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第3章「柊南帆は凄く頑張り屋」
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「はい、というわけで合宿のグループを作りたいから五人組で集まってもらえるかしら?」
六時間目ということもあり、多少うつらうつらしていると担当教師である早川先生がそんなことを言い出した。
特に仲の良いクラスメイトがいないオレとしては誰と組まされようがあまり変わらない気もするので適当に割り振ってもらえた方が助かったのだが。
「まあ、結城くんは確定じゃん?あと三人か」
さっそくバカがオレを数に入れ始めた。
「お前と組むなんて一言も言ってねえよ」
「え~、じゃあ他に当てはあんの?」
「ねえけど、お前と組む理由がないだろ。むしろ、お前と組まない理由の方が多い」
「そこはほら、俺を助けると思ってさぁ。……ただでさえ、俺このクラスで浮いてるから気まずいんだよ」
小声で訴えかけてくる矢渕。
お前の口から気まずいなんて言葉が聞けるなんてな。
そういうのは気にしない奴かと思っていたのに。
「なら、これはチャンスかもな。お前が変わるための」
「お、俺と組まないと後悔するかもしれないじゃん?」
「ほう、例えば?」
自分のプレゼンを始めようとする矢渕に先を促す。
矢渕の言う通りだとしたら面白いだろうが、こいつがそこまで考えているとは思えないし、期待はできないだろう。
「例えば……そう、フィジカル強いしサバイバルとかで役立つ!」
「なんだよサバイバルって」
「無人島行くかもだろ?」
「山の中っつってんだろ。そもそも学生がサバイバルって。映画の見過ぎだ」
呆れたようにため息をつく。
確かにオリエンテーションで何をやるのかはオレも知らないが、ただ皆で遊んで親睦を深めるだけの交流会的なものになるんじゃないだろうか。
そうでなければこんな時期にやらないと思うし。
つまり、フィジカルは重視されない。
大事なのはコミュニケーションだ。
その点、矢渕は……苦労しそうである。
自分中心に世界が回ってるとか思ってそうな奴だし。
「あの……み、湊斗くん」
と、そこで控えめに声をかけられた。
声の主はもちろん柊だ。
「どうした?」
「えっと……一緒のグループに入れたらなって。だめ、かな?」
頬を赤らめながら上目遣い気味に見つめられる。
これを無意識でやってるんだとしたら恐ろしい事この上ない。
「オレなんかで良いのか?せっかく仲良くなれた友達もいるだろうに」
「……応援、されちゃったから」
「応援?」
言っている意味が分からなかったが、クラスメイトの女子たちが時折こっちを見ては興奮気味にきゃーきゃーと騒いでいることに気付く。
なんなんだ一体。
「これで三人か」
「おい、待てコラ」
勝手に仲間になったつもりの矢渕を小突く。
「頼む!結城くんのことなんでも言うこと聞くから!なんなら、命令されるまで動かないと約束する!」
「一昔前のゆとり世代か。あと許可を得るなら柊に頼め」
「……、え?」
驚いた様子でこちらを見る柊。
「オレは柊と組むって決めたんだ。柊が拒否するならお前とは組めんだろ」
「私は良いよ?」
「ほら、柊も嫌がって……は?」
思わぬ返事に一瞬思考が停止する。
この間まで罵倒してきた奴だぞ?何考えてんだ?
「気にしてないことはないけど……湊斗くんがいてくれるなら」
「お前な……まあ、いいや。コイツのこと嫌になったらちゃんと言えよ?」
柊本人が良いと言うならもう何も言うまい。
「てか、前から名前呼びだったか?」
「あっ、ごめんなさい。迷惑……だった?」
「いや、オレは別に嬉しいけど」
柊にだって気になる相手の一人や二人いるだろうに。
そいつらに勘違いでもされたら面倒なことになるのが目に見えているが大丈夫なんだろうか。
え、ひょっとしてオレが気にしすぎなだけ……?
名前呼びってそんなに大して特別なことじゃないのか?
「あと二人どうする?」
オレの心配など露知らず、矢渕がそんなことを言い出す。
「お前も少しは遠慮しろよ」
「まあまあ、仲良くいこうよ。ねえ、柊ちゃん。柊ちゃん?」
と、何故か周りを見渡す矢渕を見てオレも振り返ってみるがそこにいたはずの柊はいなくなっており。
何故か1人で黄昏ている蟻塚の方へと向かっていく柊の姿が見えた。
「おいおい」
周りのクラスメイトたちも柊のその異常な行動に気が付いたらしく、ただ息を飲む。
「……、蟻塚さん」
声をかけた柊の方へと振り向く蟻塚。
その表情は相変わらず不機嫌だ。
「何?」
「えっと……その、同じグループになってほしくて」
「アンタ馬鹿でしょ?」
「え?」
怒るでもなく、笑うでもなく。
ただ蟻塚は静かにそう言った。
「どういうつもりか知らないけど私は嫌。アンタとだけは絶対ない」
「……でも、私は」
「執拗い。何?罰ゲームでもさせられてんの?それとも散々虐めた私への嫌がらせ?」
「違う」
「なら、何?もしかして私を怒らせようとしてる訳?」
「私はーーー」
「柊、ちょっと待った」
徐々にイライラを募らせる蟻塚を見て流石にヤバいと思ったオレは柊を止めに入る。
「悪い、蟻塚。柊は別に悪気があって誘ってるわけじゃないんだ。それだけはオレからも補償する」
「あっそ。……別に好きにすれば?私はどうせ行かないから。合宿なんて」
六時間目ということもあり、多少うつらうつらしていると担当教師である早川先生がそんなことを言い出した。
特に仲の良いクラスメイトがいないオレとしては誰と組まされようがあまり変わらない気もするので適当に割り振ってもらえた方が助かったのだが。
「まあ、結城くんは確定じゃん?あと三人か」
さっそくバカがオレを数に入れ始めた。
「お前と組むなんて一言も言ってねえよ」
「え~、じゃあ他に当てはあんの?」
「ねえけど、お前と組む理由がないだろ。むしろ、お前と組まない理由の方が多い」
「そこはほら、俺を助けると思ってさぁ。……ただでさえ、俺このクラスで浮いてるから気まずいんだよ」
小声で訴えかけてくる矢渕。
お前の口から気まずいなんて言葉が聞けるなんてな。
そういうのは気にしない奴かと思っていたのに。
「なら、これはチャンスかもな。お前が変わるための」
「お、俺と組まないと後悔するかもしれないじゃん?」
「ほう、例えば?」
自分のプレゼンを始めようとする矢渕に先を促す。
矢渕の言う通りだとしたら面白いだろうが、こいつがそこまで考えているとは思えないし、期待はできないだろう。
「例えば……そう、フィジカル強いしサバイバルとかで役立つ!」
「なんだよサバイバルって」
「無人島行くかもだろ?」
「山の中っつってんだろ。そもそも学生がサバイバルって。映画の見過ぎだ」
呆れたようにため息をつく。
確かにオリエンテーションで何をやるのかはオレも知らないが、ただ皆で遊んで親睦を深めるだけの交流会的なものになるんじゃないだろうか。
そうでなければこんな時期にやらないと思うし。
つまり、フィジカルは重視されない。
大事なのはコミュニケーションだ。
その点、矢渕は……苦労しそうである。
自分中心に世界が回ってるとか思ってそうな奴だし。
「あの……み、湊斗くん」
と、そこで控えめに声をかけられた。
声の主はもちろん柊だ。
「どうした?」
「えっと……一緒のグループに入れたらなって。だめ、かな?」
頬を赤らめながら上目遣い気味に見つめられる。
これを無意識でやってるんだとしたら恐ろしい事この上ない。
「オレなんかで良いのか?せっかく仲良くなれた友達もいるだろうに」
「……応援、されちゃったから」
「応援?」
言っている意味が分からなかったが、クラスメイトの女子たちが時折こっちを見ては興奮気味にきゃーきゃーと騒いでいることに気付く。
なんなんだ一体。
「これで三人か」
「おい、待てコラ」
勝手に仲間になったつもりの矢渕を小突く。
「頼む!結城くんのことなんでも言うこと聞くから!なんなら、命令されるまで動かないと約束する!」
「一昔前のゆとり世代か。あと許可を得るなら柊に頼め」
「……、え?」
驚いた様子でこちらを見る柊。
「オレは柊と組むって決めたんだ。柊が拒否するならお前とは組めんだろ」
「私は良いよ?」
「ほら、柊も嫌がって……は?」
思わぬ返事に一瞬思考が停止する。
この間まで罵倒してきた奴だぞ?何考えてんだ?
「気にしてないことはないけど……湊斗くんがいてくれるなら」
「お前な……まあ、いいや。コイツのこと嫌になったらちゃんと言えよ?」
柊本人が良いと言うならもう何も言うまい。
「てか、前から名前呼びだったか?」
「あっ、ごめんなさい。迷惑……だった?」
「いや、オレは別に嬉しいけど」
柊にだって気になる相手の一人や二人いるだろうに。
そいつらに勘違いでもされたら面倒なことになるのが目に見えているが大丈夫なんだろうか。
え、ひょっとしてオレが気にしすぎなだけ……?
名前呼びってそんなに大して特別なことじゃないのか?
「あと二人どうする?」
オレの心配など露知らず、矢渕がそんなことを言い出す。
「お前も少しは遠慮しろよ」
「まあまあ、仲良くいこうよ。ねえ、柊ちゃん。柊ちゃん?」
と、何故か周りを見渡す矢渕を見てオレも振り返ってみるがそこにいたはずの柊はいなくなっており。
何故か1人で黄昏ている蟻塚の方へと向かっていく柊の姿が見えた。
「おいおい」
周りのクラスメイトたちも柊のその異常な行動に気が付いたらしく、ただ息を飲む。
「……、蟻塚さん」
声をかけた柊の方へと振り向く蟻塚。
その表情は相変わらず不機嫌だ。
「何?」
「えっと……その、同じグループになってほしくて」
「アンタ馬鹿でしょ?」
「え?」
怒るでもなく、笑うでもなく。
ただ蟻塚は静かにそう言った。
「どういうつもりか知らないけど私は嫌。アンタとだけは絶対ない」
「……でも、私は」
「執拗い。何?罰ゲームでもさせられてんの?それとも散々虐めた私への嫌がらせ?」
「違う」
「なら、何?もしかして私を怒らせようとしてる訳?」
「私はーーー」
「柊、ちょっと待った」
徐々にイライラを募らせる蟻塚を見て流石にヤバいと思ったオレは柊を止めに入る。
「悪い、蟻塚。柊は別に悪気があって誘ってるわけじゃないんだ。それだけはオレからも補償する」
「あっそ。……別に好きにすれば?私はどうせ行かないから。合宿なんて」
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