花は何時でも憂鬱で

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chapter9

呪い2

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「すいません。」

「………ごめんなさい。って_______ん?」


荒谷と矢井島が先に屋上から降りていった後に俺も屋上から下に降りていくと、音楽室から出てきた誰かとぶつかる。


「あおいくんだよ、ね?………………いつもと髪型が違うから、一瞬、分かんなかったよ。似合ってるね。その髪型。………………ぁ、えっとね、実は、自習してたんだ。一応、賭けちゃったし。あおいくん関係ないのに巻き込んじゃったし、頑張んないとだからね。」

昼休みの時間帯に一人で音楽室にいるとは思わなくて
音楽室の方を一瞬見ただけなのに
それを汲み取った宵(よい)が付け足すようにしていった。

「………それにしても、あおいくんは風邪?それとも、あおいくんも臭いにやられちゃった?」

「花粉症対策みたいなものです」

「そっかぁ。………………けほっ。僕は旧校舎に咲いてるっていう臭いにやられちゃった。徐々に臭いは落ち着いていくっていうけど臭いには敏感な方だから他人よりだめで。でも、お揃いのマスクだね」

マスク越しににっこりと微笑んだ宵(よい)は、けほけほと咳をしだすと俺に気を使って足早に教室へと先に戻った。


足音が遠のいていくのを確認してから
宵(よい)と同じように、俺も数段、階段を降りていたら


「_______見つけたっ!Cマイナス!!」


廊下で耳が痛くなるほど聞き覚えのある言葉を叫んで、俺を指差した朱門が詰め寄ってくる。


「宵に近づかないでよ!………聞いてるの!!?」

返事をしない俺に苛立ったのか、詰め寄ってきたと同時に強烈に香る甘い香りに顔を背ける。

「………………っ、ゴホッ。ケホっ。」

「_________無視するなよっ!!」

朱門は無視され続けることに苛立つのか俺の肩を掴んで更に大きい声で責め立ててくるが、ここは特別教室のみの棟になっているから、誰も人がいないため気づかれることはない。

「朱門。ケホ、。少し、離れ…………」

階段の上で、これ以上暴れられたくなかったので
興奮する朱門を落ち着かせようと手すりを掴んでいた手を離して、肩を掴んでいる手首を掴もうとした手は何も掴むことはなく空を切った。


「触るなっ!!ムカつく!!!」


階段の途中で、朱門に見つかったこと。
身に覚えのある甘い強烈な匂いと朱門が思った以上に力が強かったこと、状況が場所が良くなかった。
朱門に肩を押される感覚と派手な音を立てて階段を滑り落ちていく衝撃。

「ぁ………。」


階段の踊り場に落ちて身体中の節々が痛むのを感じながらゆっくりと身体を起こす。朱門が突き出してしまった手がそのままなのを見るとそんなに時間は経っていないらしい。

「………………っ、ぃ。」

顔面蒼白という言葉が当てはまる朱門の表情を目にして
階段を落ちたくらいで、どこかかしら打っただけの一瞬の痛みぐらいで、騒がれたくはなかったので、さっさと立ち上がるが朱門の表情は変わることはなかった。

「………………朱門_______っひゅ。」

「………っ_______。」

静かな廊下に大きく響くおかしな呼吸音を聞かれたくなくて、手の甲で口を抑える。


絶句している朱門の不安を煽るように上から誰かが降りてくる足音が響いていた。この状況を見られるのは、あまり良くないと口を抑えていた手を外した瞬間に。

「悪くない。俺は、悪くないっ!お前が、悪いんだっ!!!」

朱門は、堰を切ったように
それだけ言うと走り去っていった。


朱門の足音が遠のいていくのを聞きながら
安堵したためか、咳き込む咳を手首で抑えて
階段の手すりを使って階段を降りようとしたら


「何してるの。」

階段の上からかけられる声に顔をあげると
風紀委員長が立っていた。


「………っ、屋上から教室に帰る所です。」

風紀委員長にバレないように息を整える。
朱門から香った匂いも時間が経って落ち着き始めたらしく、今は、酷くなることもないだろう。


「今、何か派手な音した気がするんだけど気のせい?」

「ついさっき、階段を踏み外したのでそれのせいだと思います。」

「踏み外したって、何で?」

「何でと言われても。………ただ、足元を良く見てなかったせいだと思います。今度からは、気をつけます。」

風紀委員長の質問の仕方が明らかに俺が何かを隠していると疑うような質問だったので、これ以上何かを突っ込まれたくなかったから、昼休みも終わりの時間というのもあり早めに会話を切り上げる。

「………待った_______。」

風紀委員長から背を向けて歩き出した足を止める。
呼び止められた声に反応したわけではなく、左足に走ったツキリと痛覚を刺激する突き抜けるような痛みに足を止めるしかなかった。


階段を降りてきた風紀委員長に腕を掴まれて振り向かされる。

「痛くない?」

「何がですか。」

「_______怪我をしてるから。」


風紀委員長にバレるような下手は打っていないはずだと思って風紀委員長の向いてる方向に視線を這わせると、階段を滑り落ちる時にでも擦ったのか手のひらが擦りむけていた。


「これくらいは痛くも何ともないので、放っておいて頂いて大丈夫です。」

「俺は、大丈夫なんて簡単にいう人間の言葉は信用してないんだ。………………特に、痛いなんて絶対に言えなさそうで、誰かに手を伸ばすことなんて知らなそうな人の言葉は。」


風紀委員長はそう言うと、掴んでいた腕を離した。


「図星だった?………本当は痛い?」

「まさか。僕は、そんな不器用な人間じゃないですよ。」


風紀委員長によって、掴まれていた腕を反対の手でぎゅっと掴む。


「気分を害したなら、ごめん。………………けど、俺の目にはそんな風に見えるよ。」


心外だ。
俺は、そんな弱い人間じゃない。


誰かに頼るような人間じゃない。
誰かに頼るくらいなら、壊れてしまった方がマシだ。



お人好しの人間は嫌いだ。
荒谷みたいに。




でも、多分。この人は、荒谷とは違って俺だけに特別に優しいわけではない。いい人なのだろう。前、会計が綺麗事人間だと言っていたから、多分。そういうタイプ。





けれど_______そういう暖かい目をされるのは気持ち悪くて______________嫌いだ。


掴まれてた腕の暖かさが消えてくれなくて尚更、イヤだ。



無関心で無干渉でいてくれれば、楽なのに。
楽でいさせて欲しい。


「だとしたら、勘違いです。僕は親には甘やかされて育ったタイプなので。………その真逆ですよ。」


それなら、俺が助けのいる弱い人間だと風紀委員長に
思わせなければいい。
そうすれば、関心も干渉もこの人はしないはずだ。





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