22 / 28
黒い悪魔
それは違う
しおりを挟むヒューゴ様が紹介してくれたのは綺麗なレンガ造の屋敷だった。
こじんまりとしている建物を期待していたのだが、まさかこんな立派な屋敷を紹介されるとは。
いくらだろうか。エドワードはお詫びとして払ってくれると言ったが、首が痛くなるほど上を向かなくては建物のてっぺんが見えないほど高いとなると、1泊の料金はバカにならないだろう。
馬車から降りてエドワードをみると、なんてことのないような顔をしてスタスタと歩いて行く。
「なぁ、エドワード!」
ロイはスタスタと歩くエドワードに追いつき、服の袖を少しつまむ。
少し驚いてロイの方に顔を向けたエドワードの耳に顔を近づける。
エドワードは背が高いためロイは爪先立ちをしなければいけなかった。
悔しい限りである。
「ここで大丈夫なのか?お詫びって言われたけど、なんか申し訳ないぞ。」
「そんなこと気にしなくていいんだよ。これでも一応、稼いでるしね。」
エドワードは服の袖を掴んでいるロイの手を取り、己の手と絡ませた。
ロイはエドワードにギュッと手を握られドキリとする。
「ちょ、はなせ、」
「まぁ、まぁ。」
「仲が良いのはいいことですね。2人を見ていると微笑ましくなります。」
ヒューゴ様の声で見られたことに恥ずかしくなったロイは強引にエドワードの手から逃れる。
「おや、照れることはないのですよ。」
「い、いえ。おかまいなくでお願いしま
す。」
「フフ。では、参りましょう。」
ヒューゴ様を先頭に屋敷に案内される。
屋敷の扉の前に来るとロイは声を上げそうになる。
扉に蘭が彫刻されていたからだ。
扉はエドワードよりも大きい。そんな大きな扉に隙間なく蘭が咲き誇っていた。
圧巻だ。細部までこだわっているのだろう。見るものを惹きつける華々しいその作品にロイは称賛の声を心の中で贈った。
「素敵でしょう。私も初めて見た時は言葉を失いました。人が魔法もなしに1から手で作り上げた作品です。」
「はい。すごいです。」
ロイのキラキラとした目に満足をしたヒューゴは扉を開いて建物の中に足を踏み入れた。
建物の中に入ると、そこは広い空間だった。
ロイは中に入ると辺りを見渡した。
1番に目に入ったのは豪華なシャンデリアだ。天井で光り輝いているそれはまるで暗闇を照らす花だった。
次に目に入ったのはクラシックな空間だ。
絨毯には綺麗な模様があり扉と同様に蘭が咲き乱れていた。その絨毯の上を優雅に歩くのは白いドレスに身を包んだマダムだ。絵になるとはこのことだ。
トュルヌソルといい、オーキッドといい、本当に花の国だな。
ロイは己の場違い感にうなだれる。
こんな素敵な場所に泊まれることに嬉しくないわけではないが、落ち着かない。
立派な屋敷よりも己にはこじんまりとした所が性に合っているのだろうな。
口角が下りに下がっているロイを見かけたエドワードは受付を終えたヒューゴ様から鍵をいただき、急いでロイを部屋に連れて行くことにした。
旅の疲れもあるし、お風呂に入って休んでもらおう。
「ロイ。部屋の鍵をもらったから行こう。君の希望通りバスタブ付きだよ。」
ロイに元気を取り戻してほしい。
「ヒューゴ様がね、ここの食事はとてもおいしいと言っていたんだ。お風呂に入って身体を温かくして、美味しいものを食べて、明日のために休もう。」
エドワードの言葉に先程までの落ち着かなさが少し薄れた気がした。
なぜだろうか。エドワードがいてくれるからだろうか。
「それでは、私は失礼しますね。また明日伺いますよ。」
ヒューゴは、微笑ましい2人に軽く挨拶をすると屋敷を後にした。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
獣人王に溺愛され、寵姫扱いです
優
BL
事故に遭いそうだった猫を助けたことにより、僕は死んだ。
その猫は異世界の神だった!?
世界に干渉してはいけないが、あまりにも申し訳ないということで、その神の治める獣人世界で生き直すことに。
記憶を持ったまま稀にいるヒト族として生活を送ることになったが、瀕死の獣人との出会いにより大きく運命が動く。
自己肯定感の低い薄幸の主人公が寵愛をうけるまでの記録
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる