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chapter6
微笑5
しおりを挟む「そんじゃあ、約束。守ってもらおうか、新入生」
河井は携帯を手にとって
何処かへとメールを打っているようで
一通り終わったのか、携帯をぽっけにいれると
「……何をされても、口を噤めよ?」
指の背で頰をするりとなでるとそう告げた。
「まぁ、俺は可愛い子が好みだけど、たまにはお前みたいなのを相手してみてもいいと思うわけよ。気分が乗ったら、痛めつけるのやめてやってもいいぜ」
試すような視線を向けられて
トントンと唇を指す仕草を見て
視線をそらすと繋がれている手錠へと向け
態とらしく、腕を揺らす。
「近づいて貰わなきゃできないと思うんですけど」
「 ……面倒くせーな」
頭上で腕をついて覆いかぶるようになった姿勢で
顎で示して急かしてくるそのピアスをつけた生徒に
内心で嘆息した。
その近くなった距離を縮めようと
顔を近づけると、目の前の人は愉快そうに目を細めた。
「目、閉じて下さいよ」
「注文の多い奴だな」
意外にもすんなりと瞼を閉じた
その人の薄い唇に体温が重なると同時に
ツプリと歯をたてる。
「………っ!何しやがる!」
「あぁ、あんたが誰だか分かりましたよ。屋上で一発で吹っ飛ばされたひょろそうな先輩」
瞬間、開けられた瞼とともに
鋭い拳が頰を殴った。
口の中が、切れたのか鉄の味がする。
その拍子に飛んでいった眼鏡がかちゃりっと音を立て
河井はチッと舌打ちをもらした。
「おまえ、マジで。痛めつけてやんねぇと俺の気がすまねぇわ」
胸ぐらを掴みあげられ、壁へと押しつけられ
唇を重ねられる。
気道が上手く確保できない状態で
這い回る舌に逃れようとするが翻弄されて、息が出来ず
悶え苦しむ。
「………っは。ケホッ!ぁ、はぁ。」
「こんなんですむとおもうなよ?後、2人はこっちに呼んだからな。それまで、精々頑張るこったな。次は、ちゃんと痛がって啼けよ?」
前髪を鷲掴んで、引き上げられて
痛みで顔を引きつらせるが
動きのない河井に視線を向けると
「………っおまえ_____。………………誰だ、っ。」
そのピアスの生徒は、驚きにも困惑にも取れる表情で
その台詞を吐いた。
その台詞に、俺も困惑していると
「悪いが、次、啼くのはアンタだよ。先輩」
第三者の声が上から落ちてきた。
それが、誰から発せられたものか理解する前に
ピアスの先輩が壁に打ちつけられて伸びていた。
視線を上へと向けると、そこに立っていたのは
荒谷新だった。
「……何でここに」
「それは、こっちの台詞だって」
荒谷はしゃがむと何処から出したのか
箱ティッシュから数枚抜き取り口を拭ってきた。
されるがままにされていたが
異様な状況に荒谷に声をかける。
「何して……。とゆうか、何でここに?鍵は」
「口を拭ってる。お前が、あのすんごいでかいひとと少しちっさい人に連れてかれるの見てて、かと思ったらその部屋にコイツが入っていって、だから、俺も入った。鍵は、協力してくれた人がいる。」
荒谷が捲したてるように喋ってから
暫しの沈黙が落ちた。
「俺は、考えても分かんないし。だから、決めたよ。決めた。」
だけど、その沈黙を破ったのも、荒谷の快活な声であった。
繋がれている手首を労わるように撫でると
優しげな瞳を投げかけてきた。
「俺は、利用するよ。脅してでも構わない」
「さっきから、何を言って」
「佐藤蒼。__________俺はお前の秘密を知っている。」
荒谷は労わるように撫でていた
手首に爪を立てた。
「お前は、佐藤蒼じゃない。そうだろ?__________春。」
まるで、それは__________
心臓に爪を立てられているかのような心地だった。
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