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黒い悪魔
解決の策
しおりを挟む村の現状を見たロイはすぐに気分が悪くなり村から出ることを余儀なくされた。
ひどい惨状だ。
村人は必要最低限の外出を避け、各々の家に引きこもっていた。
呪われたという人は広い部屋に集められベッドの上で苦しみから唸る事しかできないでいた。
ヒューゴ様の言っていた通り、呪われたという人々には共通して発熱や皮膚が黒く腫れていた。
ロイは確信した。
己のいた世界でも起きていた黒死病だと。
村からすぐに出て10分ほど歩いた。その先にテントがいくつも張られており、ロイ達はそこに移動した。
気分のすぐれないロイはテントに設置されたベッドで横になった。
だめだ。あの光景は酷い。苦しむ人の唸り声、鼻が曲がるほどの悪臭は息を吸うことをやめたくなり、淀んだ空気は重くのしかかってくる。
今日は晴れ渡っているはずなのに、あの村だけは闇に包まれ、光の入らない世界のようだ。
もうあそこには戻りたくない。
そんなことを考えながらロイはヒューゴ様を心の内で称賛していた。
感染症を小さな村だけで食い止められている現状にである。
迅速な対応により防げた偉業だ。
悪魔の仕業ではなかったにしろ、幸運なことに変装として使われていた服やマスクにも感染を抑える効果があったはずだ。
だが薬草でどうにかなるものではない。
ロイは薬草以上の知識を持ち合わせてはいない。
己のいた世界と似ているが違う世界。
それでも少しでも伝えられるものがあるはずだ。
ロイはヒューゴ様から紙と羽ペンとインクをもらい、黒死病に関する薬草を書き出していった。
思い出せるものを少しでも多く書いていくとヒューゴがテントの中を訪ねてきた。
「気分はどうですか?」
「はい。だいぶ良くなりました。」
「そうですか。無理をさせてしまいましたね。」
ヒューゴはロイに謝罪の言葉を告げ、近くにある椅子に座る。
「何を書いていらっしゃるのですか?」
「感染を少しでも防げる‥かもしれない。薬草です。」
「感染?悪魔の仕業ではないと?」
「はい。ヒューゴ様の予想通りです。病気によるものです。」
「ロイくんのいた世界でも起きたことがあるのものですか?」
「そうなんです。‥はい?」
耳を疑った。ヒューゴ様は今なんと言った?
「ノアから聞いていますよ。ロイくんが異世界から来た方だと。」
「あ、あいつ勝手に!」
「責めないでやってください。今回の件をノアに相談した時にこの世界よりも多くの面で進んだ技術を持つ世界から来たヤツを知っていると紹介してくれたのが君なのですから。異世界の‥君たちの知識を借りたいと願っていたんです、、」
ヒューゴ様は今にも泣きそうな表情を浮かべた。
「今日、会うことはできませんでしたが、とある職人もこの村で苦しんでいます。」
「職人?」
「ロイくんが昨夜泊まった屋敷に美しい蘭が彫刻された扉がありましね。」
「はい‥まさか」
「えぇ、彼とは友人です。この村に住んでいる彼は今回の件で、辛い日々を送っている方です。素敵な作品を作り上げ笑顔で私に見せてくれる彼がひたすらに苦しみと戦い続けています。だからこそなんとかしたかった。」
ヒューゴ様は両手で顔を覆い涙を隠した。
「すみません。俺に治す力はありません。ですが教えられることは全て話します。」
ロイの言葉に顔を上げたヒューゴは、はらいきれなかった涙を流しながら感謝の言葉を伝えた。
「ありがとう。」
ヒューゴ様の声は掠れていた。
そんなヒューゴ様の力になるため、ロイは己の知る知識を説明し始めた。
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