花は何時でも憂鬱で

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chapter8

傾城1

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【深夜から未明にかけて、大雨が予想されます_________】




たまたまつけていた、報道番組。




愛着が湧いた訳でもない
固執している訳でもなかった。



ただ、何となく見てみたくなった。
あの桜を_________。
明日には、散ってしまうだろうから、と。



けれど、その桜の下には、おもいもよらない先客がいた。




「誰__________?」




_________息を呑む。





自然と魅き込まれてしまうような
夜の闇に溶け込んでしまいそうなほどの
黒く美しい光を煌めかせた瞳を持った誰かがこちらを見据える。


「もしかして、僕と同じでこの桜、見に来たの?」



瞳の奥を煌めかせて、嬉々とした表情を浮かべる誰かは
花のような笑みを浮かべた。


「いや、そういうわけじゃ。」

「そうなんだ。ちょっと、残念………。桜は好き?」

「普通………です」

「残念………………好きじゃないより、遠いよね………僕は、好きだから残念。」


視線をあげて桜を見るその人物は
拗ねたように頬を膨らませていたが、直ぐに俺に向き直って言った。


「………僕_________宵って言うんだ。君は?」

「蒼と、言います。」

「______あお?………綺麗な名前だね!」

「………ありがとうございます。」

「あーぁ。この桜、満開の時に見たかったなぁ。」

宵(よい)と名乗った彼は、ひらひらと舞い落ちる花びらを必死になって取ろうと木の周りを花びらと同じようにくるりくるりと舞っていた。


「取れない……っ。」

花びらが捕まってくれず
木の前で頭を抱えるようにしゃがみこんだ宵(よい)は
膝小僧の上に顔を乗せて唸っていると
突然、立ち上がって靴と靴下を脱ぎ捨ててズボンを膝丈までまくった。

「これで、さっきより動けるよね。」


無邪気に笑った宵(よい)を見つめながら俺は、鮮烈に焼けつくような感情を感じていた。


「………い_________。」


無意識に溢れた吐露に自分自身が驚いて
掌でその言葉を覆い隠す。


幸いにも宵(よい)には聞こえてなかったようだったけれどその感情は燻り続ける。



彼は、綺麗だ。目を離せないほどの美しさを持っている。




なのに、それを上回るほどの別の感情に覆い尽くされそうになる。


「つかまえた。」


宵(よい)が手のひらの中に閉じ込めた花びらを手にとって、満足げに笑むと空に翳して放った。


「綺麗だよね。」

ひらひらと舞い落ちる花びらを目で追いながら宵(よい)が呟くように言った。

「いいんですか?せっかく捕まえたのに」

「だって、僕が持っちゃったら綺麗じゃなくなっちゃうでしょ?自由だから綺麗なのに。偽物を閉じ込めても本物じゃないから。」


今日は差し込まないと思っていた真っ白な月明かりが
宵(よい)の漆黒の髪を煌めかせる。


「ねぇ、何でこの学園にいるの?あおいくんは」

「あおいじゃなくて、あおです」

「へへ、あおよりあおいの方が可愛いかなーと思って。ねぇ、あおいって呼んでもいい?」

「どっちでも」

「やったぁ。嬉しいな」

魅入ってしまうような蕩けるような笑い方をしたかと思うと瞳をそらすことなく見つめ続けられて、質問の答えを催促されているのだと気づく。

「ただ、ここに入るものだと聞いていたので何でと言われても困ります。」

「そっか。あおいくんは、自分の意思で入ったのかと思ってたから。………そういう人が多いのかな?」

独り言とも質問ともとれる言い方をする宵(よい)の言葉に何かを返すことはせずにいると


「僕ね………探してる人がいるんだ」


唐突に、宵(よい)がそう言った。


「届かなくて、叶わなくて……………………そんな人。」

さっきまで飛び回っていた明るく活発な天真爛漫そのものだった印象は露ほど見受けられず
陶器のように真っ白な肌が困ったような笑みがその儚さをより際立たせる。


「この学園にいるはずのその人を見つけたいんだ。」




乾いた風に頬を撫でられ、静寂な夜の闇のような目の前の、彼の清廉した美しさを目の当たりにし、わけのわからない寂しさに呑み込まれていた。







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