花は何時でも憂鬱で

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chapter7

影5

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ざわめく様に揺れた新緑の葉も
舞い上がった木の枝も落ち葉も花びらも重力によって
けれど、時間が止まったのではないかと思うほどに
ゆっくりとゆっくりと落ちていった。




沈み始めた眩しいくらいの真っ赤な夕陽と舞い落ちていく真っ黒な羽だけが目の前のその存在を映し出した。




グレーの厚手の上着を着こんで目深くフードを被り、鋭い嘴を持つ烏の仮面を被ったその男を。





「……烏に、啄まれても貪られても………。文句はいうなよ。………獲物……。」


独り言の様に何かを話すと
その男は一寸の迷いもなく距離を詰めて
俺の指先をきゅっと握った。


「……雨が降ってる」

その男の脈絡のない言葉に耳を傾けて訝しむような視線を向けた時だった、世界が屈折するようにぐにゃりと視界が歪みだして耳をつんざくような耳鳴りが響いた。


「………それから………血?」

鈍器で頭を殴られたような頭痛に襲われ
指先同士が触れていないもう片手で頭を押さえながら
立っていられず足元から崩れ落ちた。


「……………涙、」


(これは…………何なんだ………っ)




指先が離れて、症状が和らいだのも束の間、腕の関節を持たれて左胸に手を置かれてから刹那
心臓の音が激しく鼓動を鳴らし
意識が黒く染まりかけた寸刻に
後ろから伸びた腕に抱き上げられて、視線だけをあの真っ黒な人へと向けると



【しんこきゅう】と、音のない言葉で伝えられる。




「……は、」



回らない頭で
ゆっくりと伝えられる言葉をそのまま鵜呑みにして
会長へと体重を預けながら、深呼吸を繰り返す。


「これ以上、面倒ごとを起こすな」

「……邪魔は許さない。」

「ソレを使うなら、制御をしろ。明らかに…」

「わざと……、だよ。化け物にはこれくらいじゃないと。じゃないと、痛くない……からね」

「化け物……?」

「………計画を狂わせた。………………唯賀、触っているソレ………頂戴」



頭上で会話が交わされるが
未だに耳鳴りだけが響いてよく聞き取れない。



「……随分な物言いだな。誰にも与しない誰にも依存しない、それがお前のとこのやり方だろ」

「………邪魔者は排除する。唯賀、ソレ、頂戴?それに、随分………優しい」

「………お前のソレで、何人被害者が出てると思ってるんだ。俺は、今、虫の居所が悪いんだ、無駄口を叩くな」

「……そ。じゃあ、やめる。……話し合いは、無駄」



あの男がフードを外そうと手をかけて瞬刻
会長の腕が強張ったのを肌で感じとっていたが
目の前の烏の仮面の男は
何かに気を取られたように手を止めると
また、強い風が吹き込んで烏の群れの咆哮と共に
その仮面の男は、跡形もなく消え去った。




奇妙な緊張感から解き放たれて
真っ黒な瞳と視線が交錯して
思いっきり寄りかかっていたのを思い出し、一歩距離を取った。



「_____。」


軽く一礼して、『失礼します』と告げて
さっさと去るつもりだったのに、不意に訪れたとてつもない違和感に頭を下げたまま、喉元を押さえる。



声が出ない……?



ゆっくりと顔を上げると、何かを探るような視線が向けられていて会長の口元が動くがその音どころか、息遣い1つ聞こえなかった。



耳が聞こえていないのだと察した瞬間
目の前の視線から逃れるように、踵を返して足早にその場を去ろうとするが、腕を掴まれ振り返るとその双眸から僅かにチリチリと散る陰鬱な感情が見えた気がした。





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