サラサドウダンの先に

リー

文字の大きさ
上 下
25 / 28
黒い悪魔

突然の訪れ

しおりを挟む

 エドワードはヒューゴに頼まれ、ロイとは違うテントで医師たちの手伝いをしていた。

村には悪魔ではなく病が流行しているという。前からいた医師たちに加えて新たに増員された医師たちに目を向ける。

支給された服とマスクを被り準備している。彼らは皆若者だった。

エドワードは今年で27歳になるが、今ここにいる彼らもあまり変わらないだろう。

ヒューゴ様は東地域の医師たちに招集をかけていた。強制ではないにしろベラテンの医師の姿はみえない。

そうだな。生活が潤っている医師がわざわざ危険な場所に来るなんてことはないだろう。

招集に集まったのは医師として売れないヤブ医者か未熟な新人だ。

生活に困っているからこそ最終手段として招集に応じたのだろう。

証拠に何故こんなところに来てしまったのかと後悔の念を抱く声が聞こえる。

「やだなぁ…」

「金のため金のため…」

「ヴゥ…死にたくなぃ…」

泣く者の声まで聞こえる。

「すみません。服とマスクをいただけますか?」

エドワードが周りの医師たちを眺めていると声がかかった。

「あっ。失礼しました。こちらをどうぞ。」

「ありがとうございます。」

声を掛けてきた男性はにっこりとして、服とマスクを受け取った。

他の医師たちとは違い、生気の消えていない人だった。エドワードが患者なら彼の瞳を見ただけで安心するだろう。

この人に診て貰えたらきっと良くなる。彼から溢れる自信がそうさせているのだろう。

ヒューゴ様が言っていた。壁に好奇心を持つものは強いのだと。その壁は何で作られているのか、どうして作られたのか、どうすれば壊すことができるのか。

考え、行動し、失敗を繰り返して、壁の向こうに行く人はそこでしか見られない景色を見るのだと。

エドワードもヒューゴの言葉を胸に精進してきた者の1人だ。

だからこそ、先程の男性をもう一度確かめる。

素早く着替え村へ行く準備を終えていた。悲観する様子もなく壁に立ち向かおうとしている。

悪魔の呪いではなく、病によって苦しむ人々を悪魔のような姿をした人たちが救おうとする姿はなんとも可笑しい光景である。

愚痴者、泣く者、好奇心持つ者。

そんな彼らの立ち向かう先に光があることをエドワードは願わずにはいられない。




エドワードは医師たちを村まで案内し終えると、ロイのもとに行こうと考えた。

気分が良くなっているといいが。

ヒューゴ様からロイは回復したと聞かされたが己の目で見ないと安心できない。

エドワードは急いで防御服とマスクを脱ぐ。

近くでもエドワードと同じようにマスクを脱ぎ出す男性がいた。

村を護衛していた兵が交代したのか?

脱ぎながら男性をみる。

よく見れば己と同じブロンド髪だ。

それによく見る背中だ。

よく見る背中!?

エドワードは男性の肩を掴み無理やり振り向かせた。

「何やってるんですか!父上!」

「エド!お前こそ何やってるんだ?休暇中だろう?」

それは国のトップでありエドワードの父親でもあるオスカーだった。

「僕はヒューゴ様の依頼でちょっと手伝いに来てるだけ…。父上は?」

「ヒューゴから報告書をもらったんだが、文字よりも自分の肌で感じた方がいいからな。様子を見にきたんだ。」

「な、なんですって?」

「思ってる以上に深刻じゃないか。医療の技術進歩のためにも資金は惜しみなく使うつもりだ。それにフローラの準備が出来次第こちらに向かわせる。」

「北の女神フローラ様ですか?眠りから目覚めたのですか?」

「あぁ。私もフローラも十分に休んだ。国民のために働かなくてはな。私はそのためにいるのだから。」

オスカーは息子に笑顔を向けて己は大丈夫なのだと国をまとめ上げる者としての意思表明をした。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

獣人王に溺愛され、寵姫扱いです

BL
事故に遭いそうだった猫を助けたことにより、僕は死んだ。 その猫は異世界の神だった!? 世界に干渉してはいけないが、あまりにも申し訳ないということで、その神の治める獣人世界で生き直すことに。 記憶を持ったまま稀にいるヒト族として生活を送ることになったが、瀕死の獣人との出会いにより大きく運命が動く。 自己肯定感の低い薄幸の主人公が寵愛をうけるまでの記録

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

処理中です...