不治のシレーヌ

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episode2

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「そもそも、何でこんな事になってんだっけ。」

昨日の出来事を思い出そうと頭を捻る。
放課後のアルバイトを終えて家に帰る途中で荷物を盛大にぶち撒けたまでは覚えている。


だけど
その後の記憶は思い出せそうもない。


「酔っ払いでもあるまいし、記憶無くなるなんてありないでしょ。でも、まぁ、何にせよさっさっと、この家から出ないとな。」

部屋をキョロキョロと見渡すと
時計は12時を指し示していた。

とっくに授業が始まっている時間である事を認識する。このままじゃ、特待生としての資格がなくなってしまうかもしれないことに、焦りを感じた。

「とゆうか、ここはどこなの?」

この部屋のカーテンを引き、外の景色を見て驚愕する。

「嘘でしょ。こんな場所知らない。」

眼前に広がる外の景色は、
地平線の先まで花や植物が植えられている大きな庭が存在してた。

「私の住んでいた町にこんな庭を持っている人なんていない。」

郊外の町で、ビルが乱立されている
田舎すぎず、都会すぎない町だった。


「今日、もしかして学校に間に合わないんじゃ、」

最悪のシナリオが頭をよぎり
部屋を勢いよく飛び出した。


磨き上げられているフローリング。
高そうな絨毯が敷かれている広すぎる廊下、緻密な技術が駆使されているガラス細工の窓、その廊下には鎧が立ち並んでいた。

外へ繋がる扉を開き、その広大な庭を走り抜ける。


走って、走って_____走り続けた。


そして、たどり着いた先は薄暗い森の手前に細長い鉄柵がある場所だった。

「どうなってるの?もしかして、この先に町があるの?」

この時、わけのわからない状況に置かれた私は冷静な判断ができていなかったのだろう。


辺りを見渡し、鉄柵よりも背の高い大木を見つける。その大木のくぼみに足をかけ、木の幹を掴み何とかよじ登っていく。


木の中腹に差し掛かり、鉄柵を乗り越えられそうな高さまで登ったはいいが、3メートル以上は高さのあることに、シレーヌは足元が竦む。


「ここから飛べば、鉄柵は越えられそうだけど、」

鉄柵から木の幹までの距離は1メートルないくらいであった。

飛び方を間違えれば、
良くて怪我をし、最悪の場合は。


「死ぬかも、ね。」

自分で言葉に出してみたものの
現実味は少ないかと思い直し、シレーヌはすぅっと深呼吸を落とした。


シレーヌにとっては、限りなく低い確率で死ぬかもしれないことよりも、授業に間に合わなくて特待の資格を失うことの方が恐ろしかった。


走り出そうと足を大きく踏み出した瞬間、何か大きな音が響き、足を踏み外してしまう。


落ちるかと思ったが、咄嗟に木の幹に手をついて落ちるのを回避する。



シレーヌは安堵の溜息をつき、何か大きな音のした方向へ視線を滑らせる。




すると、そこには誰かが立っていた。



その人物とは距離もあり、太陽の反射も相まって

その人物がどんな姿をしているのかは分からなかった。



だけど________。


冷ややかな印象を持たせるアイスグレーの色彩を持った、その瞳だけは、はっきりとシレーヌの目に焼きつけられていた。



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