花は何時でも憂鬱で

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chapter7

花火3

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大人数でのじゃんけんだったのにもかかわらず
一度で勝敗は決した。


「へへ、勝ったぁ」

「よしっ!!枕投げしにいくかっー」

矢井島と荒谷の勝者が喜ぶ傍ら
俺は、自分の握りしめた拳をほどいて、嘆息した。


「まあ、そんな遠くはないはずだから。さっさと行って戻ってこい」

まるで、慰められるように速水先輩から肩を軽くポンと叩かれる。

「いってらっさーい。俺も枕投げしながら待ってるからね!」

「智、お前もだろ?」

速水先輩は門川先輩に疑問の声をあげると、言われた門川先輩は小首を傾げた。

「俺?違うから!!勝ったし!!」

門川先輩が手の平をパーに広げながら大声で抗議すると
全員が、首を傾げて周りを見回しだした。

「お、俺もパーだしたから。違うよ?ほんとに」

一色も全員からの視線を受ける前に慌てたように
告げると、全員がより一層首を傾げた。

「でも、7人全員、出したと思いますよ?僕に新くん、蒼くん、さとちゃん先輩、涼先輩に……書記様の6人で……」

「え、何々。1人、多くっ……。涼花っ~~!お、お兄さんそういうのは駄目だからっ!!」

「落ち着け、バカ」

「_____俺だ。」

じゃんけんをしていた輪の外から聞こえた声に
全員が視線を送ると、会長が花火の入ったバケツを持っていた。


「問題でもあるのか」

誰かに明確に放った言葉ではないが
恐らく、俺へと向けた言葉なのだろうと思って
自分が持っていた線香花火を近くにあったバケツへといれると、そのバケツを持ちあげる。

「矢井島。塀の外のゴミ箱でいいんだっけ?」

「うん。……塀を出て右に行ったらゴミ箱があるから」

矢井島へと、視線を投げかけながら聞くと
コクリと頷いた。

「その、バケツ。俺が____持つんで、ちょうだい。アンタ、おーさまなんだろ。おーさまは、やる必要ないじゃんか」

会長がじゃんけんに参戦した理由は分からなかったが
さっさと済ませようと思っていた矢先に
何を思ったのか、荒谷が会長に食ってかかった。


「………荒谷、新だったか。」

「俺のこと覚えてるんだな」

「まぁな。生意気なのは覚えているつもりだ。……まぁ、お前の場合は少しだけ違ってくるが」

「おーさまは、何もしなくていい。そうだろ?だから、俺がいく」

会長のバケツの取っ手を取ろうとする荒谷に
会長は眉を寄せて、バケツを持つ手を軽くひく。

「誰から聞いた。本来なら、その生徒は減点ものだ。……でも、そうだな面白いこと教えてやる_____。Bijoux soleil du matinそれとも他の呼び名が、」

「何のことですかね。俺には、さっぱりわかりませんよ。おーさま。」

「その呼び名に戻りたくないだろ。」

会長が荒谷に何かを耳打ちすると荒谷の様子がおかしいのは感じていたが、会長からの一瞥によって
その後の荒谷の様子を知ることはできなかった。





会長の後ろを一定の距離を保ちながら歩いていると
紫色の花びらがひらりと舞い落ちてくるのに
視線をあげる。


会長も、その不気味な光景に気づいて
空を見あげている。


「………楪。このロベリアは、烏からお前への手向けの花だ。だが、その意味はいいものなんかじゃない。」



この前、現れた異様な『烏』が気になって調べてみて
分かったことがある。
千年以上続く月城家____通称、烏____は、この長い歴史の中で


どの時代でも
どんなに優れた為政者にも仕える事はなかったとされている。


だが、金を積まれれば誰の依頼であったとしても承諾するというやり方からか、月城家はこう揶揄されている


【ロベリアの烏】______と。


きっと、烏が狙いを定めた獲物への手向けとして
このロベリアの花を降らせる事も加味しているのだろうけれど。


この悪意の花を。



「月城家が淘汰されてこなかった理由はあの家の人間は特別なモノを持ってるからだ」

「何でそんなことを僕に仰るんですか________。」


嫌いな人間に好き好んで近づこうなんて思わない
なのに、故意的に接触を図ってくる会長の行動の意図が分からなくて尋ねたが
会長は俺をジッと見つめる。

「………黒河がいうには、俺のしてることは一貫性がないらしいからな。感情で動いて莫迦な事をしたそのけじめだ。『烏』の事を教えるのも、わざわざこの状況を作ったのもそのためだ。これ以上、不利益なことはしない」

会長が独り言のように呟きながら
徐に会長が距離を詰めて、髪を梳くように触れられるのに懐疑的な視線を会長へと向ける。

「_____花びらだ」

会長が指先に持つ紫色の花びらを宙に放す。



会長が色のない瞳を一瞬、瞑目させると
鼻から抜けるように息をもらした。


「たかだか、園芸部くらいで振り回されて。いっそ無関心でいた方が楽そうなのに。面倒くさい_____。これ以上、振り回され続けるのはごめんだからな。」

会長が心の内から滲みでた感情を吐露するように呟いたが
不意に、視線を外して俺の後ろへと視線を向けるのが気になって、同じ方向に視線だけを滑らせた先には
2つの影があった。

「いやだ……っ!」

切羽詰まったような第三者の声に
俺は耳を澄ました。


「僕のことを、嫌いなんでしょ」

いつでも小悪魔的に微笑んだりと、表情をくるくると変えていく姿しか見なかったせいか腕を掴まれている矢井島の能面のように無表情な横顔は俺にほんの僅かだけれど、衝撃を与えた。

「何やってるんだ、アイツは_____。」

会長が、呟いて矢井島達の方へと足を進めようとするのを
無意識のうちに腕を掴んで引き止める。
その行動が思いもよらなかったのだろう、会長の視線を感じながら呟くように言った。

「少しだけ______…………待ってください」

一色蓮治と矢井島が、昔、何かあった事はなんとなく分かる。ただ、それを払拭できるとしたらこの瞬間しかない気がした。



一色がまるで、ストーカーのような行動をとってまで
矢井島のことを知ろうとしているのは、多分、矢井島、本人に会う気が全くないからだろう。


この一色と矢井島があの学園で会うのは
親衛隊がいるなかでの強引な方法を除けば
難しいだろう。


「………………それは_____。」

「僕がバケツを塀の外に持っていってって言ったことを書記様のためだと思ってるなら勘違いですよ。父さんが蒼くんと新くん、それに先輩たちに迷惑をかけたら困るから言っただけで_____。絶対に、貴方のためなんかじゃありません。」

一色は、きゅっと唇を閉じると矢井島と目線を合わせるようにしてしゃがみこむ。

「美音_____。ごめん、俺が全部悪いから。そんな言葉で喋らないでよ」

「_____何も悪くないですよ。書記様は。ただ、僕がバカな勘違いをしてただけで。あなたは、悪くないです。_____そんなことよりも、僕は僕の顔色を伺う貴方を軽蔑します。」

無表情を貼り付けていた矢井島の仮面が取れかかっているのを言葉の端に感じた。

「貴方は、何がしたいんですか。僕はもう忘れました。」




崩れる________。



ただ、そう思ったら。俺は、自分が会長を止めたにも関わらず矢井島のそばに寄って、腕を引っ張って一色からは見えないように矢井島を隠した。


「お話中に申し訳ありません。でも、すいません。美音は、貰っていきます」


一色は一色で矢井島の言葉にショックを受けていたのか
一点を見つめたまま、放心していた。









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