花は何時でも憂鬱で

青白

文字の大きさ
上 下
89 / 178
chapter5

白猫の跡2

しおりを挟む


「ん?」

足元に視線をやるとこの前の真っ白な猫が
トテトテと後ろをついてきていた。


お面をあげて、その猫を撫でると
甘えるように擦り寄ってきた。


「お前、飼い主はいないの。」

俺の質問に答えるようににゃーと鳴いたその猫の
顎をグリグリと撫でてやる。

「浮気者な猫だな」

「たしかに、ほんとそろそろ怒ってもいいよな」

突然、後ろから差した影に驚いて目をみはると
声をかける前にその人はしゃがみこんだ。

「高いところに登って降りられなくなったり、迷子になったの忘れたのか」

あからさまに深いため息をついて
その白猫に悪態をついてるのにこの白猫は気にしたそぶりもなく毛づくろいを始めた。

「……てゆうか、眠い」

つけられていたお面を外して、瞼を押さえて
うつらうつらとしている様は今にも寝てしまいそうだ。

「あの………大丈夫、ですか。」

「うん……全然」

「どっちですか」

「眠いような眠くないような、微妙な気持ちだな」

寝ぼけ目でジトッと見つめてきたその人の顔に
見覚えがある気がして俺も見つめ返した。

「アンタ、俺と会ったことあるか?何処だっけ?」

「さぁ。分からないです。」

「うーん。でも、絶対どこかで見たんだよなぁ」

顔を近づけられて、壊れ物を扱うように
頰を両手で挟まれる。

「てゆうか、顔みづらいな。」


何でもないように前髪をサラリと流されて
見つめられる状況に顔を逸らし
その手から逃れるため、後ろに退こうとすれば
手首を掴まれて引き寄せられた。



「うーん?分かんないな。けど、」

頰に添えられていたままの右手が、目の下をスルリと撫でる。


「好きだよ。俺は、君の瞳(め)。」

「っ、寝ぼけてるんですか、冗談でも言っていいことと、」

「………寝ぼけてませんー。それに、俺は嘘はつかないよ。」


その人の視線から逃れようとしても、その度に、悪戯っ子のように無邪気に笑いながら下から覗き込まれて、ふにゃりと笑ったその表情に言葉が出てこなくて、その人から視線を外す。



「……ぁ。」

「ん?」


図らずも視界に入ってくるこの人の顔を見て
あの風紀委員長だと気づいた。



左手が頰に戻されて、覗き込むようにして
視界の真ん中に入り込んでくる人にもう諦める。
それでも、目だけは合わせなかった。


「何か、耳熱い。」

そろりと頰から耳へと指先を這わせた委員長が
寝ぼけた声で告げた言葉に反論した。

「熱くないですよ。」

「いや、熱いし何か赤い。」

「第一、こんな暗いところじゃ見えません。」

祭りの屋台から離れた寮への帰り道に
しゃがみこんでいる、この場所は白い街灯がポツリポツリとあるだけだった。

「いや、俺は目いいし、それに絶対熱い」

「熱くないです。」

「ふーん。じゃ、俺の目をみて言ってみて。」

意地悪めいた声色で告げられた言葉を取り合わずにいて、暫くしてから捉えられていた頰も解かれたことに、安堵していた俺はあの白猫は目が合うと長い尻尾をゆらりと揺らしてベシッと風紀委員長へと攻撃した。


「……ったい!リア、俺、何かしたか?」

鼻を押さえながら白猫に構う風紀委員長を見て
小さく笑った。

白猫の頭を柔く撫でたら、甘い声で鳴いた。
それに、不機嫌になった風紀委員長に、つい、笑い声が漏れた。


「笑ったな。さっきまで真っ赤だったくせに。」

「真っ赤じゃないです。」

「あー、そうだね。ソウダッタ。」

「性格悪いですね。」

「そんなこと、言われたの初めてだ。くくっ、でも、不正解です。俺は、性格いいんだよコレが。」

「性格いい人は、そんな事を言わないと思いますけど」

「えー。酷いなぁ。_______あぁ、じゃあアンタだけには性格悪くなるんだよ、きっと。だってなんか……泣かしてみたくなる。」

「……は?」

風紀委員長は、眠たげな瞳をさらに
とろんとさせて無邪気に笑った。


委員長が腕を背中へと回して、んーと唸りながら
感触を確かめるようにぎゅっと腕に力がこめられて、しゃがんでいた体勢が崩れて尻餅をつく。

「何ですか、。離してください。」

「今夜の……抱き枕に丁度、いいかと思って」

首筋に顔を埋められて
髪がさわさわと首を撫ぜる。

「抱き枕……って。」

「細っこいし、何か………甘い。」

「ふざけてないで………離れっ……!」

委員長が喋るたびに首をくすぐるのに身をよじって
くっついている委員長の身体を押しのけようとした時だった、委員長の全体重が傾けられ地面に背を打ちつけた。


「……いっ。」

その衝撃に声をあげたはいいが
一向に上から退こうとしない委員長を不思議に思い
視線をあげると寝息をたてて眠っていた。


「………厄日だ。」

目元に腕を当てて、自然と溢れた声には疲れが滲んでいた。


風紀委員長、しかも顔を見られた。
こんな所に置いて行ったら後で、なんて言われるか_____。



選択肢は、1つしかなかった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ヤクザに囚われて

BL
友達の借金のカタに売られてなんやかんやされちゃうお話です

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

柔道部

むちむちボディ
BL
とある高校の柔道部で起こる秘め事について書いてみます。

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

処理中です...