サラサドウダンの先に

リー

文字の大きさ
上 下
24 / 28
黒い悪魔

解決の策

しおりを挟む

 村の現状を見たロイはすぐに気分が悪くなり村から出ることを余儀なくされた。

ひどい惨状だ。

村人は必要最低限の外出を避け、各々の家に引きこもっていた。

呪われたという人は広い部屋に集められベッドの上で苦しみから唸る事しかできないでいた。

ヒューゴ様の言っていた通り、呪われたという人々には共通して発熱や皮膚が黒く腫れていた。

ロイは確信した。

己のいた世界でも起きていた黒死病だと。

村からすぐに出て10分ほど歩いた。その先にテントがいくつも張られており、ロイ達はそこに移動した。

気分のすぐれないロイはテントに設置されたベッドで横になった。

だめだ。あの光景は酷い。苦しむ人の唸り声、鼻が曲がるほどの悪臭は息を吸うことをやめたくなり、淀んだ空気は重くのしかかってくる。

今日は晴れ渡っているはずなのに、あの村だけは闇に包まれ、光の入らない世界のようだ。

もうあそこには戻りたくない。

そんなことを考えながらロイはヒューゴ様を心の内で称賛していた。

感染症を小さな村だけで食い止められている現状にである。

迅速な対応により防げた偉業だ。

悪魔の仕業ではなかったにしろ、幸運なことに変装として使われていた服やマスクにも感染を抑える効果があったはずだ。

だが薬草でどうにかなるものではない。

ロイは薬草以上の知識を持ち合わせてはいない。

己のいた世界と似ているが違う世界。

それでも少しでも伝えられるものがあるはずだ。

ロイはヒューゴ様から紙と羽ペンとインクをもらい、黒死病に関する薬草を書き出していった。

思い出せるものを少しでも多く書いていくとヒューゴがテントの中を訪ねてきた。

「気分はどうですか?」

「はい。だいぶ良くなりました。」

「そうですか。無理をさせてしまいましたね。」

ヒューゴはロイに謝罪の言葉を告げ、近くにある椅子に座る。

「何を書いていらっしゃるのですか?」

「感染を少しでも防げる‥かもしれない。薬草です。」

「感染?悪魔の仕業ではないと?」

「はい。ヒューゴ様の予想通りです。病気によるものです。」

「ロイくんのいた世界でも起きたことがあるのものですか?」

「そうなんです。‥はい?」

耳を疑った。ヒューゴ様は今なんと言った?

「ノアから聞いていますよ。ロイくんが異世界から来た方だと。」

「あ、あいつ勝手に!」

「責めないでやってください。今回の件をノアに相談した時にこの世界よりも多くの面で進んだ技術を持つ世界から来たヤツを知っていると紹介してくれたのが君なのですから。異世界の‥君たちの知識を借りたいと願っていたんです、、」

ヒューゴ様は今にも泣きそうな表情を浮かべた。

「今日、会うことはできませんでしたが、とある職人もこの村で苦しんでいます。」

「職人?」

「ロイくんが昨夜泊まった屋敷に美しい蘭が彫刻された扉がありましね。」

「はい‥まさか」

「えぇ、彼とは友人です。この村に住んでいる彼は今回の件で、辛い日々を送っている方です。素敵な作品を作り上げ笑顔で私に見せてくれる彼がひたすらに苦しみと戦い続けています。だからこそなんとかしたかった。」

ヒューゴ様は両手で顔を覆い涙を隠した。

「すみません。俺に治す力はありません。ですが教えられることは全て話します。」

ロイの言葉に顔を上げたヒューゴは、はらいきれなかった涙を流しながら感謝の言葉を伝えた。

「ありがとう。」

ヒューゴ様の声は掠れていた。

そんなヒューゴ様の力になるため、ロイは己の知る知識を説明し始めた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

獣人王に溺愛され、寵姫扱いです

BL
事故に遭いそうだった猫を助けたことにより、僕は死んだ。 その猫は異世界の神だった!? 世界に干渉してはいけないが、あまりにも申し訳ないということで、その神の治める獣人世界で生き直すことに。 記憶を持ったまま稀にいるヒト族として生活を送ることになったが、瀕死の獣人との出会いにより大きく運命が動く。 自己肯定感の低い薄幸の主人公が寵愛をうけるまでの記録

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

処理中です...