花は何時でも憂鬱で

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chapter7

影6

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「_____。」


会長が告げる内容は、どうしたって聞けるはずもなかったがその口の動きで何とか読み取ろうと、会長から目を逸らさないように見つめる。


「___………なんども言わせるな。どうして、ここにいる。」

「………ただ、立ち寄っただけです。」

「一部の部活動しか行われていない。こんな旧校舎にか……。」

「ここに来た、目的は旧校舎じゃあないと言えば満足して頂けますか」

あの大きな桜の木へと、正確にはあの桜の木の側にある墓へと顔を向け、
会長も俺と同じように視線を這わせると
色を宿さない真っ黒な瞳の中に冷えた焔が宿った気がした。

「……俺を、挑発してるのか」

あの蛇のような瞳をした人の言葉から
新歓パーティーの時に聞こえてきた内容からなんとなくそうだろうとは思っていたけれど、この唯賀駿という人物は心底【春田叶多】を嫌っているのだろう。

「父に頼まれて、来ただけです。他意はありません」

「お前の父親は、まだ、そんな悠長な事を言っているのか。お前の父親の名前を変えなくちゃいけなくなった元凶は、春田だろうに」

「……それが何ですか。僕には、関係がありませんので」


純さんの事情は、分からないが
あまり、これ以上この話を続けるべきではないだろう。

「お前、ここに来た本当の目的___。校舎の中じゃあないのか」

ここまで食い下がる理由は、何なんだ。


「お伝えしている通り、旧校舎が目的ではありません」

「花でも、手向けに来たのか」

嘲笑するような笑みをたたえながら
無意識にだろう掴まれる手首に力がはいってきりきりとした痛みに顔を歪ませる。

「だとして、何か問題ですか」

「あぁ___。名前を聞くだけで、おかしくなりそうだ。花なんか手向けるなんて聞けば尚更な」


怒りは、思考を単調にさせる。
だから、適度に扱えば、いい薬になる。


けれど、扱い方を間違えて仕舞えば過度の劇薬に変わってしまう。


春田を引き合いに出したのは、失敗だったのかもしれない。


「……知らなかったのか。この噂は、学園にいる連中なら誰もが知ってる筈だが?『会長の前では、春田の話はするな』ってな」

「お伝えしましたが___。僕は、頼まれてきただけです。それに、貴方の邪魔はしていないつもりです。だから__手を離して頂けますか」

「嫌だと言ったらどうする。」

「どういう意味ですか。」

「俺の質問に答えれば離してやる。『烏』から助けてやった礼にな。」

「何を言ってるん、」

「お前は、何らかの手段を使って白鬼と別人だと証明した。証拠もないからな、もうこの件で追求する気は無かった。……だが、これだけは聞いておく。……園芸部にお前は関係している。違うか」

「……僕は、彼とは関係ありません。」

「あぁ、そうかもしれない。お前が、白鬼なら態々楪だという理由はないしな。それだけが、腑に落ちない。……だが、お前が何らかの関係があるのは確かだろう。違うか?」


骨が軋む音が聞こえそうなほどに、手首を更に強く掴まれるがあの烏の男が何かをしたのか、妙な脱力感で指先1つも動かせそうにない。


反応を示さないのに焦れたのか
ネクタイを掴まれると、苛立ちげに校舎の壁へと押しつけられる。


「……ケホッ」

「お前と話しているのも、苦痛でしかない。……何か知っているんだろう。昨日の今日で、園芸部が出来るなんてあまりにも、出来すぎている」


会長のネクタイを掴む手が
気道を塞いでいて外させようとするが力の入らない指先は手を上から添えるだけの形になってしまう。


「答えろ」


会長の手が離されて、会長の真っ黒な瞳を見つめながら
息を整えていると首筋に指先を滑らすと形のいい眉を潜めて告げられた。


「……この痕。親も親なら_____。」


ボソリと告げられた言葉は、上手く読み取ることが出来なかった。



「答えないなら、肯定とみなす。お前は、園芸部について何か知ってるんだな」

「_____。」

会長の後ろから伸びた手に、一瞬、瞬目したが
緊張感が一気に解けていく雰囲気を感じ取った。


紫煙を吐き出しながら、黒河先生と会長は何かを話すが
速すぎて、ほとんど読み取ることができなかった。



けれど、1つわかったのは。


【会長と校長が話をした例の件が、早まりそうだ】

という内容だった。

 



会長が去っていくのを確認すると、黒河先生は
こちらへ歩み寄ると首元の何箇所かにペタペタと手の甲をあてた。


「熱はないな。……視界も良好。特に問題はなさそうだな」

「具合が悪そうにみえましたか」

「いーや?ただ、『烏』くんに触られたら必ずといって体調の不調を訴える生徒が多いからな。確認のためだ」

「何で知ってるんですか」

「今日は、烏が騒がしかったし、何よりこの羽の数を見ればな」

「………なるほど。______それで、もういいですか」

「待てよ。楪だって、何で言った。佐藤のままの方が安全だろうに」

黒河先生は懐から煙草を取り出すと、紫煙を燻らせながら尋ねてきた。

「……それは、僕が言ったわけじゃないです。それに、何が危険なんですか。」

「分からないふりをしているのか。知らない筈ないだろ」

「父は、そういう事は教えてくれなかったので」

「天宮・楪は、唯一残った、春田の味方。そして、楪純は潰された。馬鹿みたいな噂のせいで。……今でこそ、マシになったが。楪純は、こう言われてた。『春田に、身も心も売った男娼』『陰間』意味が分からないか?」

「……あからさまですね」

人生を狂わされた
あの言葉の意味はここにあったのかもしれない。

「人は、馬鹿みたいな噂一つで踊らされるもんだ。そっちの方が面白いだろうからな。それが、嘘でも。つうか、佐藤蒼、お前。生徒会に次から次へと絡まれて大変だな」

真剣な表情から一転、鼻から抜けるように嘲笑すると
ククッと愉しげな声をもらした。


「接点を持たされたのは、貴方のせいですよ。」

「俺は、愉しくて堪らないけどな。唯賀の澄まし顔にはあきあきしてたしな。」

「やっぱり、悪趣味ですね。」

「漸く、気づいたのか?」

____prrrr

携帯の着信音とともに、黒河先生が携帯を取り出して
操作をすると顔を覆った。


「あの、双子またやったか。……んじゃ。用ができたからお別れだ。体調が悪くなったら俺か、桐島先生のとこに行け」

携帯灰皿に煙草を押しつけると、誰かに電話をかけながら何処かへ向かっていった。





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