花は何時でも憂鬱で

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chapter3

突然の要求

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【_____場面が変わり、1年E組の教室にて】


「なぁ。佐藤」

前の席の椅子に横向きに座りながら
荒谷はいつもと同じように話しかけてきた。

「なに。」


妙に耳に響く秒針の音。
昼休みが始まって5分が経とうとしていた。


どこかピリついた教室、クラスの三分の一が一斉にいなくなり困惑と緊張のようなものが教室の中に漂っていた。



その三分の一が消えた理由が
何となく分かってはいるから
落ち着こうにも落ち着けるはずもなく
手の中の本も読む気にはなれなかった。

「なぁ?お前さ、何か変じゃないか?」

「何が」

「……上手くは言えないけど、何か変だ。」

その言葉を言い終えた荒谷は
身体を動かしてじいっと視線を向けてくるが
その正体は掴めなかったらしい。

「もしかして、何かあったのか?」

「別に、何も。」

「なぁ。前から一つ聞きたいこ、」

荒谷が何か言いかけて
不意に視線を合わせた時だった
廊下から悲鳴のようにも歓声のようにも聞こえる
声が響きわたったのは。

「八色様と九重様がいらっしゃってる!」

「何で何で?」

「それに、広報の瑠夏様と会計の美波様までいらっしゃってるよ!!」


騒がしく廊下を覗こうと
教室に2つしかないドアに集まっている
その姿に荒谷は瞳を瞬かせた。

「何の騒ぎだ?」

「……さぁ。」

どんなやり方で探してるのかは知らないけど
教室からいなくなっていたなら、より怪しまれる。
それなら__________。


このまま、やり過ごすのが無難だろう。


それなのに、


「この騒ぎに動じない子とかめっずらしいねぇ~。俺、思わなかったわー。あははは、これは研究対象もんだよほんと。メモメモっと。」

事を面倒にすることが向こうからやってくるのは
どういうことなんだろうか。

「誰ですか。」

「えぇー。知らないの?!俺、先生なんだけどなぁー。あー。そうダァー。佐藤蒼くんって子、連れてこいって言われてんだけどさぁー、知らない?連れてかないと給料減らすって言われちゃってねー。マジでブラックだよねぇ~。やばくない?あははは。」

「佐藤蒼なら、目の前にいますよ。」

「えっ、マジでー。ウケるぅー。」


俺と荒谷の間にある机に頬杖をついて
ゆるゆると話し、ふにゃりと表情を崩す先生は現れた。



荒谷の返した言葉にもゆるく笑って
荒谷のその視線を追ってか
俺に焦点を合わせたその先生は、流れる動作で俺の手を取ると有無を言わさずにそのまま引っ張られる。



 その先生について廊下に出ると耳を塞ぎたくなる様な
騒がしさに包まれており、そのせいか廊下の奥、突き当たりの階段の踊り場まで来るとようやくその先生は
くるりと振り返った。

「佐藤蒼くん、であってるよね?」

「はい。あってます。」

「この階段、下がってさ、3階の渡り廊下を歩いたら
北館に行けるのは知ってる?」

「えっと。はい、一応。」

「じゃあ、そこの最上階には行けるよねぇー?」

「最上階って……校長室ですよね。」

「うん。そうそう、エレベーターでヒョイっと行ってすたっとつくからパパッと行ってくれたら。俺は嬉しいよー。何せ俺の給料がかかってるからねぇー。」

「えっと、何で校長室に? 」

「何でって、理由は知らないけどね、うちの校長が君を呼んでるから。俺が呼んでこいって頼まれたんだよねぇー。俺は、頼まれた時ドヨーンって感じだった、だからいってくれないと俺、気持ちがズーンってするから。行ってね。」

「いや、でも……」

「えー。あっ!もしかして、あの何だっけ?あ!そうそう、シンエイタイの件?それなら、俺がテキトーになんとかしとくから早く行ってくれないと。……俺の給料」

あからさまに落ち込んだそぶりを見せる
その先生に気圧されて俺は、後ろ髪を引かれながらも校長室へと向かった。


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