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chapter2
新入生歓迎会
しおりを挟む「暇だな。」
簡単に作られた木のやぐらの上で
椅子に座りながら
赤組代表の唯賀は退屈の声を漏らした。
「後、15分もないんですから。我慢してください。」
唯賀の横に立ちながら
都築は唯賀をたしなめる。
「だから、代表は断ったはずだ。俺がやった方が断然早いだろ?」
「確かにそうですけど。生徒会長は代表って決まってるんです。だからおとなしくしていて下さい。駿。」
「分かってる。」
残り15分とタイムリミットが迫る頃
赤組代表の唯賀駿を守っている
部隊も気が抜け始めていた。
それぞれのチームに与えられた
やぐらは木製で作られている。そして、そのやぐらを登るためには正面側の階段を使うほかない。
けれど、この正面側を攻めてくるものはほとんどいない、また、いたとしてもやぐらの近くにいる部隊によって
直ぐに捕まる手筈となっている。
所謂、鉄壁の守りだ。
「奇襲です!!」
そんな緩んだ雰囲気の中
突然、緊張の糸が張り巡らされる。
「誰だ?!」
「生徒会会計美波様!」
「それから、黒河先生です。」
「何で、あの方たちが?」
「いいから、捕まえろ!!」
唯賀と都筑もやぐらの上からその様子を見ていたのだが
すぐに捕まると思っていた2人が脱落する気配はなく
次々に赤組の生徒たちが脱落していく。
「何だ。」
「さぁ。分かりかねます。ちょっと、下を見てくるので待っていてください。くれぐれも、ここを動かないで下さいね。」
「あぁ。」
都筑が
唯賀のそばを離れてからすぐの事だった。
タンと足音が鳴った。
「何だ、もう戻ったのか?」
唯賀が暇でしょうがないと下げていた視線を上げる。そして、そこには白い髪を晒した人物が目の前に立っていた。
「誰だ?」
突然、現れた人物を唯賀は凝視し続ける。
「さて、誰でしょう?少なくとも言えることは
……。会長様、その鉢巻を頂戴しにきたってことですかね。」
「そう簡単にできるとでも思ってるのか?」
「えぇ、それはもう簡単に。」
そう言って、白髪のカツラを被っている春は椅子に座る唯賀のその右腕に絡まる赤い鉢巻を掴む。
「お前が近くに来るっていうことは、俺もお前の鉢巻を取れるって意味になるんだが?」
唯賀は春の首に下げられている鉢巻を
グイッと引っ張り
その拍子に春は唯賀の座る椅子の隙間に
片足を乗り上げる。
さらに縮まった距離からお互いに視線を交じらせあう。
「見たことない顔だな。」
「僕もですよ。会長様」
「俺を知らないはずないだろ。つくならもう少しまともな嘘をつくんだな」
「僕は興味がない人の顔は覚えない主義なんです。あぁ、ちなみに。ここにいるのは赤組代表の会長様だと決まっているので覚えていないフリではないですから。それとも、違う方でしたか?」
薄く弧を描く軽薄な様子に
唯賀の顔はピキリと歪んだ。
「お前、いい性格してるな。これを引っ張ればお前はゲームオーバーって分かってるのか?」
「そちらこそ、これを引っ張れば貴方のチームが負けだとお分かりですか?」
お互いに右腕に首に絡まる鉢巻をクイっと引っ張りながら
交わりあう視線
迫り来る瞬間が近づいて
残り5分となった時だった。
「会長様、図らせて貰いますよ。
貴方の器を。」
「は?」
「貴方はどちらを選びますか?この学校での“死”かそれとも、会長としての“死”か、好きな方をお選びください。」
「お前は、さっきから何を」
その唯賀の言葉は
ジジジジという耳障りな音でかき消された。
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