花は何時でも憂鬱で

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chapter6

白鬼2

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「お前は、あの時の新入生だな?」

髪を乱雑に引っ張りあげられて痛みに耐えた声で答えた。

「……違う。貴方の、探している人じゃ……ないッ。」


向けていた視線を逸らすことなく告げた瞬間。
目の前の会長の空気が変わった気がした。


「………黒。」

髪と腕輪から手を離されたかと思うと
頰を包まれて顔を持ちあげられる。

「………はっ。瞳の色を変えただけで俺を騙せるとでも思ってたのか。」

掴んでいた手を離して会長は立ち上がると視線だけを九重に向けた。


「……綾人。バケツ持ってきて。」 


九重が指示を飛ばしているのを
他人事のように思いながらそれを見つめ続ける。


後ろに立っていた黒マスクの生徒がバケツを持って戻って来ると会長は


「やれ」  


淡々と告げた。



____瞬間。



心臓も凍る様な冷たい水が落ちてきた。
ポタポタと髪の先から零れて滴る雫を見て、バケツをひっくり返されたのだと認識した。


「やっぱり髪は鬘だったか?__________それで、認める気にはなったのか?」

その問いに答えることなく
視線だけを会長に向ける。


「お前が認めるなら『最後のゲーム』でもしようか。けど、認めないなら話は別だ。」


静けさだけを纏っていた親衛隊の空気が劇的にかわったのを物ともした様子もなく会長は、九重に視線を向けてバケツを持ってくるように促して


「続けろ」


踵を返すとこちらに一切視線を向けることなく
2階席へと繋がる食堂の階段をのぼっていく。
あげた視線の先、階段の手すりに背を預けるあの蛇のような目をした人と目が合った。


_____チェックメイト


その人は
音にならない言葉を紡いだ。


__________終わりや


その人との交わる視線を遮るように
九重が目の前に立ち塞がった。


「会長様は、優しい人ではない。肝に命じておくといいよ。………綾人」



再び頭から落ちる水滴の雨、身体をつたう冷たい滴は、体温を徐々に奪って凍えていくけれど
何も思わない他人に何をされようとも何とも思いはしない。


反応を一向に示さない俺に焦れてか
九重は、一瞬だけ考え込むような仕草をしたあと口だけで笑んだ。


「綾人。その腕輪壊せ」

無表情に近づいてくる黒マスクの生徒に無意識に後ずさりをするが簡単に押さえつけられる。
手加減など知らないように引きちぎろうと無理矢理に引っ張る。


「……めろ、触るなっ」

手首に体重をかけるようにして押さえつけられ
身を捩ってその拘束から逃れようとするがビクともしない。

「………っっ触るな!」


ブチリと腕輪が引きちぎれる音と
パラパラと音を立てて鈴が落ちる音が響いた。


「………ぁ」

九重が他の生徒に何かの指示をしていることも
耳に入らなかった。
ただ、壊れた腕輪だけが俺の意識を持っていった。


3度目に身体を巡る底冷えするような水は酷く冷たい気がした。


__________冷たい、寒い。


「………ざけんな、」


何処か遠くへと意識が持っていかれそうになっていた時だった。


カランカランと何かが音を立てて落ちた音とべちゃりとへこんだ様な水の音が響いた。


「これは一体、どういうことなのか説明して頂いてもいいですか。唯賀駿生徒会長」


転がってきた空のバケツを視界に入れると、その声の主の方へと視線をあげた。










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