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黒い悪魔
突然の訪れ
しおりを挟むエドワードはヒューゴに頼まれ、ロイとは違うテントで医師たちの手伝いをしていた。
村には悪魔ではなく病が流行しているという。前からいた医師たちに加えて新たに増員された医師たちに目を向ける。
支給された服とマスクを被り準備している。彼らは皆若者だった。
エドワードは今年で27歳になるが、今ここにいる彼らもあまり変わらないだろう。
ヒューゴ様は東地域の医師たちに招集をかけていた。強制ではないにしろベラテンの医師の姿はみえない。
そうだな。生活が潤っている医師がわざわざ危険な場所に来るなんてことはないだろう。
招集に集まったのは医師として売れないヤブ医者か未熟な新人だ。
生活に困っているからこそ最終手段として招集に応じたのだろう。
証拠に何故こんなところに来てしまったのかと後悔の念を抱く声が聞こえる。
「やだなぁ…」
「金のため金のため…」
「ヴゥ…死にたくなぃ…」
泣く者の声まで聞こえる。
「すみません。服とマスクをいただけますか?」
エドワードが周りの医師たちを眺めていると声がかかった。
「あっ。失礼しました。こちらをどうぞ。」
「ありがとうございます。」
声を掛けてきた男性はにっこりとして、服とマスクを受け取った。
他の医師たちとは違い、生気の消えていない人だった。エドワードが患者なら彼の瞳を見ただけで安心するだろう。
この人に診て貰えたらきっと良くなる。彼から溢れる自信がそうさせているのだろう。
ヒューゴ様が言っていた。壁に好奇心を持つものは強いのだと。その壁は何で作られているのか、どうして作られたのか、どうすれば壊すことができるのか。
考え、行動し、失敗を繰り返して、壁の向こうに行く人はそこでしか見られない景色を見るのだと。
エドワードもヒューゴの言葉を胸に精進してきた者の1人だ。
だからこそ、先程の男性をもう一度確かめる。
素早く着替え村へ行く準備を終えていた。悲観する様子もなく壁に立ち向かおうとしている。
悪魔の呪いではなく、病によって苦しむ人々を悪魔のような姿をした人たちが救おうとする姿はなんとも可笑しい光景である。
愚痴者、泣く者、好奇心持つ者。
そんな彼らの立ち向かう先に光があることをエドワードは願わずにはいられない。
エドワードは医師たちを村まで案内し終えると、ロイのもとに行こうと考えた。
気分が良くなっているといいが。
ヒューゴ様からロイは回復したと聞かされたが己の目で見ないと安心できない。
エドワードは急いで防御服とマスクを脱ぐ。
近くでもエドワードと同じようにマスクを脱ぎ出す男性がいた。
村を護衛していた兵が交代したのか?
脱ぎながら男性をみる。
よく見れば己と同じブロンド髪だ。
それによく見る背中だ。
よく見る背中!?
エドワードは男性の肩を掴み無理やり振り向かせた。
「何やってるんですか!父上!」
「エド!お前こそ何やってるんだ?休暇中だろう?」
それは国のトップでありエドワードの父親でもあるオスカーだった。
「僕はヒューゴ様の依頼でちょっと手伝いに来てるだけ…。父上は?」
「ヒューゴから報告書をもらったんだが、文字よりも自分の肌で感じた方がいいからな。様子を見にきたんだ。」
「な、なんですって?」
「思ってる以上に深刻じゃないか。医療の技術進歩のためにも資金は惜しみなく使うつもりだ。それにフローラの準備が出来次第こちらに向かわせる。」
「北の女神フローラ様ですか?眠りから目覚めたのですか?」
「あぁ。私もフローラも十分に休んだ。国民のために働かなくてはな。私はそのためにいるのだから。」
オスカーは息子に笑顔を向けて己は大丈夫なのだと国をまとめ上げる者としての意思表明をした。
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