花は何時でも憂鬱で

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chapter5

夜の足音7

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「蒼くん!ヨーヨーやろっ!あっ!型抜きもっ!ちょっと待って、やっぱり、射的やりたい!!」


さっきまでの作られた表情は見る影もなく
楽しそうにあちらこちらへと引っ張られまくる



弟がいたなら
こんな感じだったのだろうかと
同い年の矢井島を見ながら思う。


いや、“普通”の兄妹であったなら
経験できたことなのかもしれない。


どうしようもない事を思っていたら
矢井島がいなくなっていることに気づき
お面を上にあげて辺りを見回すが、いる気配はない。


「矢井島……?」

「くらえっ!」

「、つめ、た、っ!」

何処からか飛んできた掛け声とともに
顔に冷たい何かがかけられて
声をあげた。


顔にかけられた何かを指で拭うと
水滴のようなものがついていて
目の前には、水鉄砲をこちらに構えた矢井島がいた。


「へへっ。僕とデートしてる身分にも関わらず、楽しくなさそうにした罰だよ。蒼くん。」

「どんだけ、自信過剰なの。」

「何言ってるの。自信過剰なんじゃなくて僕が可愛いから当たり前なの。」

「はぁ。」

「これ以上、つまんないって顔したら水鉄砲かけちゃうからね。」

勝ち誇ったように笑う矢井島は
そう言ってのける。


それから、クタクタになるまで歩かされ連れまわされて
時間が過ぎるのも忘れるほどだった。



そして、時計台の針が6時を指し
鐘を響かせた。


「この後、天ちゃんと一緒に回ることになってるんだけど。蒼くんも一緒に回る?」

「いや、遠慮しとく。」

「えぇー、いいじゃん回ろうよ!」

「あの人“イヤに勘が鋭い”ならやめといた方がいいだろ?」

「あー、それもそっか。それじゃあ、また、明日ね?」

どこか名残惜しげに手を振りながらも
矢井島は、楽しみなのを抑えきれないのか
軽やかに駆けて行った。


「さてと____。」


あの白髪の先輩を探しに行くのもいいが
お面をつけているオプション付きのお祭りでは
見つかる気がしない。
明日の片付けの時にタイミングを見計らうか。



今日は、こうしていてもしょうがないかと
寮へと帰ろうと足を向けようとしたが
その最中に、人だかりに当たり足止めをくらう。



お面を上にずり上げて
その様子を覗くと一緒に綿あめを売っていた
赤パーカー先輩が剣呑な雰囲気の2人に詰め寄られており
その3人を取り囲むようにして
円状のひとだかりができていた。



「ちょっと。佐伯良これは一体どういうことなの?」

「どういうことって言われても……妄想的な?」

「無断でこんなことしてていいと思ってるわけ。」

「これ結構面白いんだよ。今回は、生徒会の会計様と隠れ美人の一匹狼系の恋愛モノで攻めて見ました!!」

その詰め寄った生徒が見えるように赤パーカー先輩は
本を裏返してパラパラと捲る。

「面白いとかは関係ないの!!」

「えー、今回は健全モノだから安心だよ!」

「だ~か~ら~っ!」

「あ!そうだ、リクエストある?次回作の参考にしようかと思ってるんだけど。」

「リクエスト……?」

「うんうん、あ。次は、君たちをモデルにしようかなー。」

「え、僕たちですか?」

「うんうん。かわゆい子が多いしね~?」

いつのまにか丸めこまれてることも知らずに
その詰め寄っていた生徒2人は
満更でもない様子で赤パーカー先輩の話に聞きいっていた。


「へ~ぇ。その話の続き俺も聞きたいな~。ねぇ、良ちゃん~?」

随分と久しぶりに聞いたその軽い口調の人物へと視線を走らせる。


すると、さっきまで赤パーカー先輩へと
詰め寄っていた生徒たちは身を固くして
すぐにその先輩、会計___美波京の元へと擦り寄る。





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