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chapter8
破壊4
しおりを挟む「あ………はい。そ、うです………。」
「「でもさ。これ、どっちに渡したの?」」
「あ、えっと。………陽日くんに」
顔どころか全身を真っ赤に染め上げて答える生徒に
意識を向けていたら昼食を取っていた場所の直ぐ後ろで立ち止まった真っ直ぐな髪を腰まで伸ばしスカートをはいた生徒に視線がいった。
「………馬鹿ね」
その生徒は、確かにそう呟くとさっさとどこかへと行ってしまった。
______女の子?いや、違うか。でも、あの言葉の意味はなんだ。
「だってさ、陽日。モッテモテー」
俺はいなくなったその生徒から双子の方へと視線を戻すと双子の片方がもう片方の肩を押して真っ赤になっている生徒の前へと押し出す。
告白を受けたのは小夜陽日の方だったらしい。
「………陽夜。押さないでよ。あ、そうだ。でもさ、これ僕じゃなくて陽夜に渡す予定だったでしょ?」
「………え?いや、僕は陽日くんに」
真っ赤な生徒の目の前に双子の片方を無理やり押し出した陽夜と呼ばれていた人物は、興味を失ったように無表情でその生徒を見ていた。
「いや、だって。………『ずっと好きでした。ピアノを一緒に弾いたあの時から、もっと貴方のことを知りたくなりました』って書いてるんだけどさ。僕はピアノ弾かないんだけど?」
「何それ。………じゃあ、陽日への手紙じゃなくて僕への手紙なわけ?そういえば、前にピアノ、一緒に弾いた子がいた気がするな」
「でも………。陽日くんだって、確かに言ってて………。僕が好きなのは」
どんどんと戸惑ったように顔色をなくして
震え声でなんとか言い返した
生徒の背を眺めていたら、座っていた宵(よい)が徐に立ちあがった。
「ていうか、仮にも好きだっていうなら陽日と僕との見分けくらいつくよね。間違えるっておかしいでしょ?………あー、それとも______________どっちでも良かったんじゃない?」
「ちがっ………!」
「陽夜、やめろよ。可哀想だよ。………………でも、きっと何か誤解があったんじゃないかな。でもそうか、どっちでも良い訳じゃないなら、違うなら」
告白を受けている小夜陽日は手紙で口元を隠すように持つと小夜陽夜と目配せするようにお互いを見つめあう。
「「違うなら。分かるでしょ?君がピアノを弾いたのが陽日なのか陽夜なのか。」」
青褪めた生徒は双子からの視線を受け
震え声で手前にいる陽日と名乗る方を指差す。
「こっちがピアノを弾いた………陽日く、」
「「はい。時間切れー。」」
指を指された方の陽日から奥にいた陽夜が手紙を取って目の前で引き裂く。
「残念でした。陽日が好きだっていうんなら目の前にいるのが陽日なのか陽夜(おれ)なのか見分けくらいつかないわけ。それと、あんた才能ないから下手くそなピアノ弾くのやめなよ。耳障りすぎて笑っちゃいそうだったよ」
「………え?」
「ちょっと、優しくしただけで好きになられても、ね。」
「でも、ずっと一緒にピアノ弾いてたのは陽日くんだって。」
「俺は一度たりとも名乗ってやしないけどね。あんたが勝手に陽日だと思ってたのは陽夜(おれ)だったってこと。残念だったね」
「陽夜。早く行こ。昼ごはん食べる時間なくなるよ」
泣き出してしまった生徒への同情やら哀れみの視線と
踵を返して学舎に戻るあの双子への畏怖の視線がこの中庭には混在していた。
『相変わらず、すっげぇ双子』
『アレを見分けるなんて無理に決まってるよな。似すぎなんだよ』
『てゆうか、ピアノやってるの陽夜くんなの?僕、陽日くんだと思ってたんだけど』
『え?陽夜くんでしょ?』
「わざわざ面倒ごとに関わるなんてとんだお人好しだな」
速水先輩が宵(よい)が泣き崩れてしまった生徒の方へと足を踏み出すのを見て言った。
「何でそう棘のあるこというかなー。涼花は」
「事実だろ。他の連中は関わろうともしていない」
荒谷と似ている部分があると思ってはいた。
どうあっても2人は惹きつけてしまうのだろう他人を。
困っている他人を放っておけない所だとか
何より真っ直ぐで純粋な瞳で屈託無く笑う所が似ていた。
「例え__________自分に良くないことが起きたとしても。それはきっと、真っ暗で何も見えない暗闇の中に知らないふりをして捨てていくのと同じことだと思うんです」
速水先輩の言葉に立ち止まって
宵(よい)は笑ってそれだけ言うと、泣き崩れてしまった生徒の方へと駆け寄り背を摩る。
「ちょっと待ってください」
宵(よい)は、去ろうとしている双子に声をかける。
その台詞に足を止めた双子が振り返った。
「とんでもないのが2人目だ。いや、3人目かな。」
門川先輩の嬉々として声とともに、俺はあの3人組を見つけた。
「「なぁに、転入生ちゃん?僕達に何か用事?」
」」
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