サラサドウダンの先に

リー

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黒い悪魔

それは違う

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 ヒューゴ様が紹介してくれたのは綺麗なレンガ造の屋敷だった。

こじんまりとしている建物を期待していたのだが、まさかこんな立派な屋敷を紹介されるとは。

いくらだろうか。エドワードはお詫びとして払ってくれると言ったが、首が痛くなるほど上を向かなくては建物のてっぺんが見えないほど高いとなると、1泊の料金はバカにならないだろう。

馬車から降りてエドワードをみると、なんてことのないような顔をしてスタスタと歩いて行く。

「なぁ、エドワード!」

ロイはスタスタと歩くエドワードに追いつき、服の袖を少しつまむ。

少し驚いてロイの方に顔を向けたエドワードの耳に顔を近づける。

エドワードは背が高いためロイは爪先立ちをしなければいけなかった。

悔しい限りである。

「ここで大丈夫なのか?お詫びって言われたけど、なんか申し訳ないぞ。」

「そんなこと気にしなくていいんだよ。これでも一応、稼いでるしね。」

エドワードは服の袖を掴んでいるロイの手を取り、己の手と絡ませた。

ロイはエドワードにギュッと手を握られドキリとする。

「ちょ、はなせ、」

「まぁ、まぁ。」

「仲が良いのはいいことですね。2人を見ていると微笑ましくなります。」

ヒューゴ様の声で見られたことに恥ずかしくなったロイは強引にエドワードの手から逃れる。

「おや、照れることはないのですよ。」

「い、いえ。おかまいなくでお願いしま
す。」

「フフ。では、参りましょう。」

ヒューゴ様を先頭に屋敷に案内される。

屋敷の扉の前に来るとロイは声を上げそうになる。

扉に蘭が彫刻されていたからだ。

扉はエドワードよりも大きい。そんな大きな扉に隙間なく蘭が咲き誇っていた。

圧巻だ。細部までこだわっているのだろう。見るものを惹きつける華々しいその作品にロイは称賛の声を心の中で贈った。

「素敵でしょう。私も初めて見た時は言葉を失いました。人が魔法もなしに1から手で作り上げた作品です。」

「はい。すごいです。」

ロイのキラキラとした目に満足をしたヒューゴは扉を開いて建物の中に足を踏み入れた。

建物の中に入ると、そこは広い空間だった。

ロイは中に入ると辺りを見渡した。

1番に目に入ったのは豪華なシャンデリアだ。天井で光り輝いているそれはまるで暗闇を照らす花だった。

次に目に入ったのはクラシックな空間だ。

絨毯には綺麗な模様があり扉と同様に蘭が咲き乱れていた。その絨毯の上を優雅に歩くのは白いドレスに身を包んだマダムだ。絵になるとはこのことだ。

トュルヌソルといい、オーキッドといい、本当に花の国だな。

ロイは己の場違い感にうなだれる。

こんな素敵な場所に泊まれることに嬉しくないわけではないが、落ち着かない。

立派な屋敷よりも己にはこじんまりとした所が性に合っているのだろうな。

口角が下りに下がっているロイを見かけたエドワードは受付を終えたヒューゴ様から鍵をいただき、急いでロイを部屋に連れて行くことにした。

旅の疲れもあるし、お風呂に入って休んでもらおう。

「ロイ。部屋の鍵をもらったから行こう。君の希望通りバスタブ付きだよ。」

ロイに元気を取り戻してほしい。

「ヒューゴ様がね、ここの食事はとてもおいしいと言っていたんだ。お風呂に入って身体を温かくして、美味しいものを食べて、明日のために休もう。」

エドワードの言葉に先程までの落ち着かなさが少し薄れた気がした。

なぜだろうか。エドワードがいてくれるからだろうか。

「それでは、私は失礼しますね。また明日伺いますよ。」

ヒューゴは、微笑ましい2人に軽く挨拶をすると屋敷を後にした。


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