花は何時でも憂鬱で

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chapter3

消えた情報

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八色天(親衛隊総隊長)side



九重ひらりから
横目でも分かるくらいに
ピリついたようなイラついたような雰囲気が
伝わる。


廊下に誰がいるのかは分かってるけど
助けることは難しいなぁと思っていた。


朝、早くに僕の部屋に駆け込んできた時の
嬉しそうな顔を思い出す。


「聞いてよ!天!会長様から、頼まれ事したんだよ!!初めて!俺 すっごく嬉しいんだ。」

無表情と名高い九重ひらりとは思えないほどの
花がほころんだ様な笑顔で眠気も、朝早くにインターホンを押してきたこともどこかに飛んでいった。



「美音、ごめんね。」


誰にも聞こえないように
ポツリと言葉をこぼした。

「誰ですか?」

もう一度、刺すような声色で廊下に向かって
飛んでいったひらりの言葉から少しして
控えめに開けられたドアからひょっこりと美音が顔を覗かせた。


「天ちゃん、いますか?」

リスのような小動物を思わせる
怯えたような表情で上目遣いにこちらにチラリと
視線をおくってくる。


その庇護欲を感じざるを得ない動作に
隊員達の緊張が少し和らいだのを感じた。


「あれって、今年の一年の?」

「可愛いって噂の?」

「でも、天ちゃんって。まさか……。」

「そんなことより、何でここにいるの?」

コソコソと繰り広げられる噂話と奇異な視線を
一瞬で消すように困ったように微笑んだ。

「えっと、ごめんなさい。天ちゃ、……じゃなくて。八色先輩に用事があって……」

口調がたどたどしくなっていくのと同時に
みるみるうちに美音の瞳が潤んでいくその様子に、隊員たちはついに押し黙った。


「その用事というのは?」


隣に座る唯賀会長の親衛隊隊長であるひらりからの疑念の視線にふわりと笑って答える。


「ごめん。昨日、親衛隊の件について矢井島様に聞きにいったんだよ。その返答だよね?」

そうやって、目配せをすると
美音は、頰をかきながらも、はい、と控えめに答えた。


まぁ、実際、親衛隊を作りたいという声があがってはいたけれど、嘘には違いないから心の中で謝りながらも
久しぶりの会話ともいえない美音との会話が、少し嬉しかった。


「ひらり、ごめん。僕のミスだ。矢井島様は関係ないからお返しして差し上げていいよ、」

「それは、できない。」

「何で?」

「今の会話が聞かれてないとは限らないし、いくら総隊長の知り合いだったとしてもそれが信用できるかどうかは話が違うから。」

迷いのない瞳に
これはダメだと思った。
こうと決めたら、誰に何を言われようと変えないのが
ひらりだ。

「……分かった。」


美音と同じクラスの隊員がいたため
昼休みまでの間、監視として美音につけることになった。
廊下でその説明をしてから
難しい顔をした美音の頭を撫でて
ごめんと伝えた。



「天ちゃん、何でそんな難しそうな顔してるの?」

「んー。ちょっと、面倒ごとがあってね。」

「面倒ごと?」

美音の監視の任務を任された隊員に聞こえないような
小声で美音に伝えた。

「聞こえちゃってたとは思うから美音には教えてあげる。昨日のスクリーンの白髪の子は知ってるでしょ?あの映像が消えたんだ。跡形もなくね。その上、名前も分からないんだ。だから、白髪と蒼い瞳だけを頼りにしらみつぶしに探さなきゃいけないんだよね。」

「…….消えたって。何で?ここのセキュリティーは厳重って聞いたけど。」

「それは、僕にも分かんないんだ。けど、まぁ、美音が気にすることはないよ。」



美音の顔が更に難しそうな表情に変わったのに気がついて何を心配してるのかは知らないけど
また、頭を撫でて少しだけ屈んで視線を合わせる。


「美音、また話せる?」

「また会った時にね。」

「僕に、会いに来てくれないの?」

「……別に、会った時でいいでしょ。天ちゃん。」

「うん。ごめん。そうだね、でも、少しだけさみしいから会いにきて、ね?約束」

指切りの小指を出すと
美音も観念したのか小指を出してくれたので、指切りをして別れた。


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