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【6】 奇跡
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悪魔の形相と共に迫りくる包丁。
鋭利な凶器がミラの胸部へ――。
(……う、うそ……わたし、ここで死ぬの?)
タイミングの悪いことに“三日の制約”により魔力を使えない絶望的状況だった。たとえ、死亡して辛うじて“聖涙”を流したとしても今の魔力では効力は薄い。蘇生する可能性は限りなく低い。精々、傷が癒えるだけで魂の回帰までは望めないだろう。
やがて、刃がミラの胸に突き刺さろうとしていた。もうダメだと察したミラは、目を閉じた。もう間に合わない。
「――――!」
ぐしゃっと肉を突き刺す音がした。
鼓膜がギンギンと異音で軋む。
(さ、刺されたの……?)
視界が真っ暗で分からない。痛みがあるのかさえ分からない。ミラは、ただ闇に囚われていた。けれど、直ぐに状況を理解した。
「えっ……血?」
「…………く、はぁっ」
どばっと口から血を吐くディン。なんとディンがミラを庇い包丁で刺されてしまっていた。ディンの背中に包丁が深く刺さっていた。あまりの事態にミラは青ざめる。
「ディン様! そんな、しっかりして下さい……どうして、出逢ったばかりのわたしなんかを庇って下さったのです……!」
「い、言っただろう……。僕は君を好きになってしまったと。愛してしまったと。これで分かってくれたかな。僕は……僕は……ぐぼっ」
弱々しく本音を漏らした。けれど、激しく吐血し、ディンは数秒も経たず目を閉じた。包丁は致命傷を与えていた。ディンはまたも死へと誘われてしまったのだ。
「…………うそ。どうして、ディン……なんで、そんな銀髪の女なんかを!! ありえない……ありえないわ。だって、だって……ディンはわたくしを愛していたはず」
ネヴァロはがくがくと震えた。自分がディンを刺してしまったという現実を受け入れられなかった。こんなのは悪夢だと否定する。
頭を抱え発狂するネヴァロの前で、ミラは茫然となっていた。ディンがまた死んだ。第二の人生をはじめたばかりだったのに。わたしを好きと言ってくれたのに――ミラは悲しみに支配されていた。心が押しつぶされそうになって、今にも泣き出しそうだった。
「ディン様……わたし、わたしも好きです」
ぽろぽろと涙を流し、それがディンの頬を伝う。やがて、膨大な魔力を帯びた“聖涙”は反応を示し、ディンを急速に癒し始めた。
(えっ、どうして……どうして涙が反応を?)
突然の事態にミラは驚いた。
ほとんど魔力がないと思ていたのに、ミラの聖涙は完璧なまでに発動を果たしたのだ。なぜ上手くいったのか不思議でならなかった。
見守っていると、ディンの魂も回帰。
苦しそうに目を開け、ミラを見た。
「……こ、ここは? 僕は確か包丁で刺されて……あれ。傷が癒えている。痛みもないし、死んでもいない。も、もしかして……ミラが助けてくれたのかい!?」
「え、ええ! ディンが死んでしまって……悲しくて涙を流したら、それが上手く発動したんです。理由は分かりません」
「そうか……でも助かったよ。これで助けられたのはニ度目か。本当にもう感謝しても仕切れないよ」
ミラは、ディンの体を支えて起き上がらせた。まだネヴァロが発狂している最中だったからだ。油断をすればまだ刺されるだろうと感じていた。その通り、ネヴァロは蘇生したディンを見て混乱していた。
「え、え、えぇ!? ディンが蘇った?? なんで、なんで、なんでえ!? あぁ、そっか……そっかそっか! わたくしの為に帰って来てくれたのよね!! うれしいなあ!!」
「もういい加減にしてくれ、ネヴァロ! 君を僕を殺した罪で逮捕する」
「逮捕ぉ? なんでよ。その銀髪の女の方が罪深いでしょ!! 死んだ人を蘇らせるとか倫理に反しているわ!! そいつこそ神を冒涜している叛逆者よ!! 死刑よ!!」
「そうか。それがネヴァロ――君の答えか。残念だよ」
「はぁ!?」
その瞬間、ディンはネヴァロの隙をつき、護身術を使ってその身を確保した。更に手刀を入れて気絶させた。
鋭利な凶器がミラの胸部へ――。
(……う、うそ……わたし、ここで死ぬの?)
タイミングの悪いことに“三日の制約”により魔力を使えない絶望的状況だった。たとえ、死亡して辛うじて“聖涙”を流したとしても今の魔力では効力は薄い。蘇生する可能性は限りなく低い。精々、傷が癒えるだけで魂の回帰までは望めないだろう。
やがて、刃がミラの胸に突き刺さろうとしていた。もうダメだと察したミラは、目を閉じた。もう間に合わない。
「――――!」
ぐしゃっと肉を突き刺す音がした。
鼓膜がギンギンと異音で軋む。
(さ、刺されたの……?)
視界が真っ暗で分からない。痛みがあるのかさえ分からない。ミラは、ただ闇に囚われていた。けれど、直ぐに状況を理解した。
「えっ……血?」
「…………く、はぁっ」
どばっと口から血を吐くディン。なんとディンがミラを庇い包丁で刺されてしまっていた。ディンの背中に包丁が深く刺さっていた。あまりの事態にミラは青ざめる。
「ディン様! そんな、しっかりして下さい……どうして、出逢ったばかりのわたしなんかを庇って下さったのです……!」
「い、言っただろう……。僕は君を好きになってしまったと。愛してしまったと。これで分かってくれたかな。僕は……僕は……ぐぼっ」
弱々しく本音を漏らした。けれど、激しく吐血し、ディンは数秒も経たず目を閉じた。包丁は致命傷を与えていた。ディンはまたも死へと誘われてしまったのだ。
「…………うそ。どうして、ディン……なんで、そんな銀髪の女なんかを!! ありえない……ありえないわ。だって、だって……ディンはわたくしを愛していたはず」
ネヴァロはがくがくと震えた。自分がディンを刺してしまったという現実を受け入れられなかった。こんなのは悪夢だと否定する。
頭を抱え発狂するネヴァロの前で、ミラは茫然となっていた。ディンがまた死んだ。第二の人生をはじめたばかりだったのに。わたしを好きと言ってくれたのに――ミラは悲しみに支配されていた。心が押しつぶされそうになって、今にも泣き出しそうだった。
「ディン様……わたし、わたしも好きです」
ぽろぽろと涙を流し、それがディンの頬を伝う。やがて、膨大な魔力を帯びた“聖涙”は反応を示し、ディンを急速に癒し始めた。
(えっ、どうして……どうして涙が反応を?)
突然の事態にミラは驚いた。
ほとんど魔力がないと思ていたのに、ミラの聖涙は完璧なまでに発動を果たしたのだ。なぜ上手くいったのか不思議でならなかった。
見守っていると、ディンの魂も回帰。
苦しそうに目を開け、ミラを見た。
「……こ、ここは? 僕は確か包丁で刺されて……あれ。傷が癒えている。痛みもないし、死んでもいない。も、もしかして……ミラが助けてくれたのかい!?」
「え、ええ! ディンが死んでしまって……悲しくて涙を流したら、それが上手く発動したんです。理由は分かりません」
「そうか……でも助かったよ。これで助けられたのはニ度目か。本当にもう感謝しても仕切れないよ」
ミラは、ディンの体を支えて起き上がらせた。まだネヴァロが発狂している最中だったからだ。油断をすればまだ刺されるだろうと感じていた。その通り、ネヴァロは蘇生したディンを見て混乱していた。
「え、え、えぇ!? ディンが蘇った?? なんで、なんで、なんでえ!? あぁ、そっか……そっかそっか! わたくしの為に帰って来てくれたのよね!! うれしいなあ!!」
「もういい加減にしてくれ、ネヴァロ! 君を僕を殺した罪で逮捕する」
「逮捕ぉ? なんでよ。その銀髪の女の方が罪深いでしょ!! 死んだ人を蘇らせるとか倫理に反しているわ!! そいつこそ神を冒涜している叛逆者よ!! 死刑よ!!」
「そうか。それがネヴァロ――君の答えか。残念だよ」
「はぁ!?」
その瞬間、ディンはネヴァロの隙をつき、護身術を使ってその身を確保した。更に手刀を入れて気絶させた。
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