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chapter9
呪い3
しおりを挟む「ん。」
階段横の音楽室の椅子に座らされると、俺の前にしゃがんだ風紀委員長は手のひらを見せるようにして俺の方に、手を差し出した。
「これ以上は、手が痺れそうだ」
〝まだ〟なのかと訴えてくる瞳をする風紀委員長に俺は手を差し出すと風紀委員長はほんのりと笑った。
「何ですか?」
「いや。やっぱり、嘘つきだと思って。」
「何がですか。」
「それは______________秘密」
よく分からない事をいう風紀委員長は、ポケットから出した絆創膏を手のひらに貼る。
「イルカ?」
無地の茶色い絆創膏を予想していたから、手のひらに貼られた可愛いイルカの絆創膏を見続けていると風紀委員長が焦ったように目を丸くして、俺と目が合った瞬間に不自然に視線を外した。
「何か問題でもありましたか。」
「いや、何でもない。ただ、間違えただけっていうか。本当、何でもない。」
風紀委員長の顔が分かりやすいほど赤く染まっていくけれど、何が原因なのかは俺には分からなかった。
「悪い。他の絆創膏に変えよう。………絶対に、その方がいいしな」
「僕は、これで構いませんよ。貼り直して頂く時間もないので」
教室に今すぐに戻れば間に合う時間だったので
それを伝えると、風紀委員長は納得せざるを得なかったのか渋々頷いた。
「分かった。………………後、他に怪我をしている所は本当にない?」
「ないと思います。風紀委員長様、ご面倒をおかけして申し訳ありません。」
「あぁ。………でも、こういう時は俺は謝られるよりはありがとうがいいかな?」
謝罪じゃなくて感謝を欲しがるなんて
変な人だと思いながらしゃがんでいた体勢から立ち上がった風紀委員長と同じようにして、俺も左足に体重をかけないように椅子から腰を上げる。
「ありがとうございます。………この絆創膏もありがとうございます。」
「一応、普通の絆創膏も渡しておくから。無理せずに、嫌だったら外していいよ。」
このイルカの絆創膏をよっぽど外して欲しいのか、普通の絆創膏を手渡される。
「もしかして、お気に入りの絆創膏でしたか。」
「いや………。違う。アレだよ_______その絆創膏は、可愛すぎるから嫌かと思って」
しどろもどろになりながら耳まで真っ赤にさせながら風紀委員長が言った。
「イルカは、一番、好きな動物なので嫌なんかじゃないです。」
「それならいいんだけどな」
「それに、イルカは海のクローバーですから」
音楽室を後にして、無地の絆創膏を制服のズボンのポケットに突っ込んで、手のひらに貼られたイルカの絆創膏をなぞる。
※
「海のクローバー」
授業が終わり風紀室に向かっていたら、視線の先に旧校舎の美術室以来見かけなかった人物の姿に目を留める。
窓の外にある何かをずっと見ているその後ろ姿が珍しくて
視線の先を追うと、まだ疎らな通学路の中に『彼』を見つけた。
_________気づかなかった。
あの時、何で気づかなかった。
隠されていたから。
時間がなかったから。
それでも、気付けなかった。
あの左足を庇うような歩き方をしているのに、どうして______________。
「_________クソっ。」
風紀室へと向かっていた足を階段の方へと向けて
走り出そうとしていた瞬間に、いつものように派手な格好をした風紀顧問によって呼び止められた。
「ちょっと、待った待った~。帝くん。ちょ~っと、お話があんだけど、いい?」
「先生、手短にお願いできますか」
「何々~急ぎ~?ぁ、え~っと。幽霊騒ぎのことだったから急ぎじゃないんだけどさぁ。その幽霊が白鬼かもしれないって噂になってて。一応、帝くんにも伝えようと思ってたんだけど。」
「それだけですか。」
「いんや。………………それが白鬼だった場合なんだけど、風紀委員の全勢力使ってでもいいから何が何でも捕まえて俺んとこに連れてこい。んじゃあ、そういうことで。シクヨロでっす。」
サングラスを上にずらして、珍しく真剣なトーンで話す風紀顧問の姿に一瞬、顔が強張ったが、直ぐに戻ったいつもの調子に拍子抜けする。
「先生。急いでるのでお先に失礼します」
「おいおい。風紀委員長が廊下走るなって~の。」
白鬼____________。
その存在は知っていた。桜崎先生に尋ねられたこともあったし、唯賀が彼を白鬼だと勘違いしたこともあったから。
だが、風紀委員会としては白鬼の存在自体は学園の風紀を乱す事案ではないと調べもしなかったが、幽霊騒ぎも白鬼のせいとなるとそうも言ってられないのかもしれない。
それでも、風紀顧問から直々に捕まえろというほどの事案だとは思えないけれど。
今はそんなことよりも___________。
窓から見えた、不格好な歩き方をする彼の姿を思い出す。
「嘘ばっかりだっただろ。」
気づけなかった事に苛立つ。
大丈夫は、俺にとって一番嫌いな言葉なのに。
また、見落とした。
「馬鹿だ。」
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