遠に食べていられるもの。誰がなんと言おうと美味しいの!!
「ヘルブラオ! 黒糖を馬鹿にしたわね!?」
「いや、馬鹿にはしてないよ! ただ箱が十段も積み上がっているし、いくらなんでも買いすぎだろうって言いたいんだよ。もういい、婚約破棄だー!!!」
「ええええ――ッ!!」
わたしは黒糖と引き換えに居場所を失った……。そんな、婚約破棄だなんて信じられない……これ、夢? そうよ、夢よ。悪夢よ。悪い夢なら今すぐ覚めて頂戴!
頬を抓るけれど、夢は覚めない。
……あ、これ現実なんだ。
ヴァインロート家を追い出されたわたしは『帝国ウィスティリア』をひとり彷徨っていた。なんて事、同棲してたったの三日で追い出されるとか……想定外だった。
「まったく、黒糖の良さが分からないとか……サイテーの男ねッ」
ぶつぶつと呟きながら歩いていると――
「そこのメイド服に身を包んでいる裸足のお嬢さん……」
男性から話しかけられた。
黒髪のイケメン!
因みに、メイド服はヘルブラオ・ヴァインロートの趣味で着せられていた。
「は、はい……なんでしょう?」
「頬に黒糖ついていますよ」
「……えっ」
自身の頬を触ってみると、お菓子のカケラがボロリと……。こ、これは恥ずかしいっ……きゃぁぁあッ!!
わたしは赤面して、逃げるしかなかった。
帝国の中央噴水広場。
わたしは、そこにあるベンチに腰掛けてこれからどうしようかと考えた。……実家に帰ろうかしら。それとも、ヘルブラオに謝って……いえ、それは絶対にないわ。アイツに頭を下げるくらいなら、オークに頭を下げる方がマシだ。
なんて闘志を燃やしていると――
「――スピラ・ネルウス様」
「?」
またまたイケメンに話しかけられた。
あら、なんて眉目秀麗な紳士様。
ドキッとして頬を確かめる。
今度は大丈夫ねッ、バッチシ。
「スピラ・ネルウス様ですよね」
「え、ええ……貴方は?」
「はじめまして、カエルム・オーリムです。エキャルラット辺境伯の息子です」
「エキャルラット辺境伯様の……!?」
エキャルラット辺境伯といえば、元大英雄と呼ばれた名高い貴族。世界に名を轟かせている有名人だ。そんな人の息子がなぜ、わたしなんかに……?
「驚かれたでしょう。実は……」
「え、ええ……非常に」
「ヘルブラオ・ヴァインロート殿と婚約破棄されたと聞き及びまして……それで、スピラ・ネルウス様さえよければ、僕とお見合いをして戴きたいのです」
「そうですけど……って、えぇ! どうしてもう婚約破棄の事を御存知なんですか? まだ誰にも発表していませんけれど」
「先ほどです。たった三分前にヘルブラオ・ヴァインロート殿が大々的に公表されたのです。しかも、貴女様の全財産が差し押さえられております。つまり、スピラ・ネルウス様は何かもを失われました――ですので僕は、身投げしないかと心配した貴女を緊急で捜索した次第なのです」
「ちょ、ちょっと待って……」
ガタガタ震える手でわたしは頭を押さえた――。
ありえないでしょ。
たった三分前に婚約破棄の公表ですって!? しかも全財産差し押さえ!? それってまるで……まるで……事前準備していたかのような――そんな感じじゃないッ!
あの男……!
ヘルブラオ・ヴァインロート!!
「わたしを騙していたのね!!」
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