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己を救えるのは己だけ

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 変装を終え、わたしとルシウスは街へ向かった。
 さっそくヴァンの情報を集める為に。

 ローゼル帝国の中心街。
 その大通りは商店街もなっていて、非常に活気がある。この大通りはお城まで露店が続く。

 歩くのも大変なほどの賑わい。
 最果てへ辿り着く頃には日が暮れるだろう。

「久しぶりにランタナ中央区を訪れましたが、凄い混雑ですね」
「ああ、これぞ帝国の雑踏。この喧噪が心地よいとさえ思う。だが、今はヴァンの件だ。彼をよく知る人物に会おう」

「彼をよく知る人物……?」
「こっちだ」

 ルシウスの後をついていくと、活気のない裏道へ入った。
 途端に空気が変わって冷たくなる。
 なんだろう……。
 ここは少し淀んでいる。

 貴族が立ち入るような道ではない。
 けれど、そうも言っていられない。

 陰のような場所を歩く。
 少しして寂れた酒場の前でルシウスは足を止めた。

「ここは……」

「ある者の行きつけの酒場バーらしくてね。入れば分かるさ。さあ、リリス……僕から離れないようくっ付いて」

「は、はい……」

 不安でいっぱいになりつつも、ルシウスの腕に縋りつけてわたしは嬉しい。
 酒場に入ると、そこは薄暗くあまり良い雰囲気とも言えなかった。
 なんなの、ここ……。

 カウンターへ向かうと、そこには鎖で拘束された男が……って、まさか。


「気づいたようだね、リリス。そうさ、この男に用があって来た」
「この方は……ヤブ医者の」

「そう。この男は医者のケルヴィン。ケルヴィン・アシモグルだ。この男なら伯爵のことを知っているからね」

 確かにその通りだ。
 このヤブ医者は伯爵から依頼されてルシウスのお母様を暗殺しようとした。ならば、きっと計画の一部でも知っているはず。


「ルシウス様、でも、この男がどうしてここに? 捕まったはずでは?」
「騎士団に頼んでね、ここへ連れてきてもらったんだ」

「情報を引き出す為ですね」
「そうだ。いわゆる司法取引さ」
「重要な情報を得る代わりに、このヤブ医者の罪を減刑するのですね」
「正直、ケルヴィンは許せない。だが、一番に許せないのは伯爵だ。ヤツを何とかしない限り、僕の心は晴れない。それはリリス、君も一緒だろう?」

 もちろん。わたしは散々な目に遭わされた。
 理由も分からずバルコニーから突き落とされ、捨てられ、死にかけた。

 絶対に許せない。
 わたしを騙したあの伯爵ヴァンを。

「分かりました。情報の為に」
「理解に感謝する。……さて、ケルヴィン」

 ジロッとケルヴィンを睨むルシウス。
 鋭い目つき。
 下手なことを言えば命はないだろう。

「……ひぃっ! ルシウス様……死刑だけは……お願いですから、死刑にはしないでください……」
「それを決めるのはお前次第だ、ケルヴィン。いいか、己を救えるのは己だけだ。自分を偽れば、それはすなわち破滅。伯爵に関する有益な情報を提供するのなら、お前にはきっと救いがあるだろう」

「我らが神・セントポーリアに誓います……! ですから!」

「いいだろう、交渉成立だ。だが、少しでも裏切る素振りを見せれば、貴様には死よりも恐ろしい結末を与えてやる」

 脅しも込みでルシウスは言い放った。
 隙を与えないとは、さすがだ。

 すっかり怯えているケルヴィンは、伯爵の恐ろしい計画を話し始めた。
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