サラサドウダンの先に

リー

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また君に恋をする

胡散臭いヤツだな

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ロイは鴨を抱えながら目の前にいる男を見つめた。

(なんだ、あの男。優しい笑みを浮かべているがどうも辛気くさい。初めて合ったにもかかわらず体があの男を信用してはいけないと訴えている気がする。)

今すぐにでも逃げだしたい気持ちでいっぱいだったロイだが逃げたとしてもこの先どうすればいいのか。途方に暮れているロイにとって目の前にいる男は己の今の状況を打開してくれる唯一の存在だった。

(とりあえず衣食住が安定するまでは助けてもらうしかないか。その後は縁を切ってしまえばいい。)

初対面の男に対してそこまで警戒するものなのか。否、だがロイは一目見た時から男に対して嫌悪感を抱いていた。

男に深く関わらないようにと心に誓い、ロイは助けを求めた。


「実は、記憶を無くしたんだ。気づいたらこの森にいた。覚えているのは自分の名前がロイってことぐらいだ。助けてくれないか。」

「そうか。それは大変だね。君の記憶がはやく戻ることを願うよ。今すぐにでも街に戻りたいけど僕の愛馬が疲れきってしまっていてね。悪いけど今日は野宿するしかないんだ。明日、一緒に街へ行こう。」

男はロイを同情して、これからのことを提案した。

ロイはなんとか今の状況を打開できることに安心し抱えていた鴨を下ろした。

鴨は自由になった途端にエドワードに向かって走りだし翼を広げ威嚇しだした。

「わっ、ちょっと、なにするんだ」

「こらっ、なにやってるんだ。やめろ」

狼狽える男に対してロイは鴨が己の気持ちを代弁してくれたのかと思い心の中で笑いながらも男を助けることにした。


















暗くなった頃。

焚き火をして鴨がまたとってきてくれた魚を何匹か焼いていた。二人と一羽と一頭で火を囲みロイは冷えた腕をさすっていた。

「ロイ。よかったらこれを着なよ。」

そう言ってエドワードはロイに服と毛布を差し出した。

「夜は冷えるから。袖なしは良くないよ。」

「ありがとな。」

ロイが着ていたのはタンクトップのような服だったからエドワードの気遣いに感謝した。
エドワードから服と毛布をもらいロイはそれに着替えることにした。着替えながらロイはエドワードの服装に注目した。

エドワードの服装は中世ヨーロッパを思い起こさせるものだった。

この異世界は己が知る歴史よりも時代の歩みが遅いのだろうか。エドワードの服装を観察する。

白いチュニックにベルト、その下には茶色のズボン。

シンプルだがエドワードのブロンドの髪とブルーの瞳には合っていた。エドワードは端正な顔立ちをしていた。身長も高くロイが視線を上へ向けないといけないほどだ。お伽話に出てくる王子様とはこの男のことを指すのだろう。

ロイが受け取った服はワイドレッドのような色をしたチュニックに黒いズボンだった。

着替えるために服を脱ぐ。
するとエドワードの視線を感じる。

「なんだよ。」

着替えながらジロジロとみてくるエドワードに不快感を顔にだし問いかける。

「すまない。綺麗な肌だと思ってね。ジロジロとみるなんて失礼なことをした。」

謝罪するものの悪びれる様子がないエドワードを睨みながら着替えを済ます。

この時、ロイは疑問を感じた。
湖で裸体の時、鴨以外誰もいないのにロイは誰かに見られるのではないかと恥ずかしさが込み上がっていた。

だがエドワードの前で着替えても見られた不快感だけが湧き上がり羞恥心は生まれなかった。何故なのか。そしてなぜ男なのに己の体でこんなに悶々としなければいけないのか。ロイは考えるのをやめ、エドワードに質問をして頭の中を紛らわそうとした。

「なぁエドワードなんで森の中をさまよってたんだ?」

「宝物を探してたんだ。」

火をみつめながらエドワードは寂しそうな顔をして呟いた。

「宝物?森の中で?宝石とか伝説の剣とか?どこかに埋まってるのか?」

「違うよ。そんなものよりもずっと大切なもの。でもダメだった。なくなってたんだ。」

「そ、そうか。それはもう二度と見つからないのか?」

エドワードがうなだれているのをみてロイは胸を締め付けられる思いになる。

「わからない。でも全てなくなったわけじゃないんだ。大丈夫。」

そう言ってエドワードは微笑んだ。

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