花は何時でも憂鬱で

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chapter7

another story〜夢物語〜

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「………ん」


ゆっくりと目蓋を開けば
何年も夢見た光景があった。


何年も何年も、願い続けた夢。


隣に、一番大切な人がいる。何よりも大好きな人。


「_____……、っ。る」

ただ、隣にいることがこんなにも嬉しい。
ただ、手の届く貴方がこんなにも愛しい。


「ね、起きて。…………はる」

そして、前みたいに
頭を撫でて優しく笑って。

これが幻想なのかそれとも現実なのか
確かな確証が欲しくて隣で眠る春に手を伸ばす。

「………眠れない?」

「___________っ。」

伸ばした手を
優しく柔らかく包み込まれるその温もりに安堵して
じわりと目頭が熱くなる。

「春_____。もう、どこにもいかないで」

覆いかぶさるように
おもいっきり抱きしめると、困ったように笑った。

「もう、こんなに大きくなったのに、甘えたくなった?」

それでも、力を弱めない私を嗜めるように
ぽんぽんと頭を撫でながら優しく呟いた、


「どこにもいかないよ、どこにも」

「ほんと………?」

「ほんと。………これからは隣にいるよ。約束だ。大切な妹を置いていったりしない」

「春、大好き」

「俺も、大好きだよ。あやめ」

目蓋がどんどんと熱を持ち、瞳に薄い膜が張っていくのが分かる。
瞬きをすれば雫がこぼれ落ちてしまうことなんて分かっていた。

「大好き」


_____これが、夢でも構わない。貴方の言葉が笑顔が偽物でも構わない。


こんな夢物語のようなものを見られただけで幸せだ。


貴方が私を面倒だと思っていても、嫌っていても
私は__________。


「大好き」

だから、この夢は醒めないで。
久しぶりに見た甘い春の夢を消さないで。


この温もりを感じていたい。
夢から醒めた冷たい現実を知りたくないから。


『病気持ちの妹なんて_____面倒だったんだ。なのに、何でここにいるの。』

冷たく凍えてしまう現実を思い出したくないから。



ねぇ、春_____。
お願い、嘘だって言って抱きしめてよ。


「………大好きなの」


大好きなのに、苦しくて窒息してしまいそうな
私を助けて。


暖かな感触が消えてしまった次の瞬間
眩しい朝日の光に照らされた気がして
一瞬、閉じた瞼を再び開く。


久しぶりに見る光景の中で、私と春と蜂蜜色の彼は
笑いあっている。
朝日だと思ったのは、彼の蜂蜜色の髪だった。


「シン________。」


この日々に戻りたい。


耐えきれなかった雫が重力に従って
ポロリと落ちていく。


幸せな夢が溶けて消えていく心地がした。


「ドロボーのネコさんが再び参上したよ。」

「約束する。君を春と迎えにくるよ」

「約束だ。金平糖を持ってさ。」



この夢は
どうして溶けてくれないの。



「だから、笑って。」


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