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第4章「橘風佳はそこそこ侮れない」
8/蟻塚
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「……、蟻塚さん?」
部屋の隅で身を縮こませるようにして座り、目を瞑る私に声を掛けたのは鬱陶しいあの子だった。
あれだけウザいくらい話し掛けておいてまだ私のことが怖いらしく、震えたような声色でありつつもまだ私の事を心配しているらしい。
ホントに馬鹿な子だ。
私は仲良くする気など微塵もないというのに。
「えっと……大丈夫?」
優しくしないで。
私に構わないで。
関わりたくない。
放っておいて。
心の中でそんな悪態をつくが、何故か口には出なかった。
私が思っている以上に私は弱い人間だったらしい。
いや、心のどこかでは多分気付いていた。
気付いていたからこそ、私は私を偽って強がりながらも足掻いていたのだ。
そう、私は弱い。
強くなんかないのだ。
だから……誰かに優しくされるような資格なんてなかった。
ましてや、自分が虐めていたはずの相手に優しくされるなど、あってはならない。
私は……私は……。
私は、もう……。
「皆、待ってるよ?」
「……」
「お腹が痛い、とか?」
「……そうね。そうかも」
私はそう答えながら、ゆっくりと目を開ける。
両手を胸の前でぎゅっと握りながら膝をついてこちらを覗き込んでくる彼女は、どこか申し訳なさそうな表情をしていた。
「なに?」
私が睨みつけると少し怯んだ様子で、しかし彼女は私から目を逸らそうとしなかった。
何かを言おうと口を開きかけたが、すぐにきゅっと口を結ぶ。
そして少ししてから言った。
「さっき、廊下で話してたこと聞いちゃって……。ごめんなさい」
「……そう。ざまぁみろって言いに来た訳か」
「ち、違うよ!」
「……なら、何?まさか同情でもしてるつもり?アンタが?私に?」
馬鹿らしい。
この子に一体私の何がわかるというのか。
恋愛の1つもしたことがないような、この子に、私の何が……!
「……、今まで散々辛い思いをしてきたってのにこれからもずっと同じ思いをしていかなきゃならないなんて納得出来ないだろ?」
「……は?」
何を言って……。
「確かに私は蟻塚さんの気持ちをわかってあげられないもしれないけど……ずっと辛そうにしてるのは知ってたから」
「……」
わかるはずがない。
私は自分を偽って今まで生きてきたんだから。
弱い自分を隠してきたんだから。
誰にもバレないように、ずっと……ずっと。
なのに……どうして。
どうして、アンタが泣いてんの……?
「あれ……?おかしいな……。なんで、私が泣いて……」
私は何も言えず、ただ彼女の涙を流す姿をじっと見つめることしか出来なかった。
私は……どうすれば良かったのだろうか。
どうすれば、正解だったのだろうか。
拒絶し否定され続けても尚、変わらず私に手を差し伸べて涙を流してくれるようなこの子に私はどうすれば……。
「……、ウザすぎ」
私は溜め息をついてゆっくり立ち上がると、油断していた柊の頭をわしゃわしゃと掻き回した後、彼女の目を真っ直ぐ見つめて言った。
「許さないから」
「……え?」
キョトンとする柊に背を向けて私は歩き出す。
「私を惨めな気分にさせておいてただで済むと思ってないわよね?復讐だかなんだか知らないけど良いわ。付き合ってあげる。ただし、それが終わったらもう二度と私に関わらないで。ほら、行くわよ」
柊はきっとわかっていないだろう。
私がどんな思いでそう言ったのか。
でも、それでいい。
私のことなど分からないままでいてくれれば何も問題はない。
わざわざ同じ場所に堕ちてくる必要なんて、ないのだから。
部屋の隅で身を縮こませるようにして座り、目を瞑る私に声を掛けたのは鬱陶しいあの子だった。
あれだけウザいくらい話し掛けておいてまだ私のことが怖いらしく、震えたような声色でありつつもまだ私の事を心配しているらしい。
ホントに馬鹿な子だ。
私は仲良くする気など微塵もないというのに。
「えっと……大丈夫?」
優しくしないで。
私に構わないで。
関わりたくない。
放っておいて。
心の中でそんな悪態をつくが、何故か口には出なかった。
私が思っている以上に私は弱い人間だったらしい。
いや、心のどこかでは多分気付いていた。
気付いていたからこそ、私は私を偽って強がりながらも足掻いていたのだ。
そう、私は弱い。
強くなんかないのだ。
だから……誰かに優しくされるような資格なんてなかった。
ましてや、自分が虐めていたはずの相手に優しくされるなど、あってはならない。
私は……私は……。
私は、もう……。
「皆、待ってるよ?」
「……」
「お腹が痛い、とか?」
「……そうね。そうかも」
私はそう答えながら、ゆっくりと目を開ける。
両手を胸の前でぎゅっと握りながら膝をついてこちらを覗き込んでくる彼女は、どこか申し訳なさそうな表情をしていた。
「なに?」
私が睨みつけると少し怯んだ様子で、しかし彼女は私から目を逸らそうとしなかった。
何かを言おうと口を開きかけたが、すぐにきゅっと口を結ぶ。
そして少ししてから言った。
「さっき、廊下で話してたこと聞いちゃって……。ごめんなさい」
「……そう。ざまぁみろって言いに来た訳か」
「ち、違うよ!」
「……なら、何?まさか同情でもしてるつもり?アンタが?私に?」
馬鹿らしい。
この子に一体私の何がわかるというのか。
恋愛の1つもしたことがないような、この子に、私の何が……!
「……、今まで散々辛い思いをしてきたってのにこれからもずっと同じ思いをしていかなきゃならないなんて納得出来ないだろ?」
「……は?」
何を言って……。
「確かに私は蟻塚さんの気持ちをわかってあげられないもしれないけど……ずっと辛そうにしてるのは知ってたから」
「……」
わかるはずがない。
私は自分を偽って今まで生きてきたんだから。
弱い自分を隠してきたんだから。
誰にもバレないように、ずっと……ずっと。
なのに……どうして。
どうして、アンタが泣いてんの……?
「あれ……?おかしいな……。なんで、私が泣いて……」
私は何も言えず、ただ彼女の涙を流す姿をじっと見つめることしか出来なかった。
私は……どうすれば良かったのだろうか。
どうすれば、正解だったのだろうか。
拒絶し否定され続けても尚、変わらず私に手を差し伸べて涙を流してくれるようなこの子に私はどうすれば……。
「……、ウザすぎ」
私は溜め息をついてゆっくり立ち上がると、油断していた柊の頭をわしゃわしゃと掻き回した後、彼女の目を真っ直ぐ見つめて言った。
「許さないから」
「……え?」
キョトンとする柊に背を向けて私は歩き出す。
「私を惨めな気分にさせておいてただで済むと思ってないわよね?復讐だかなんだか知らないけど良いわ。付き合ってあげる。ただし、それが終わったらもう二度と私に関わらないで。ほら、行くわよ」
柊はきっとわかっていないだろう。
私がどんな思いでそう言ったのか。
でも、それでいい。
私のことなど分からないままでいてくれれば何も問題はない。
わざわざ同じ場所に堕ちてくる必要なんて、ないのだから。
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