恋花ーコイバナー

東雲いさき

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第3章「柊南帆は凄く頑張り屋」

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「わがまま、だったかな……」
「まあ、理由はどうあれよく頑張った方なんじゃないか?安心しろ。柊は悪くない」
蟻塚から離れ、少し落ち込んだ様子の柊を励ます。
「蟻塚をグループに入れようなんて無謀でしょ。ただでさえ、結城くんも嫌われてんのに」
「好きにしろとは言われたけどな」
「当日来ないんじゃいないのと変わらないでしょ。ホント、結城くんも柊ちゃんも何考えてんのかわかんね」
両手を上げてやれやれと呆れる矢渕。
「とりあえずあと1人決めれば終わりだな」
「え?マジで蟻塚入れるつもりなの?」
「リーダーの要望だしな」
「……、?もしかしてリーダーって私?」
おずおずと手を上げる柊。
「あぁ、一応な。柊がオレたちを集めたんだし。しっかりな、リーダー」
「でも、私なんかよりも湊斗くんの方が……」
「やる前から諦めんなよ。安心しろ。オレも手伝う」
「……うん。がんばる」
何とも頼りなさげなリーダーだが、4人の中で一番まともなのは柊なので致し方ない。
矢渕もその辺は納得しているらしく口出しはしてこなかった。
「とにかくあと1人だ。候補はいるか?」
「俺は誰でも良いよ」
「お前には聞いてねえ。それと、このグループでお前に発言権があると思うなよ?なんでも言うことを聞くって自分から言ったんだからな?」
「うぐっ……」
「私は……誰でも」
「なら、その辺で1人寂しそうにしてる奴を誘ってきてくれ」
「えっ……私が?」
「だめか?」
「初対面の人にはなんて話しかけたら良いかわからなくて……」
それでよく蟻塚に声を掛けられたな。
まあ、でも確かによくよく考えてみれば柊は何でも自分から行くタイプではないか。
むしろ、大抵はクラスの女子の方から話し掛けてもらっていたような気もするし。
「よし、矢渕。出番だ」
「えー、俺?苦手だぞ?そういうの。しかも俺の印象ってめちゃくちゃ悪いじゃん?断られたら普通にキツいし」
「使えねえ奴だな」
「うわー、すげぇ悪口」
矢渕を無視してオレは適当に周りを見渡して誰かいないか探す。
するとちょうど良さそうな人物が目に入った。
休み時間でもないというのに机の上に突っ伏したまま気持ちよさそうに寝ている女子生徒だ。
髪は長く、眼鏡を掛けており、見た目は完全に優等生といった感じである。
……授業中に寝ている優等生とはこれ如何に。
「おい、起きろ。授業中だぞ」
なるべく優しく相手を起こそうとするが反応がない。
完全に熟睡モードに入っているようだ。
仕方なく彼女の肩に手を置き揺り起こすことにする。あまり強く揺すりすぎて怪我させてもマズいと思いゆっくりと力加減に注意しながら体を揺らす。
「……?なに~?」
寝惚けた様子で上半身を起こし、こちらを見てくる少し垂れ目の女子生徒。
特別美人だとか可愛いだとかはないものの、どこか癒される雰囲気があった。
眠たげな目を擦ると彼女は大きな欠伸をして背伸びをする。
「オリエンテーション合宿のグループを決めてるんだが、オレたちのところに入ってくれないか?」
「ん~?良いよ、何処でも」
意外にもあっさりと了承してくれたことに驚くがこれで5人目のメンバーが決まったことになる。
「他のメンバーは?」
「柊と矢渕、蟻塚だ」
「うわ~、めちゃくちゃ楽しそ~」
ゆるい笑顔を浮かべながら嬉しそうにする彼女。
どうやら喜んでくれたようで良かった。
「あ、あの……柊南帆です。よろしくお願いします」
いつの間にか近くに来ていた柊が緊張した面持ちで挨拶をするが、彼女はそんな柊を安心させるように笑みを溢す。
そして、柊に向かって手を差し出した。
握手を求めているのかと思ったのだが、突然パチンッ!と柊の顔の前で思いっきり手を叩く。
「ひゃあっ……!?」
当然、柊は驚いた声を上げて後ろに下がる。
「あ~、ごめんね。癖なの、可愛い女の子を見たらつい驚かせたくなっちゃうの」
てへぺろ、と舌を出しておどける彼女に柊は顔を赤く染めて口をパクパクさせている。
「も~、可愛いな~。ごめんてば~。よしよし」
柊をゆっくり抱き寄せながら頭を撫でる彼女はさしずめ母親のようだった。
「ウチは橘風佳たちばなふうか。よろしくねん、結城湊斗と愉快な仲間たちさん」
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