花は何時でも憂鬱で

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chapter7

another story 〜彼岸花〜

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あの日
悲しみの中、絶望の中
最期に手向けた花は彼岸花だった________。


よりにもよって、この不吉な花を
よりにもよって彼女が好きだった花だった。


あの時の感情も情景も何一つ覚えてはいない
ただ、あの血のように真っ赤な紅いろを鮮明に覚えていた。



ぽっかりと空いてしまった穴は、一向に塞がる気配はなくあれから10年以上が経った今でも、花を手向け続けている。


「なぁ________宗心。死んだ人間が生き返ったならお前はどうする?」

夜に溶けこんだ闇の中にぽっかりと淡く優しく浮かぶ月のように女のように嫋やかな男が背中越しにこちらを見つめているのに気付きながら問いかける。


「_____わかれへんよ。そないなこと」

「そうだよ。そうなんだよ。私は、分からない。天宮要が囲ってるものだと思っていたんだ。愛情という鎖で繋いでいるものだと思っていた。………私の一縷の望みだったのさ忘れ形見が生きていることは。」

私の独り言を聞き流している宗心に薄く笑いながら
徳利からお猪口に酒をついで煽る。

「アイツが生きているかと思ったんだ。でも、違う。アレは、違う_____。何せ、私が見たものは_____。信じがたいものだからな」

「飲み過ぎどすよ。美鈴はん_____。」

「でも、あんなに似てる。生き写しだ」

目蓋が重い_____。
身体の力が抜けていく。


眠い、疲れた。
宗心は信用しないだろう。
馬鹿らしい話だから。


彼と瓜二つの少女がいたことなど誰も信じないだろう。そして、その面影の中には彼女がいた気がすることなど、誰も_____。


「馬鹿げた夢だ_____。なぁ、春田。アンタは子供も妻も守れなかった馬鹿な男のはずだろうが。」

ゆらゆらと舟をこぎながら心地よい振動の中で
部屋まで宗心におぶられる中、意識は段々と微睡みの中にゆっくりゆっくり落ちていったのだ。


だから_____。


「………っ、。」

その歯痒さを滲ませる呟きが耳に届くことはなかった。


「死んだ人間は、戻れないんだ。戻ってこれない。だから_____忘れ形見なんていない方が、それでいい。それがいい。」

彼の瞳の中にもまた、あの少女が映し出されていたことなど誰も知らない。

「帰ったらお説教やね。勝手についてくるとは思わんかった」


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