135 / 178
chapter7
another story 〜彼岸花〜
しおりを挟む???side
あの日
悲しみの中、絶望の中
最期に手向けた花は彼岸花だった________。
よりにもよって、この不吉な花を
よりにもよって彼女が好きだった花だった。
あの時の感情も情景も何一つ覚えてはいない
ただ、あの血のように真っ赤な紅いろを鮮明に覚えていた。
ぽっかりと空いてしまった穴は、一向に塞がる気配はなくあれから10年以上が経った今でも、花を手向け続けている。
「なぁ________宗心。死んだ人間が生き返ったならお前はどうする?」
夜に溶けこんだ闇の中にぽっかりと淡く優しく浮かぶ月のように女のように嫋やかな男が背中越しにこちらを見つめているのに気付きながら問いかける。
「_____わかれへんよ。そないなこと」
「そうだよ。そうなんだよ。私は、分からない。天宮要が囲ってるものだと思っていたんだ。愛情という鎖で繋いでいるものだと思っていた。………私の一縷の望みだったのさ忘れ形見が生きていることは。」
私の独り言を聞き流している宗心に薄く笑いながら
徳利からお猪口に酒をついで煽る。
「アイツが生きているかと思ったんだ。でも、違う。アレは、違う_____。何せ、私が見たものは_____。信じがたいものだからな」
「飲み過ぎどすよ。美鈴はん_____。」
「でも、あんなに似てる。生き写しだ」
目蓋が重い_____。
身体の力が抜けていく。
眠い、疲れた。
宗心は信用しないだろう。
馬鹿らしい話だから。
彼と瓜二つの少女がいたことなど誰も信じないだろう。そして、その面影の中には彼女がいた気がすることなど、誰も_____。
「馬鹿げた夢だ_____。なぁ、春田。アンタは子供も妻も守れなかった馬鹿な男のはずだろうが。」
ゆらゆらと舟をこぎながら心地よい振動の中で
部屋まで宗心におぶられる中、意識は段々と微睡みの中にゆっくりゆっくり落ちていったのだ。
だから_____。
「………っ、。」
その歯痒さを滲ませる呟きが耳に届くことはなかった。
「死んだ人間は、戻れないんだ。戻ってこれない。だから_____忘れ形見なんていない方が、それでいい。それがいい。」
彼の瞳の中にもまた、あの少女が映し出されていたことなど誰も知らない。
「帰ったらお説教やね。勝手についてくるとは思わんかった」
0
お気に入りに追加
99
あなたにおすすめの小説


そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。


僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載

息の仕方を教えてよ。
15
BL
コポコポ、コポコポ。
海の中から空を見上げる。
ああ、やっと終わるんだと思っていた。
人間は酸素がないと生きていけないのに、どうしてか僕はこの海の中にいる方が苦しくない。
そうか、もしかしたら僕は人魚だったのかもしれない。
いや、人魚なんて大それたものではなくただの魚?
そんなことを沈みながら考えていた。
そしてそのまま目を閉じる。
次に目が覚めた時、そこはふわふわのベッドの上だった。
話自体は書き終えています。
12日まで一日一話短いですが更新されます。
ぎゅっと詰め込んでしまったので駆け足です。


巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる