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第5章「蟻塚祐絵はやはり敵が多い」
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「……ん」
翌日の早朝。
特に目覚ましがなったわけでもなく、ただ自然と目が覚めてしまったオレは、ぼーっとした頭のまま身体をぐっと起こす。
「合宿、だったな。そういえば」
いびきをかきながら寝る男子や布団に丸まって寝ている矢渕たちを起こさないように顔を洗ってそっと部屋を抜け出す。
早朝ということもあってか廊下には全く人気はなく、しんと静まり返っていた。
「どこに行く気だ?結城」
と、合宿施設の玄関で椅子に座りながらコーヒーを飲んでいた五十嵐先生が、オレの姿を見て話しかけてくる。
「まだ起きるには早かったんじゃないか?」
「あー、なんていうか目が冴えちゃって。日課のランニングをしたかったんすけど……やっぱり駄目っすよね」
ははは、と苦笑いしながら頭をかく。
まあ、許すはずもない。
ここは山の中だ。もし生徒に勝手をさせて迷子にでもなったら大変なことになる。
諦めて部屋に戻るか。
そう考えていると先生は、ふむ、と少し考え込んでから口を開いた。
「お前は確か運動部ではなかったはずだよな?なのに走ってるのか?」
「一応、身体作りは大事かなって。先生も一緒にどうです?」
オレは笑って冗談混じりに先生を誘ってみる。
「良いぞ」
「……え?」
返ってきたのは意外な返事だった。
まさか乗ってきてくれるとは。
「だが、少し待て。代わりに見張ってくれる先生を呼んでくる」
「本当に良いんすか?」
「可愛い教え子の頼みだ。それに俺も丁度走りたかったところだしな」
こうしてオレは何故か先生と一緒に朝のランニングをすることとなった。
「あっ、戻ってきた!何処言ってたんだよ?」
ランニングを終えて部屋に戻るや否や、矢渕がオレのことを出迎えた。
「ちょっとな」
「ちょっと……?も、もしかして深夜にこっそり抜け出して柊の部屋に行ってたとか!?」
「違えよ」
鬱陶しく絡んでくる矢渕に、オレは呆れながら身体を拭いていく。
「朝のランニングをしてたんだ。五十嵐先生と一緒に」
「え?……それ何の罰ゲーム?」
オレの返答に、矢渕は若干困惑気味に言う。
まあ、そうなるよな。普通は。
「とにかく女子の部屋なんて行ってない。そもそも深夜に部屋を抜け出そうなんて無理な話だろ。見張りの教師がいるんだから」
オレは矢渕にそう言い、今日の予定表を確認してからジャージを羽織る。
どうやら朝食後はクラス毎で別れてハイキングらしい。
五十嵐先生はコースの状態の下見も兼ねたんだろうか?
「朝は何が食えるんだろうな?」
「なんかバイキングだって話だぞ」
「うわ、最高じゃん!」
支度を終えたクラスメイトたちと一緒に朝食の会場へ向かう。
と、そこに。
「ねえ、級長。ちょっと良い?」
オレの姿を見つけ、そう声をかけてきたのは丁度出くわしたクラスメイトの女子の1人だった。
「どうした?」
「えっと、柊ちゃんのことなんだけどさ」
「……?柊がどうかしたのか?」
「あー、いや。柊ちゃんが直接どうしたって話じゃなくて。どっちかというと蟻塚の話」
「何かあったのか?」
「ここだけの話だよ?アイツ、パパ活してたんじゃないかって噂が出ててさ」
「それはまた、なんというか」
凄い話だな。
本当なら、だが。
「あんな奴と関わってると柊ちゃんもいずれそっち側になっちゃわないか心配なんだよね」
なるほどな。
確かに、その噂がもし本当だとしたら、あの蟻塚といる柊は少なからず悪い影響を受けるかもしれない。
だが、その噂が本当かどうかなんて今の時点では判断出来かねる。証拠もないしな。
噂はあくまでただの噂でしかないのだ。
とりあえず本人に確認を、と言いたいところではあるが相手はあの蟻塚だ。
本音を語ってくれるとは思わない。
オマケにオレは相当嫌われているしな。
「まあ、やることはやってみる。教えてくれてありがとな」
何にせよ。
たかが噂程度でアイツを軽蔑する気もない。
オレはまだ蟻塚のことを何も知らないのだから。
翌日の早朝。
特に目覚ましがなったわけでもなく、ただ自然と目が覚めてしまったオレは、ぼーっとした頭のまま身体をぐっと起こす。
「合宿、だったな。そういえば」
いびきをかきながら寝る男子や布団に丸まって寝ている矢渕たちを起こさないように顔を洗ってそっと部屋を抜け出す。
早朝ということもあってか廊下には全く人気はなく、しんと静まり返っていた。
「どこに行く気だ?結城」
と、合宿施設の玄関で椅子に座りながらコーヒーを飲んでいた五十嵐先生が、オレの姿を見て話しかけてくる。
「まだ起きるには早かったんじゃないか?」
「あー、なんていうか目が冴えちゃって。日課のランニングをしたかったんすけど……やっぱり駄目っすよね」
ははは、と苦笑いしながら頭をかく。
まあ、許すはずもない。
ここは山の中だ。もし生徒に勝手をさせて迷子にでもなったら大変なことになる。
諦めて部屋に戻るか。
そう考えていると先生は、ふむ、と少し考え込んでから口を開いた。
「お前は確か運動部ではなかったはずだよな?なのに走ってるのか?」
「一応、身体作りは大事かなって。先生も一緒にどうです?」
オレは笑って冗談混じりに先生を誘ってみる。
「良いぞ」
「……え?」
返ってきたのは意外な返事だった。
まさか乗ってきてくれるとは。
「だが、少し待て。代わりに見張ってくれる先生を呼んでくる」
「本当に良いんすか?」
「可愛い教え子の頼みだ。それに俺も丁度走りたかったところだしな」
こうしてオレは何故か先生と一緒に朝のランニングをすることとなった。
「あっ、戻ってきた!何処言ってたんだよ?」
ランニングを終えて部屋に戻るや否や、矢渕がオレのことを出迎えた。
「ちょっとな」
「ちょっと……?も、もしかして深夜にこっそり抜け出して柊の部屋に行ってたとか!?」
「違えよ」
鬱陶しく絡んでくる矢渕に、オレは呆れながら身体を拭いていく。
「朝のランニングをしてたんだ。五十嵐先生と一緒に」
「え?……それ何の罰ゲーム?」
オレの返答に、矢渕は若干困惑気味に言う。
まあ、そうなるよな。普通は。
「とにかく女子の部屋なんて行ってない。そもそも深夜に部屋を抜け出そうなんて無理な話だろ。見張りの教師がいるんだから」
オレは矢渕にそう言い、今日の予定表を確認してからジャージを羽織る。
どうやら朝食後はクラス毎で別れてハイキングらしい。
五十嵐先生はコースの状態の下見も兼ねたんだろうか?
「朝は何が食えるんだろうな?」
「なんかバイキングだって話だぞ」
「うわ、最高じゃん!」
支度を終えたクラスメイトたちと一緒に朝食の会場へ向かう。
と、そこに。
「ねえ、級長。ちょっと良い?」
オレの姿を見つけ、そう声をかけてきたのは丁度出くわしたクラスメイトの女子の1人だった。
「どうした?」
「えっと、柊ちゃんのことなんだけどさ」
「……?柊がどうかしたのか?」
「あー、いや。柊ちゃんが直接どうしたって話じゃなくて。どっちかというと蟻塚の話」
「何かあったのか?」
「ここだけの話だよ?アイツ、パパ活してたんじゃないかって噂が出ててさ」
「それはまた、なんというか」
凄い話だな。
本当なら、だが。
「あんな奴と関わってると柊ちゃんもいずれそっち側になっちゃわないか心配なんだよね」
なるほどな。
確かに、その噂がもし本当だとしたら、あの蟻塚といる柊は少なからず悪い影響を受けるかもしれない。
だが、その噂が本当かどうかなんて今の時点では判断出来かねる。証拠もないしな。
噂はあくまでただの噂でしかないのだ。
とりあえず本人に確認を、と言いたいところではあるが相手はあの蟻塚だ。
本音を語ってくれるとは思わない。
オマケにオレは相当嫌われているしな。
「まあ、やることはやってみる。教えてくれてありがとな」
何にせよ。
たかが噂程度でアイツを軽蔑する気もない。
オレはまだ蟻塚のことを何も知らないのだから。
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