上 下
8 / 10

伯爵の乗っ取り計画

しおりを挟む
 ヴァンは、わたしを殺すだけではなく……公爵であるルシウスを潰し、彼の立場を乗っ取ろうとしていた。

「公爵になりたいってこと?」

 ケルヴィンに聞くと彼はこう言った。

「いや、そうではないのです。伯爵はルシウス様になりたいんです」
「え……どういう意味?」

「文字通りです。奥方を排除した後にルシウス様も殺すんです。もちろん、誰にも見つからないようにですね。
 それから、伯爵自身がルシウス様に成り代わり、平民どもを支配するとおっしゃっておりました」


 そんなことが出来るわけない。
 そもそも、容姿が違うし……。


「顔はどうするのですか」
「簡単なことです。この医者である私が伯爵の顔を整形するんですよ。ルシウス様の容姿をそっくりそのまま再現すれば乗っ取り完了……ということです」


 どうやら、ケルヴィンにはその技術があるみたいだった。美しくするだけではなく、その人の顔を別人にすることも容易いと豪語した。
 そっか、病気に関してヤブ医者な理由が分かった。
 診断は適当で、本当は“整形”が専門なんだ。

 だから、伯爵ヴァンに雇われた。


「ケルヴィン、貴様!!」

「お、お待ち下さい……ルシウス様! 私だって、ただヴァンの言いなりになったわけではないのですよ! 確かに、高額の報酬を戴けることにもなっていました。ですが、遠回しに家族を殺すぞと脅されてもいたのです。本当です!」

「信じられるか! やはりお前は処刑するべきか」
「そんな、話が違いますよ……!」

 涙目になり、青ざめて混乱するケルヴィン。このままでは話が終わらない。

「落ち着いてください、ルシウス様」
「そ、そうだな。リリス、僕はどうかしていたよ。とにかく、これでヤツの計画は明らかになった。次は伯爵の居場所だ」

 ケルヴィンの肩を強く握るルシウス。
 ギリギリと音を立て、痛そうだ。

「ひぃぃぃ!! お、お止めください、ルシウス様……痛い、痛いです!!」
「母の苦しみに比べれば、こんな痛みはどうということはない。さあ、ヴァンの居場所を吐け。ヤツは屋敷にいなかったからな」

「伯爵は、私の失敗に気づいて既に次のプランを練っているのでしょう。……恐らく、別荘かと」

「なるほど、別荘に隠れているわけか。どこにある」
「西側のエリアです……。アジュガ通りの赤い煉瓦れんがの家ですよ」


 伯爵ヴァンの恐ろしい計画と居場所が判明した。


「これで伯爵を追い詰められる。ヤツを断罪して一生後悔させてやる」
「ルシウス様、これで上手くいくんですね」
「ああ、そうだ、リリス。ヴァンに痛い目を見せてやろう」
「はい……必ずや断罪を!」


 あとはルシウスが騎士団を動かしたりしてくれるはず。近いうちにきっと伯爵は全てを失うだろう。早く……早く地獄に落ちて欲しい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

裏切りの公爵令嬢は処刑台で笑う

千 遊雲
恋愛
公爵家令嬢のセルディナ・マクバーレンは咎人である。 彼女は奴隷の魔物に唆され、国を裏切った。投獄された彼女は牢獄の中でも奴隷の男の名を呼んでいたが、処刑台に立たされた彼女を助けようとする者は居なかった。 哀れな彼女はそれでも笑った。英雄とも裏切り者とも呼ばれる彼女の笑みの理由とは? 【現在更新中の「毒殺未遂三昧だった私が王子様の婚約者? 申し訳ありませんが、その令嬢はもう死にました」の元ネタのようなものです】

死んだ妹そっくりの平民の所為で婚約破棄と勘当を言い渡されたけど片腹痛いわ!

サイコちゃん
恋愛
突然、死んだ妹マリアにそっくりな少女が男爵家を訪れた。男爵夫妻も、姉アメリアの婚約者ロイドも、その少女に惑わされる。しかしアメリアだけが、詐欺師だと見抜いていた。やがて詐欺師はアメリアを陥れ、婚約破棄と勘当へ導く。これでアメリアは後ろ盾もなく平民へ落ちるはずだった。しかし彼女は圧倒的な切り札を持っていたのだ――

この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。

サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――

【完結】何でも奪っていく妹が、どこまで奪っていくのか実験してみた

東堂大稀(旧:To-do)
恋愛
 「リシェンヌとの婚約は破棄だ!」  その言葉が響いた瞬間、公爵令嬢リシェンヌと第三王子ヴィクトルとの十年続いた婚約が終わりを告げた。    「新たな婚約者は貴様の妹のロレッタだ!良いな!」  リシェンヌがめまいを覚える中、第三王子はさらに宣言する。  宣言する彼の横には、リシェンヌの二歳下の妹であるロレッタの嬉しそうな姿があった。  「お姉さま。私、ヴィクトル様のことが好きになってしまったの。ごめんなさいね」  まったく悪びれもしないロレッタの声がリシェンヌには呪いのように聞こえた。実の姉の婚約者を奪ったにもかかわらず、歪んだ喜びの表情を隠そうとしない。  その醜い笑みを、リシェンヌは呆然と見つめていた。  まただ……。  リシェンヌは絶望の中で思う。  彼女は妹が生まれた瞬間から、妹に奪われ続けてきたのだった……。 ※全八話 一週間ほどで完結します。

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)

眠りから目覚めた王太子は

基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」 ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。 「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」 王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。 しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。 「…?揃いも揃ってどうしたのですか」 王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。 永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。

処理中です...