84 / 178
chapter5
紛擾
しおりを挟むNo side
時を遡って
学園で祭りが開催されて
ほんの少し経った12時頃
コテージにいる紅組の穏やかな流れが変わりつつあった。
穏やかな海のよく見えるコテージで
いつもと同じ制服を着たまま都築は唯賀を見ながら、溜息をついた。
「駿、いい加減。機嫌をなおしてください。せっかくの賞品なんですから。少なくとも、その不機嫌オーラを消してください。」
「別に、誰も見てないから構わないだろ。」
「貴方がそんなこと言うとは思ってもみませんでした。いつも、気を張っている貴方が。」
都築の発言に
ジロリと鋭い目つきで睨みつける唯賀の視線をものともしない様に和かに笑って流し、都築は言葉を続けた。
「いつでも見られていることを忘れないでくださいね。生徒会長のその座が常に狙われ続けていることを。」
「それは、お前も入ってるのか。悠介」
「さて。それは、どうでしょうか。」
いつもの完璧な笑みを貼り付けて
都築は答えると、唯賀は視線を外して流れては波を作るを繰り返す海を眺めながら答えた。
「なんにせよ、俺はまずやらなきゃいけないことがある。」
「正体不明の人物のことですか?」
唯賀の言葉を受け、尋ねた都築は
唯賀の瞳に宿るひどく虚ろで黒い焔を認めながら問いかけた。
けれども、帰ってこない答えに
ため息をついて言葉を続けた。
「他に頼りになる証拠でもないんですか。」
「全くないな。白い髪と蒼い瞳をしてたってことしか、それもちゃんとみたのは一瞬だけ。」
「おそらく、変装してたのでしょう。その容姿も本当の物だとは言い難いですね。それでも、そんなに気になるなら彼に頼んでみてはいかがですか。」
「彼?」
「彼ですよ。_____月城宗司」
「アイツか。」
重たげに口を開いた唯賀が僅かの溜息を漏らした時だった。
都築の携帯が音を立てて鳴ったのは。
唯賀は、いつも憮然とした態度の都築の表情が曇っていくのを見ながら、ただ無表情に見つめていた。
「すいません。駿、私は学園に戻ります。」
唯賀に有無を言わせる間も無く
立ち上がった都築の後ろ姿が完全に見えなくなってから、席を立ち上がり自室に戻ろうと足を進めた。
「寝るか。」
出発前夜のゴタゴタした動きのせいで
ほぼ、寝ずにきた唯賀が宮路保有のホテルのフロントに来た時だった。
いつもとは違う厳しい声色をした校長の声を聞き取ったのは。
「西方くんもやってくれる。」
ぎゅっと杖を握りこみ
眉間に皺を寄せる校長を唯賀は目に留める。
「それは、一体。どういうことですか。宮路校長」
「唯賀くん。」
「西方がどうかしたんですか。」
校長は、少し躊躇った様に髭を撫でた後
重い口を開いた。
「西方の子が学園にくるそうだ。今日」
その唐突な内容に
唯賀も形のいい眉をひそめた。
「西方の……?」
「まるで、やり直しのようだね。全員、揃うか。」
校長の細められた瞳を見ながら
唯賀も目を細めた。
「西方燐の子。」
「私は、戻らなければいけない。後のことは、頼めるかい。」
「その心配はないですよ、校長。その件は恐らく悠介があたる。もう、出発したはずです。」
「都築くんが?」
唯賀は先ほどの都築の様子を
思い出し、校長を見据えながら答える。
「悠介にあんな顔をさせるのは家関連だけですから。このタイミングなら、間違いないでしょう。」
唯賀のその言い分に校長も頷いて答えた。
「今回は、都築くんに任せよう。本来なら任せたくはないが、ね。」
「……西方、彼が来るなら荒れますね。」
「唯賀くん、気をつけるといい。どんなに美しかろうと棘はつきものじゃからね。まだ、棘のある花か、ただの可憐な花かは分からないが。」
「どういう意味でしょうか。」
「昔、突如現れた西方燐に多くの生徒が魅入られてしまった。西方燐は全てを壊し、春田叶多はそれを止めようとし、そして_____君の父親、唯賀勝羽は今でも後悔をし続けている。」
「さっきから、何が言いたいんですか。」
「私から言えるのは、君は恋をするだろうってことだね。あの堅物会長の唯賀くんが~!このこのぉっっ!!」
呆れたようなため息をついて
校長を一蹴した唯賀は、自室へと足を運んだ。
「もしも、あの時と同じならば、確実に、西方宵に恋をする。そして、君は____。」
校長の口からはそれ以上、何も発せられなかった。
それは、ありえない未来だから。
そして、過去と未来は違うものであると信じたいから。
0
お気に入りに追加
99
あなたにおすすめの小説

婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。


そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる