花は何時でも憂鬱で

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chapter8

破壊1

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「それにしても、今日も麗しかった。宵くん。」

「完璧だよな。」

「今日なんて、初めて見る問題を解いたとか。あ。そうそう………っ!今日、体育の50メートル走で運動部より速いタイム出したらしいよ!」

「でも、何で。宵くん………。親衛隊作らないんだろうね」


宵(よい)が転入してから1週間が経ち、それでも宵(よい)の噂で持ちきりだった。頭脳明晰、運動神経抜群、性格も分け隔てなく誰にでも優しい。一度、会長と放課後にいたことで親衛隊と衝突したと後から風の噂で聞いたが、それは学年主任に頼まれた会長が仕方なしにしたことだと宵(よい)が言ったことで、その衝突もほぼなかったに等しい。


寧ろ、会長との件が何もなくて残念だという声もあるくらいだ。そして、何よりも、皆、宵(よい)が親衛隊を作らないことを疑問に思っている。

「よ、宵(よい)くん。もういいよ…………っ。」

校舎の外から聞こえてきた声に反応して、近くの開いていた窓から下を覗くと、地べたに這いつくばった宵(よい)が何かを必死に探しているようだった。

「でも、大事なもの何でしょう?」

「もういいよ。こんなに探しても見つからないんだから。」 

「そっか。………分かった。力になれなくてごめんね」


宵(よい)が転入してきてからHR後の放課後は
人でごった返していたから、時間をずらして帰っていた。
今日も例に漏れず廊下が人混みで騒がしかったため
宵(よい)がまだ学園にいるとは思わなかった。


「_______羨ましい………。」


宵(よい)でも宵(よい)と一緒にいる生徒でもなく
目の前から聞こえてきた呟きの元は、窓一つを挟んで俺と同じように宵(よい)の方を窓から覗き見る小夜兄弟のどちらか。


小夜陽日なのか、小夜陽夜なのかは分からないけれど。


「可愛くて綺麗で、心優しくて皆んなから愛される。羨ましいよね?」

窓の桟に肘をついていた小夜のどちらかは
俺の方へと向き直りじっと俺を見つめると、自分自身に言い聞かせているのか俺に聞いてるのか分からない曖昧な言い方をする。

「さてと、陽日の所にもーどろっと。」

踵を返して小走りで去っていくのが小夜陽夜の方だったのかと思って窓の外に視線を戻せば中庭には誰もいなくなっていた。






「_______ぁ。あおいくん。こんな所で何してるの?」

「西方くんこそ、こんな所で何してるんですか。」

夜の門限まで後もう少しといった時間帯。
宵(よい)は顔や制服に泥をつけた状態で今、寮に戻ってきたような格好をしていた。

「………ぁ。かくれんぼ?」

「一人でですか?」

「うん。結構、楽しいんだよ。今度、一緒にやろうね?」

「時間があえば、少し考えます。」

「ねぇ、あおいくん。あおいくんは、気にしてる?」

エレベーターが来るのを隣で待っていると、宵(よい)が唐突にそう切り出してきた。

「何をですか。」

「僕が唯賀側で春田側(そっち)じゃないこと。気にしてるから、よそよそしいのかなーって思って。僕が話しかけるのは迷惑?だから_______宵じゃなくて西方くん?この学園の独自規則があるのに新入生だけじゃなくて、順応してるはずの在校生も戸惑ってる。」

「僕が、よそよそしいのは誰に対しても同じです。西方くんが、唯賀側だからとかそんな理由ではありません。」

「じゃあ、僕が。君に話しかけるのは迷惑じゃない?」

「僕はできるだけそういうどっち派だとかいう。争いには関わりたくないんです。」

「そっか。………じゃあ、壊しちゃおっか。そんなもの。どっち側なんてさ」

ここまで言えば、引いてくれると思っていたのに
予想外の返答に俺は宵(よい)を見つめると宵(よい)はとびきりの笑顔で見つめ返してきた。

「僕は、それを飛び越えてでも。君と友達になりたいな。あおいくん。」


オーロ世代の間に起こった“何か”はきっと深い。
現に、会長が俺を敵対視した理由はそれだと思う。


俺が楪だと知ってから、周りが俺を見る目が明らかに変わった。
ただの変哲も無い視線から、僅かな興味と同情が混ざったような視線に。


「まぁでも、嫌われたくはないから。まずは、宵って呼んでもらえるように頑張るね。」



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