花は何時でも憂鬱で

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chapter8

傾城4

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「お楽しみのところ悪かったな」

「何がですか」

「いや、ただ。………随分、親密そうだと思っただけさ。」

風紀委員長を運び終えて保健室から出ようとすれば
黒河先生に呼び止められた。


あの体勢でいたのだから、何か言われない方が可笑しいとは思っていたけれど、どんな言い訳をしても流されそうな気がしてならず


「絆創膏、剥がれかけてましたよ」


あえて、その話題に触れないでいると
絆創膏を差し出される。

「ん。」


黒河先生から絆創膏を受け取ると、死んだように眠ってる風紀委員長のベッドの横にあった椅子へと座る。


口元の剥がれかけの絆創膏を取って新しい絆創膏をそっと貼ろうとすると、風紀委員長の顔が歪んだ。



「喧嘩だとさ。誰とは言ってなかったが。」

「風紀委員長様でも、喧嘩なんてするんですね。」

今度は、極力、肌に触れないように注意しながらゆっくりと絆創膏を貼る。

「白鬼と喧嘩でもしたんじゃないのか」

「会長様の次は、風紀委員長様の相手をするんですか。忙しい方ですね。」

「白鬼は白髪に蒼い目の鬼らしい。あぁ、今は、黒髪か」

ベッドの淵に腰掛けた黒河先生がさも面白そうに顎に手を当てながら言う。

「へぇ、そうだったんですか。」

「いつまで、シラを切るつもりなんだ?」

「確かに、あの最初の白鬼が誰なのかは知っています。だけど、二度目のあれが誰なのかは見当もつきませんよ」

「まるで、最初の鬼(アレ)もお前じゃないような口ぶりだな」

「違いますよ。このご時世です。目も髪の色も簡単に変えられる。あれが、僕である証拠なんて最初からないですよね。」

「よくもまぁ、息をするように嘘をつけるな。………まぁいいさ。佐藤、俺は____________保険医だが、先生というものに変わりはない。だから、簡単に嘘を真実にもできる。………九重ひらり、唯賀の親衛隊隊長は諦めるつもりなんてない。それを踏まえて何かあるか?」

「それは、脅しと捉えられるんですが」

「これは提案だ。園芸部が何をしようとしてるのか。校長に呼び出された理由は何なのか。楪は何を企んでお前を送ったのか。あの鬼は、お前なのか違うのか______色々と聞きたいことは山ほどあるが。だが、全部聞かない代わりにお前のことを唯賀達にもらさない為にやってほしい事がある。」

「何ですか。」

「1番になれ、林間学校が終わるまでに________それが出来たならあのU.TFにも一泡吹かせてやれるだろうし」

「………U.TF?彼らが林間学校に関係あるんですか。」

思ってもみなかった情報に思わず聞き返す。

「詳しくは言えないが、そうだとだけ言っておく」

______U.TFが関係がある?林間学校に。校長でさえ、会ったことがないはずなのに。


「後、もう一つは。………そうだな____________。」

「2つもあるなんて聞いていません」

「聞かなかったお前が悪い。………俺が悪趣味な大人だってことは知っていた筈だが?_____とゆうか、1番になることへの異論はないのか。随分、自信があるんだな」

「当然、1番になれるとは思えませんが、勿論、やれることはやりますよ。それに、異論は最初から認めてはくれなそうだと思っただけなんですが。」

「ご名答………んじゃ、もう一つの発表__________もう一つは。」


黒河先生は風紀委員長に目を留めながら言った。


「この風紀委員長の抱き枕」

「………抱き、まくらっ?」

思ってもみなかった内容に思わず、引き攣ったような声が出た。

「そんなに嫌がるようなことか?………そういや、なんかの人気投票で唯賀と同率一位だったくらいだしな。そういう奴と関わり合いたくなさそうだしな。お前。______ま、まだお前の嫌いな会長じゃないだけいいだろう?」


風紀委員長か会長か比べるとなったら
比べるまでもなくあの会長と一緒にいたくはないが。
結局、どちらも受ける被害を鑑みた場合、変わらない気がする。


「嫌いではないですよ。ただ、お近づきにはなりたくないだけです。」

「それを嫌いって言うんだろ。にしても、お前も変わってるな、他の奴等は唯賀に近づきたくても近づけないっていうのに」

「近づいてバケツの水を被せられるような酷い目にあいたくはないだけです。それは、普通のことだと思いますが」

「あぁ、そりゃそうだわな。俺が同じ目にあってたら確実にぶん殴って………じゃなくて、それよりももっと、酷い目に合わせるけどな。穏便に」

わざとらしく言い直す黒河先生が座っていたベッドから立ち上がる。

「抱き枕ってのは冗談だが______。せめて夏が終わるまでこの風紀委員長の監視を頼む。______異論は認めない。それとも唯賀の補佐にでもつくか。最近、ちょうど人手が足りなかったんだが」

「………ちゃんと約束は守ってくださいよ」

「あぁ。______俺は約束は守るタイプなんだよ。あ、それと。E組で健康調査票出てないのお前だけだからさっさと出せよ。」

「わかりました。」


健康調査票?


荷解きした荷物の中にそんなものはなかった気がして
一度、部屋に帰って荷物を整理する必要があるかもしれない。

そんなことを考えていたら
もう授業が始まってからもう少しで半刻になってしまっていた。


桜崎先生に釘をさされたのもあるのと早く戻るに限ると思っていたら黒河先生が先生らしからぬ言動で手に持つ端末が壊れそうなほど握りしめていた。


「あの問題児ども………。殺す」

はっと我に返ったような表情をしてから
胡散臭い笑みを俺にむかって浮かべた。

「悪いが、ここで留守番を頼む。恋には俺から言っておく。あ、これお駄賃な」


黒河先生は、何かをこちらに放り投げると
さっさと保健室を出ていってしまった。



チョコ………?




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