花は何時でも憂鬱で

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chapter8

傾城9

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俺も自分の部屋へと戻り、純さんから送られてきた封筒を開けると中には『佐藤蒼』の健康調査票と楪についてと書かれた冊子。


健康調査票を軽く目で読み流して、楪の冊子をめくった瞬間________。


インターホンが鳴った。
一瞬、荒谷かとも思ったが矢井島の屋敷から戻ってきた様子は一切なく今日も学園にいなかった。


「誰だ?」

ドアを開けてみると王子様と呼ばれているらしい百樹が目の前にいた。

「こんばんわ。入っても?」

にこりと完璧なまでの笑みを浮かべる百樹は
了承を得る前に身体半分玄関の中へと入っていて
最初から聞く気なんかないようにドアを後ろ手で閉めた。


「単刀直入に言うね。保健室での事。忘れて欲しいんだ。」

「保健室というと何のことでしょう?」

「成と一緒にいたことを言わないでもらえるかな。もし、言わないでいてくれたらご褒美があるんだけどな。」


恋人がいるとは思えない百樹の言動に確かな違和感を覚えながらも頷いた。


「分かりました。」

「助かるよ。一緒にいたなんて噂がたてばこれから、遊べなくなるからさ。ご褒美に今度、一緒に遊んであげる。」


用件はそれだけだったようで百樹はすぐに
部屋を出ていった。


「ハリボテの王子様。」


百樹が白石先輩に見せていたあの表情を思い返しながら
鳴川さんが言っていた言葉を反芻してみる。




今日見ただけでも分かるほど
百樹という人はあべこべだった。
恋人の怪我に焦るような様子で白石先輩を保健室まで運んできた百樹と軽薄な様子で白石先輩を蔑ろにして傷つけるようなことをする百樹どちらが正しいのか分からない。




「嫌いだと言いにきた?何で_______わざわざ。」



わざわざ白石先輩を嫌いだと言いにきた百樹の言動。それが、ただの口止めでそのままの意味である可能性もないわけではないが。


恋人である人を貶めるような
そんなことを言うためだけにわざわざここまで言いに来る理由が分からない。


いや、でも恋人がいるのにプレイボーイであるらしいし
そのままの可能性もあるか。



「何にせよ。」

何か目的があるにしてもないにしても
俺の立場は“不干渉”であることには変わりはない。









桜崎先生から出された課題を半分ほど終わらせた息抜きに
寮の一階の広場まで来たのだが、そこにはいつもは置いていないホワイトボードに『アンケートのご協力お願いします』と貼り紙が貼ってあった。

「人気投票?」

名前の下に色のついたシールが貼られていたのだが、その数が圧倒的に多い2名の名前へと目を向けると、荒谷と宵(よい)の名前があった。

「おぉー。新しいアンケートのご協力者さんかなぁ。どうどう?誰にしとく?あ!でも王道がセオリーだもんね」

肘で脇を小突いてくる赤パーカー先輩を横目にしながら
色のついたシールを手渡されて
そういえば、そんなことを言ったと思っているとこの前、屋台の準備をした人達がわらわらと集まってくる。

「宵(よい)くん一択だよ!何せ、王道が好きなんだから!」

「いや、でもでも。荒谷くんとも仲がいいし。美形×平凡も捨てがたい!」

「いんや、平凡攻めっしょ!めくるめく禁断の世界に!」

「美音ちゃんとの絡みも捨てがたいよ!!」

後ろの先輩達が何とも形容しがたい背筋の凍るようなことをこそこそと話し合っているのを肌で感じてはいたが、このアンケートを早々に答えて解放してもらおうとシールを  貼り付けようとしたところ、グラサンをかけた派手派手しい格好をした人が現れた。

「やっぱ。………これは、傾城ちゃん一択だよね?」

俺が持っていたシールを奪い取って、宵(よい)の名前の下へと貼り付ける。

「あぁ~!何してくれてんだよぉっ!!今、すっごくいいところだったのに!!!次の本の参考にしようと思ってたのにぃ!!!!!」

「あ、ごめんちゃい?許してねっと。これでいいっしょ?」

本当に謝る気でもあるのかと思うほど言葉だけをさらって、赤パーカー先輩に謝る。

「傾城ちゃんだし?通信障害の事とかかるーく越えて、学園中の噂になっちゃうし。その通信障害の元は傾城ちゃんのせいなのになー。………ん?あぁ、内緒な?」

口の前でシィッと指を立てて妖しく笑って誤魔化そうとするけれど、赤パーカー先輩も同じようにこの人の意味深な言葉が聞こえたようだった。

「なになになに?!何か知ってるの!宵君のこと。あ!でも、言わなくていいよ。そこまで無粋じゃないしね。グ腐腐腐腐ッ!やっぱり、訳あり転校生設定もありかな。いや、でも!無自覚設定も捨てがたいっ!どっちも盛り込んじゃう?」


赤パーカー先輩が独り言をメモしだしたかと思うと、さっきまで後ろでコソコソと話し合っていた先輩達も一緒になって口々に何かを話し込み始めた。

「あーぁ。せっかく、萌える話でもしようと思ってたのになー。傾城ちゃんも目じゃないくらいかんわいい子が、いるかも知れないってゆうのになぁ………あ。聞きたい?」

「課題が残ってるので。遠慮しておきます」

「つまんなーいの。______________さぁてと、最後の一人、おーわり。戻りますか」





「おかしいわ、ないわね………。」

「あいっかわらず。………よく、物をなくすやつだな~。」

「うるさいわね。余計なお世話よ。」

職員室の自分の仕事机で探し物をしていた桜崎はその手を止めて声をかけてきた派手派手しい格好をした男へと返事をする。

「今度は何の探し物してんの。また、ピア……」

「プリントよ。プリント!生徒に頼まれた英語のプリントがないのよ。おっかしいわね」

「なーんだ、そんなことか。そんなこと、気にする必要ないない。」

「結構、分厚めのものだから。なくすはずないのに。まさか、誰かのプリントに混ざったのかしら。………まぁ、あんな難しいの読める筈がないから、明日までの提出組から出てくるかもだし?そうなった場合、私の飴ちゃんでもあげて誤魔化すしかないわね」

派手派手しい格好をした男の台詞を軽くスルーして桜崎が棒付きキャンディーを持ちながら、ぶつぶつと独り言をこぼす。

「また、泣きそうになりながら必死にピアス探してんのかと思ってたわ。」

「失礼ね。泣きそうな顔なんてしてないわよ。それに、いつの話をしてるのよ」

「いやいや、アレはどーみても泣きだす前の顔だからなぁ。本当、可哀想なやつ。」

「牡丹ちゃん。」

「あぁ、そーいえば、校長も。ついに、通信遮断に踏み切ったみたいだなぁ。これだけ介入しようとしてくれば、分からないこともないし、妥当な判断だろうけど。西方も天宮も介入しすぎたな。本来なら、全ての生徒の家に通達を終えてから通信遮断が行われるはずなのにな」

「私達には校長先生の考えなんてわかりはしないわ」

「どうだかねぇ。………どういうわけか今年の編入試験を難しくさせた天宮。それに、その事を知った西方からは健康診断を早めろって意味のわからない催促がきたし?」

「ちょっと!まだ、生徒が残ってるのに聞かれたらどうするのよ!」

桜崎がサングラスをかけた派手派手しい男の前まで来るとジッとサングラス越しの顔を睨みつける。


「傾城ちゃんさ。末恐ろしい子だね。あの編入試験を満点合格に加えて、親衛隊の要請もきたよ。おまけに、唯賀と仲良く放課後デートまで、いや~。参った参った」

「傾城ちゃん………って、宵くんのこと?」

「うんうん。そうそう。宵くんのことだよっ。あの子、可愛いよなぁ。手だしてもいっかなー?」

「いいんじゃない。懲戒免職になってもいいなら、どうぞご自由に。」

「いやいや、冗談冗談。そんな怒ることでもないじゃん?………それに、僕ちゃんのタイプは頑張り屋さんで健気でかつ色っぽい子がタイプなの知ってるっしょ?」

にんまりと笑う男に桜崎は真剣に取り合うことが馬鹿みたいに思えてきて、深いため息をついた。

「どうだか。いっつもその頑張り屋さんで健気な子にフラれてるくせに。何考えてるのか分かんないその軽い喋り方とかやめたら?嘘くさいし」

「あ。恋ちゃんも、嘘つきが好かれないって気づいてるんだ。」

「何が?」

「いんや、何でもないよっと。んじゃあね。」

派手な格好をした男は、桜崎の持っていた棒付きキャンディーをくすねて口に含む。

「あ、そうそう。………この飴ちゃん。お腹くだすから、あげない方がいいと思うよ~。病人が増える。」

「ちょっと!どうゆう意味よ!!」

「そういう意味だよ?…………お。あった、あった。必要な書類。んじゃあ、戸締りシクヨロー。」

桜崎の顰蹙(ひんしゅく)を買いながら職員室から出ていった男は不平そうな顔をする桜崎の顔を思い出して、薄ら笑いをする。

「あー。クソっ、まずい。この飴ちゃん」

ガリッと飴を一噛みで砕く。

「まずいってことにも気づかないほど、感覚馬鹿になってんのかよ。………そういや、あの時の餓鬼もそうか。この飴の餓鬼。」


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