花は何時でも憂鬱で

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chapter7

若様2

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矢井島に
何処かの大広間に連れて来られて
各々が荷物を降ろす中、半ば強制的に連れて来られた
俺は、纏める荷物もなく何となく縁側へと足を向けた。



綺麗に刈り込まれ整えられた犬槙や新緑の季節を迎えて
黄緑色のイロハモミジが生い茂り
手入れの行き届いている庭は、天宮で見てきた
色鮮やかな庭とは全く別物に見えた。



柔らかな風を身に受けながら
何かが遠くで反射するのに目を細めるが
それがなんなのかは、分からなかった。
縁側の側にあった外履きのサンダルに足を引っ掛けると
その反射する何かに向かって、足を進めた。



「門……?」

和を基調とした、この屋敷には到底不似合いな洋風の黒い門が何重にも南京錠がかけられ、蔦や葉が絡みつきながらもそこにあった。


反射していたのは、あの南京錠なのか……。


あまりにも不自然なその門に寄りたいが
人工的に造られた池があるものの
橋は見当たらない。



唯一、その池を渡れる方法といえば
片足を乗せられるか乗せられないかくらいの石版が並び立っていて渡れるかもしれないが、意外に膝上くらいまでありそうな池を一か八かで渡る気力はない。



時折、風を受けて流れる池が
カランコロンと何かの音に紛れて波紋を作り出した。


視線をあげて門の方へと視線を向けると
真紅の和服に、真っ黒な羽織を肩に掛けながら
身軽げにあの石の上を歩く人影が見えた。




「……石田ァァッ!!!」


10メートル以上は、あるというのに耳元で叫ばれているかの如くビリビリと空気を震わせる叫び声は
あの池の上の人物から発せられた。


すっ飛んできた石田という人物は、あの石の上を歩くが、直ぐに池に落っこちてザブザブと池の中を歩いてなんとか
辿り着くも、どつかれていた。


よく分からないが、門に近寄れる雰囲気でもないので
踵を返そうとした瞬間、あの真紅色の和服を着た人物がこちらを真っ直ぐに指差してニヤリと笑った。









真紅ので和服姿の人に連れて来られた場所は、こじんまりとした和屋で高そうな掛け軸やアンティークの刀が飾られていたが、その他には、簡易な文机くらいしか置いていなかった。


「まぁ、座れや」

言われるがまま、文机の前に敷かれた座布団に座って
真紅の和服を着た人も文机を挟んだ奥の座布団に腰を下ろす。


「………あの、ここは…….?」

「鬼嫁から逃げる、休憩所だ。」

「鬼嫁……ですか。」

「お淑やかな女が好みだが……。美人に変わりはないからな」

文机の横に置いてあった、脇息を脇に寄せて
もたれ掛かりながら吟味するように眺められて居心地の悪さを感じていると、真紅の和服を着た人は、懐から煙草を取り出すと紫煙を吐き出した。

「植物に煙草は害ですよ。」

「植物なんてないだろう」

「そこにありますよ」

「ロベリア、か」

ほんの少しだけ開いている障子窓から垣間見える、紫色のドーム状の小さな花々に視線を向けると
俺と同じように視線を這わせる真紅の和服の人は面倒そうに髪を掻いた。


「煙は、嫌いか?学生」

「……まぁ、嫌いですよ。いつも具合が悪くなって苦しそうだったので」

「ぁ?お前なんかの持病か……?」

「自分の話ではないです。ところで、僕に何の用事があるんでしょうか。それに、貴方は……?」

「ワシか……?ここの主人。……矢井島、空華だ。鼠が入り込んだと思ったが……。そういや、ワシが招いた鼠だったな。」

「鼠って。」

「お前の、名前はなんだ。」

「佐藤、蒼です。」

あからさまに俺の言葉を軽く受け流して
発せられた矢井島の父親の言葉に納得はいかないものの
答える。


「………お前が、ねぇ。」



「「「               はじめの一歩!!!!!                」」」



矢井島の父親の言葉を遮るように
地響きが轟くようなバタバタという音と
男たちの厳つい声が響き渡った。


一瞬、俺も矢井島の父親も何事かと微動だにできなかったが矢井島の父親が障子窓をスパンッと開け放って
何を見たのかプルプルと拳を握りながら
また、あの凄まじい大声で石田という人を呼んだ。



が、石田という人物が一向にやって来ないのに業を煮やしたのか障子窓に足をかけて身を乗り出し
思い出したかのように俺へと振り返った。



「宗心さんには、言われたが。どうにも気になるんでな。2年前の冬に何が……いや、やめとくか。いつ何処で見られてるかなんて、わからないからな。」


白髪の髪を靡かせて
薄いフレームの眼鏡越しに勝気そうな緋色の瞳を覗かせながら、矢井島の父親は飛び出していった。






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