7 / 10
己を救えるのは己だけ
しおりを挟む
変装を終え、わたしとルシウスは街へ向かった。
さっそくヴァンの情報を集める為に。
ローゼル帝国の中心街。
その大通りは商店街もなっていて、非常に活気がある。この大通りはお城まで露店が続く。
歩くのも大変なほどの賑わい。
最果てへ辿り着く頃には日が暮れるだろう。
「久しぶりにランタナ中央区を訪れましたが、凄い混雑ですね」
「ああ、これぞ帝国の雑踏。この喧噪が心地よいとさえ思う。だが、今はヴァンの件だ。彼をよく知る人物に会おう」
「彼をよく知る人物……?」
「こっちだ」
ルシウスの後をついていくと、活気のない裏道へ入った。
途端に空気が変わって冷たくなる。
なんだろう……。
ここは少し淀んでいる。
貴族が立ち入るような道ではない。
けれど、そうも言っていられない。
陰のような場所を歩く。
少しして寂れた酒場の前でルシウスは足を止めた。
「ここは……」
「ある者の行きつけの酒場らしくてね。入れば分かるさ。さあ、リリス……僕から離れないようくっ付いて」
「は、はい……」
不安でいっぱいになりつつも、ルシウスの腕に縋りつけてわたしは嬉しい。
酒場に入ると、そこは薄暗くあまり良い雰囲気とも言えなかった。
なんなの、ここ……。
カウンターへ向かうと、そこには鎖で拘束された男が……って、まさか。
「気づいたようだね、リリス。そうさ、この男に用があって来た」
「この方は……ヤブ医者の」
「そう。この男は医者のケルヴィン。ケルヴィン・アシモグルだ。この男なら伯爵のことを知っているからね」
確かにその通りだ。
このヤブ医者は伯爵から依頼されてルシウスのお母様を暗殺しようとした。ならば、きっと計画の一部でも知っているはず。
「ルシウス様、でも、この男がどうしてここに? 捕まったはずでは?」
「騎士団に頼んでね、ここへ連れてきてもらったんだ」
「情報を引き出す為ですね」
「そうだ。いわゆる司法取引さ」
「重要な情報を得る代わりに、このヤブ医者の罪を減刑するのですね」
「正直、ケルヴィンは許せない。だが、一番に許せないのは伯爵だ。ヤツを何とかしない限り、僕の心は晴れない。それはリリス、君も一緒だろう?」
もちろん。わたしは散々な目に遭わされた。
理由も分からずバルコニーから突き落とされ、捨てられ、死にかけた。
絶対に許せない。
わたしを騙したあの伯爵ヴァンを。
「分かりました。情報の為に」
「理解に感謝する。……さて、ケルヴィン」
ジロッとケルヴィンを睨むルシウス。
鋭い目つき。
下手なことを言えば命はないだろう。
「……ひぃっ! ルシウス様……死刑だけは……お願いですから、死刑にはしないでください……」
「それを決めるのはお前次第だ、ケルヴィン。いいか、己を救えるのは己だけだ。自分を偽れば、それはすなわち破滅。伯爵に関する有益な情報を提供するのなら、お前にはきっと救いがあるだろう」
「我らが神・セントポーリアに誓います……! ですから!」
「いいだろう、交渉成立だ。だが、少しでも裏切る素振りを見せれば、貴様には死よりも恐ろしい結末を与えてやる」
脅しも込みでルシウスは言い放った。
隙を与えないとは、さすがだ。
すっかり怯えているケルヴィンは、伯爵の恐ろしい計画を話し始めた。
さっそくヴァンの情報を集める為に。
ローゼル帝国の中心街。
その大通りは商店街もなっていて、非常に活気がある。この大通りはお城まで露店が続く。
歩くのも大変なほどの賑わい。
最果てへ辿り着く頃には日が暮れるだろう。
「久しぶりにランタナ中央区を訪れましたが、凄い混雑ですね」
「ああ、これぞ帝国の雑踏。この喧噪が心地よいとさえ思う。だが、今はヴァンの件だ。彼をよく知る人物に会おう」
「彼をよく知る人物……?」
「こっちだ」
ルシウスの後をついていくと、活気のない裏道へ入った。
途端に空気が変わって冷たくなる。
なんだろう……。
ここは少し淀んでいる。
貴族が立ち入るような道ではない。
けれど、そうも言っていられない。
陰のような場所を歩く。
少しして寂れた酒場の前でルシウスは足を止めた。
「ここは……」
「ある者の行きつけの酒場らしくてね。入れば分かるさ。さあ、リリス……僕から離れないようくっ付いて」
「は、はい……」
不安でいっぱいになりつつも、ルシウスの腕に縋りつけてわたしは嬉しい。
酒場に入ると、そこは薄暗くあまり良い雰囲気とも言えなかった。
なんなの、ここ……。
カウンターへ向かうと、そこには鎖で拘束された男が……って、まさか。
「気づいたようだね、リリス。そうさ、この男に用があって来た」
「この方は……ヤブ医者の」
「そう。この男は医者のケルヴィン。ケルヴィン・アシモグルだ。この男なら伯爵のことを知っているからね」
確かにその通りだ。
このヤブ医者は伯爵から依頼されてルシウスのお母様を暗殺しようとした。ならば、きっと計画の一部でも知っているはず。
「ルシウス様、でも、この男がどうしてここに? 捕まったはずでは?」
「騎士団に頼んでね、ここへ連れてきてもらったんだ」
「情報を引き出す為ですね」
「そうだ。いわゆる司法取引さ」
「重要な情報を得る代わりに、このヤブ医者の罪を減刑するのですね」
「正直、ケルヴィンは許せない。だが、一番に許せないのは伯爵だ。ヤツを何とかしない限り、僕の心は晴れない。それはリリス、君も一緒だろう?」
もちろん。わたしは散々な目に遭わされた。
理由も分からずバルコニーから突き落とされ、捨てられ、死にかけた。
絶対に許せない。
わたしを騙したあの伯爵ヴァンを。
「分かりました。情報の為に」
「理解に感謝する。……さて、ケルヴィン」
ジロッとケルヴィンを睨むルシウス。
鋭い目つき。
下手なことを言えば命はないだろう。
「……ひぃっ! ルシウス様……死刑だけは……お願いですから、死刑にはしないでください……」
「それを決めるのはお前次第だ、ケルヴィン。いいか、己を救えるのは己だけだ。自分を偽れば、それはすなわち破滅。伯爵に関する有益な情報を提供するのなら、お前にはきっと救いがあるだろう」
「我らが神・セントポーリアに誓います……! ですから!」
「いいだろう、交渉成立だ。だが、少しでも裏切る素振りを見せれば、貴様には死よりも恐ろしい結末を与えてやる」
脅しも込みでルシウスは言い放った。
隙を与えないとは、さすがだ。
すっかり怯えているケルヴィンは、伯爵の恐ろしい計画を話し始めた。
3
お気に入りに追加
196
あなたにおすすめの小説
私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。
大好きな第一王子様、私の正体を知りたいですか? 本当に知りたいんですか?
サイコちゃん
恋愛
第一王子クライドは聖女アレクサンドラに婚約破棄を言い渡す。すると彼女はお腹にあなたの子がいると訴えた。しかしクライドは彼女と寝た覚えはない。狂言だと断じて、妹のカサンドラとの婚約を告げた。ショックを受けたアレクサンドラは消えてしまい、そのまま行方知れずとなる。その頃、クライドは我が儘なカサンドラを重たく感じていた。やがて新しい聖女レイラと恋に落ちた彼はカサンドラと別れることにする。その時、カサンドラが言った。「私……あなたに隠していたことがあるの……! 実は私の正体は……――」
完結 勇者様、己の実力だといつから勘違いしてたんですか?
音爽(ネソウ)
恋愛
勇者だと持ち上げられた彼はこれまでの功績すべてが自分のものと思い込む。
たしかに前衛に立つ彼は目立つ存在だった、しかしペアを組んだ彼女がいてこそなのだが……。
こんなに馬鹿な王子って本当に居るんですね。 ~馬鹿な王子は、聖女の私と婚約破棄するようです~
狼狼3
恋愛
次期王様として、ちやほやされながら育ってきた婚約者であるロラン王子。そんなロラン王子は、聖女であり婚約者である私を「顔がタイプじゃないから」と言って、私との婚約を破棄する。
もう、こんな婚約者知らない。
私は、今まで一応は婚約者だった馬鹿王子を陰から支えていたが、支えるのを辞めた。
乳だけ立派なバカ女に婚約者の王太子を奪われました。別にそんなバカ男はいらないから復讐するつもりは無かったけど……
三葉 空
恋愛
「ごめん、シアラ。婚約破棄ってことで良いかな?」
ヘラヘラと情けない顔で言われる私は、公爵令嬢のシアラ・マークレイと申します。そして、私に婚約破棄を言い渡すのはこの国の王太子、ホリミック・ストラティス様です。
何でも話を聞く所によると、伯爵令嬢のマミ・ミューズレイに首ったけになってしまったそうな。お気持ちは分かります。あの女の乳のデカさは有名ですから。
えっ? もう既に男女の事を終えて、子供も出来てしまったと? 本当は後で国王と王妃が直々に詫びに来てくれるのだけど、手っ取り早く自分の口から伝えてしまいたかったですって? 本当に、自分勝手、ワガママなお方ですね。
正直、そちらから頼んで来ておいて、そんな一方的に婚約破棄を言い渡されたこと自体は腹が立ちますが、あなたという男に一切の未練はありません。なぜなら、あまりにもバカだから。
どうぞ、バカ同士でせいぜい幸せになって下さい。私は特に復讐するつもりはありませんから……と思っていたら、元王太子で、そのバカ王太子よりも有能なお兄様がご帰還されて、私を気に入って下さって……何だか、復讐できちゃいそうなんですけど?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる