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指輪の意味
しおりを挟む「春ちゃん、大事にしなさい。
これは愛よ。伝えられない愛の代わりになってくれるわ」
あの指輪は母さんが
しゃがみ込んで俺の頭を撫でながら
そう言って、5歳の誕生日に渡してくれたもの。
その時のことは、覚えてはいないが
そういった、母さんの瞳は悲しげに揺れていたのを今でも覚えている。
そして、俺は
10年もの長い間、肌見放さずに身につけていたその指輪をなくした。
「ない、ない_____っ、ない!」
今日歩いた場所を。
今日行った場所を。
全て探して回った。部屋の中、教室、中庭と思い当たる所を全て探した。だけど、指輪は見つからなかった。
何処をどう探しても。
その場に蹲り、指輪だけがない
そのチェーンをぎゅっと握り込んだ。
言いようもない不安だけが
押し寄せる。
ポツリ、ポツリと降り出した
雨にも気づかずに
中庭にずっと蹲っていた。
「……何で、ないんだっ。」
アレは俺にとって1番大切なもの。
俺が、何も知らなかった頃の
幸せな記憶の全て。
父を父さんと呼べ
母を母さんと素直に呼べた頃の全てだった。
今となってはもう、呼べはしない。
呼べる資格なんて俺にはなかったと知ってしまったから。
「こんな所で何してるの。」
その人が差し出した傘の影と一緒に
差し込まれた言葉は
柔らかく
そして仄かな甘い香りが漂うような
そんなものだった。
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