花は何時でも憂鬱で

青白

文字の大きさ
上 下
54 / 178
chapter3

桜の日の下で

しおりを挟む




寮へと繋がる桜並木の道すがら
歩いていると何処からか楽しげな声が聞こえてきた。


「うわぁ~。みーちゃん。見てよ!桜だよ~!」

「あぁ。そうだな。」

「白(きよ)、あんまり走ったら転ぶぞ。」

「だって、綺麗なんだもん。ねぇ。みーちゃん、また一緒に桜みようね。」

「あぁ、そうだな。散る前にまた、来るか」


月が仄暗く照らす夜道の少し先に
仲睦まじく歩く2人の姿を目に留める。
桜をキラキラとした視線でふり仰ぐ真っ白な髪をした人物とその人を愛おしげに見つめる赤みがかった髪の背の高い人の姿を目にして一対の雛人形のようだと思った。


「みーちゃん、これからもずーっと一緒にいてくれる?」

「当たり前だろ。」

赤みがかった髪の人が背の低い真っ白な人の髪を優しく撫でる。


桜降りゆく道の真ん中で
穏やかに朗らかに笑いあう姿に口元がほんの少しだけ緩むのがわかった。

「少しだけ……羨ましい気がするのは何でかな。」

いや、分かってる。
それは、多分、きっと____あの2人が言うような当たり前はありえないから。道は1つしかないからだ。
こんな気持ちなるのは。


「桜のせいなのかな。いつから嫌いになったんだっけ。」



散っては落ちてを繰り返す、桜を見上げる。


昔は、好きだったのに。大好きだったのに。


いつから、桜を嫌いになったんだろう。


いつから、花は嫌いになったのか。



「もう、思い出せない。」

サァッと強い風に攫われた花びらが
舞うのを感じていたら、いつのまにかあの綺麗な一対の雛人形は消え去っていた。


足を寮へと運ぼうとした時。
目の前に唐突に荒谷新は現れた。


「校長先生との話、終わったのか?」

「何で、ソレ」

「あの先生が。教えてくれた。」

「それで、何か用事?」

「佐藤。_____花は、好きか?」

「別に。とゆうか、何でそんな質問をするわけ?」

「いや、ただ何となく気になっただけだよ。………変わらず、好きなのか。それとも、違うのか。気になっただけ。」

「……………変わらず、?」

「あ!………いや、アレだよ!俺は、泥棒ネコだっっ。」

「は?」

「いや、うん。俺は………泥棒ネコだよ。」

そんな迷いのない真摯な瞳で『泥棒ネコ』だなんて言われても困る。



1メートルほど空いていた距離を詰められて
自然な動作で手を取られると指先に口づけを落とされる。


「Souviens-toi s'il te plaît。」

「………!な、………にしてっ、」

荒谷に取られている手を引いて背後に隠し
身体も一歩後ずさりながら言葉をこぼす。


「いや、俺。ハーフだからさ。」


ふんわりと微笑むその姿に
目眩がした気がした。
纏まらない思考がぐるぐると回り続ける。


「そんなの聞いてない。とゆうか、答えになってない。」

「あっちでは普通に挨拶だったから。つい、ね。だから、ごめん。許してください。」

「挨拶って、今日、初めてあったわけじゃあない。」

「あ!……そういえば、そうか。んー、でも。俺は今、確信できたよ。だから、この挨拶でいいんだ。」

「………意味がわからない。」

「まぁまぁ。なぁ。………佐藤、俺とさ。」

離した距離を詰められて
真剣な眼差しで見てくる荒谷にいつもとは違う何かを
感じた。


「…………俺と、勝負(ゲーム)しよう。ちゃんと、正式な勝負を。」

「勝負(ゲーム)?」

「そ。俺が勝ったら、そうだな。_____側にいても嫌がらないで。俺をちゃんと見ていて。」



綺麗な翠色の瞳の奥がゆらりゆらりと揺れているのを
見つめながら
その瞳に見つめられながら海のようだと思った。


会った時からずっと、荒谷は真っ直ぐで純粋でどうにも眩しい。
優しく波打つ水面がその瞳に映された気がした。

「……また、ダメ?それとも嫌か?どうしても」

優しい優しいその色に絆されてしまいそうな
気がしてならない。

「いいよ。やろう、勝負(ゲーム)」

「ほんとに?」

「だから。やるよ。」

一瞬、荒谷は驚いたように目を見開いたが直ぐに穏やかに笑った。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

息の仕方を教えてよ。

15
BL
コポコポ、コポコポ。 海の中から空を見上げる。 ああ、やっと終わるんだと思っていた。 人間は酸素がないと生きていけないのに、どうしてか僕はこの海の中にいる方が苦しくない。 そうか、もしかしたら僕は人魚だったのかもしれない。 いや、人魚なんて大それたものではなくただの魚? そんなことを沈みながら考えていた。 そしてそのまま目を閉じる。 次に目が覚めた時、そこはふわふわのベッドの上だった。 話自体は書き終えています。 12日まで一日一話短いですが更新されます。 ぎゅっと詰め込んでしまったので駆け足です。

もういいや

ちゃんちゃん
BL
急遽、有名で偏差値がバカ高い高校に編入した時雨 薊。兄である柊樹とともに編入したが…… まぁ……巻き込まれるよね!主人公だもん! しかも男子校かよ……… ーーーーーーーー 亀更新です☆期待しないでください☆

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

処理中です...