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chapter9
秘密1
しおりを挟む荒谷 新side
「さむっ」
ゴミ倉庫の前で、肩に顔に降りかかる雨を見上げる。
さっきまで雲一つなかったはずなのに、バケツでもひっくり返したみたいに降りしきる雨の中。頭の中を埋め尽くすのは
早く、早く_______はやくっ!
ただ、早く。この華を目に入らないようにすることだけ。
「新くんっ!雨、酷いのに。傘もささないで何してるの!テスト前なのに、風邪引きたいの?」
近づいてきた矢井島が傘を俺に傾ける。
「今すぐ、やんないと駄目なんだよ。絶対に。」
「それは、何で?そんなに必死なのは………蒼くんのため?」
「いや。違う。」
違う。春のためじゃない。
ただ、自分が………不甲斐ないから。
「じゃあ、何のためなの。」
「クロユリは、駄目なんだよ。………俺が。」
______________苦しくなる。
何もできないどころか、感情に任せた行為によって
俺が送ったメッセージの返答で送られてきた天宮の会長からの花によって傷ついたのは俺じゃなかったから。
「俺が………何?」
「あ。そーいや、見たいテレビあんの忘れてたわ。つーことで、さっさと終わらせるか」
「やめるって、選択肢はないわけ。」
「ないない。」
矢井島は仕方ないとばかりに持っていた傘を俺に持たせて俺の手から俺が持っていたゴミ袋をゴミ倉庫へと捨てる。
「ねぇ………昼休みの僕が蒼くんの顔を見た時、話を遮ってそれどころか話をすり替えた時、新くんは色々と誤魔化したいんだなーって思ったんだ。アレは、わざとでしょ?あの後、2人きりになった時にはぐらかされたけど………………あたり?」
「そんなわけないだろ。何でそんなことする必要があるんだよ。」
ドキリと鼓動が跳ねる。
矢井島が不信感を持ったのは何となく察していたけれど、俺がわざと話題を変えたのもバレてるとは思いもしなかった。
「ふふっ。そんなの簡単だよ。蒼くんの容姿に触れることは、蒼くんの笑顔を遠ざけるから。たったそれだけ。でも、新くんにとっては何よりも大切なもの。でもさ、これだけは教えて。………………蒼くんは、さっきの華が嫌いなの?______________それは、化け物と何か関係ある?」
唐突に出てきた化け物という言葉の真意を噛み砕けずにいたら、矢井島が付け足すように続ける。
「最初、僕が何かしたのかとも思った。さっきの蒼くんが、少し変だったから。………………僕は詮索するつもりはないけど、だからこそ。蒼くんの嫌いなものには触れないようにしたい、だから、教えて。僕は何かしたのか、教えて。」
「嫌いじゃない。………佐藤は、多分、あの華をむしろ愛してるよ。」
春にとって、一番大切な妹のあやめが好きなものなんだから嫌いな筈はない。
ただ_________身体に合うのかどうかは別の話になるけれど。
「じゃあ、さっき。変だったのは何で。」
「確証はないけど、花粉症的なものだとは思うけど」
「花粉症?………あ、だからマスク」
「だから、変なのはそのせいだろ。」
「じゃあ、化け物を何か知ってたりする?あそこまで分厚い眼鏡と黒髪に染めてまで顔を隠す理由は、化け物と何か関係でもあるの?新くんは、蒼くんの………昔を知ってるんだよね」
「化け物って何?………誰かから聞いた?聞いたんじゃなく、アイツをそう思ってのことなのか?それなら」
傘に当たる大粒の雨が傘に当たっては耳障りな音を立てて滑り落ちていく。元々ある身長差のせいで俯き気味な矢井島の表情は見えなかった。
矢井島がゆっくりと顔を上げる。
程度の差はあっても大体にこやかな笑顔を浮かべている矢井島が、初めて何の温度も見せないような冷え切った表情で俺を見てくる。
「………みくびらないで貰いたいよね。僕が、そんな人間に見えてるの?………会って間もなくて蒼くんのことをきっと、新くんより知らないよ。だけど、化け物だなんてそんなことを言う人間に見えるわけ?」
「あー。悪い、悪かった。そういうつもりじゃない。そうだよな、そういう人間だけじゃないよな。………ごめん」
「僕の屋敷に来た客人。」
怒った矢井島がゴミ倉庫から出て土砂降りの雨の中を歩き出して、くるりと振り返った。
「今日は、運ぶのはもう終わり。僕の話、聞きたいんでしょう。化け物の理由を説明するから、ついてきて。その花は明日の朝でもいいはずだから。………………てゆうか、僕に風邪を引かせようとするとかありえないから。察して欲しいよね。モテ男さん」
矢井島の元まで急いで走って傘を傾ける。隣を歩きながら矢井島の顔を見ていたら変わらない笑顔を向けられるが、
その笑顔の中に僅かに刺のようなものを見つけた。
「何?」
「ぁ_______いや、何か矢井島が変わった気がして………。まぁ、気のせいか」
「え?何言ってるの。気のせいに決まってるよ?………なーんてさ、言って欲しい?てゆうか、新くんの接し方、結構、素に近い方だったんだけどね。あ、言っとくけど、蒼くんは知ってるからね。………本当の僕はこっち。今までの僕は、お客様用。」
「へぇ。………まぁ、どっちでも変わんないか。矢井島が2月が嫌いだっていう矢井島ならどっちが本当でもいいよ。………………どっちだって、矢井島は優しいみたいだから。」
「それが素なら、罪だよね。新くん。」
多少、刺があるような気はするけれど………。矢井島がどうあろうが全部が偽物じゃないなら、2月が嫌いだっていう矢井島が本物だったなら何も変わらないだろう。
「ま、余談はさておき。本題ね。僕の屋敷に来た客人のうちの一人が僕にこう言ったんだよ。【離れるなら今のうち】だって。【化け物と言われる所以の変色童(へんしょくわっぱ)といたら、傷が深くなる】だけだってこう言われた。」
「へん……変色童って、何だ?それに、それが佐藤と関係あるって何で。」
「僕も分かんなくて聞き返したら、白髪に蒼い目をした子供のことだって言われた。今日の昼休みに蒼くんの瞳を見てその言葉を思い出したんだよ。だから、聞いておきたくて。それに______________ん?」
矢井島と話しているうちに、寮の前まで来ていたようで
寮とは反対側の方、学園へと続く通学路側を見ている矢井島につられて俺もそっちへと目を向ける。一本の傘に入っている2人のうちの1人には見覚えがあった。
「あれって。」
「あー。………何だっけ、確か。ふーきのいんちょーさんだ。」
「その隣。………副風紀委員長様じゃなくて______________転校生かな?」
「あぁ。じゃあ、あの二人ずっと一緒にいたんだな」
「ずっと?」
「放課後、一緒にいるの見かけたんだよ。」
「へぇ、仲良いんだね。西方くん、副会長様と一緒にいるのよく見るから意外だな。」
「あの転校生」
俺がその転校生から目を離せずにいると、矢井島が不思議そうな顔をして言った。
「驚いた。………新くん、転校生に興味あるの。」
「そうだな。…………ある、かもしれない。」
心臓が鷲掴みにされたように、鼓動が重く鳴った。
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